第656話 自覚アリ

 俯いたレオンティーナの頬が赤く染まっていく。


「それだけじゃない。マッサ・ニャラブからの対空魔法を妨害するのに、怪我をしてただろ? 俺が治してやったやつ」


「憶えて下さっていたのですか……?」


「当然だ。よっと」


 俺はフォルティスから降りると、レオンティーナの頭を撫でる。なるべく優しげな声色に努めて。


「サラやアイリスと同じように、お前達も俺の大切な従者だ。お前達は遠慮して距離を置いているつもりかもしれないけど、それって結構寂しいんだぜ」


「……申し訳ありません」


「謝ることじゃないけどさ。お前達にはお前達の信念があるんだろうし。でもま、俺がそういう風に思ってるってことは、みんなにも伝えておいてくれたら助かる」


「はい。必ず伝えます」


「頼むぞ」


 俺は、レオンティーナの手を取って立ち上がらせる。


「さあ、出発しよう」


 再びフォルティスに騎乗しようとした俺を、レオンティーナの控えめな声が呼び止めた。


「あの、主様」


「なんだ?」


「その……」


 もじもじしながら、ショートヘアの毛先をいじっている。

 言いにくいようなことだろうか。俺はじっと次の言葉を待った。


「主様がウィッキーに要求されたことと重なってしまい、恐れ多いと存じますが……もし、私なんかを良かったと言って下さるのであれば……いつでも言いつけてください」


 なにを? と尋ねるのは野暮ってものだろう。

 俺がウィッキーに要求したことって、絶対あれのことだろうからな。

 けど。


「何か誤解をしてるみたいだな」


 やれやれ、と俺は首を振る。


「誤解、とは?」


「俺は別に、お前におっぱいを触らせろなんて言うつもりはない」


 レオンティーナははっとして、大慌てで膝をつき頭を垂れた。


「も、申し訳ありません。守護隊の一員でありながら、差し出がましい真似を――」


「違う」


「ち、違うとは?」


「触りたくないって言ってるわけじゃないだろ。もっと頭を使え」


 俺の真剣な雰囲気に、レオンティーナは恐縮してしまっている。

 しばしの沈黙の後、レオンティーナは意を決したように、立ち上がる。

 そして、俺の目の前まで近づくと、そっと俺の後頭部に触れ、自身の胸に抱き寄せた。

 やさしい抱擁だ。必然的に、俺はレオンティーナのおっぱいに顔をうずめることになる。


「これで、よろしいでしょうか。主様」


 俺は何も言わなかった。沈黙は肯定であるがゆえに。

 極上の柔らかさを堪能した頃、レオンティーナはすっと抱擁を終える。

 それから満足したような笑みを浮かべ一礼すると、ふと姿を消した。陰に戻ったということだろう。

 俺はすがすがしい表情で、振り返りフォルティスへと跨る。メイと二人乗りになる感じだ。

 レオンティーナとのやり取りを見ていたメイは、丸くした目を俺に向けていた。


「ローくんって、いっつもあんなことしてるのかい?」


 どうだろうか。


「いっつもってほどじゃないけど。まぁ、ちょくちょく」


「ふーん」


 苦笑いを浮かべるメイ。


「なんていうか。ビッチのあたしが言うのもあれだけどさ。キモいね」


「それを言っちゃおしまいよ」


 俺だってちょっとは自覚あるんだから。

 あえてやってんだよ。

 やらずにはいられない。

 そういう病気なの。


 そんなわけで、俺とメイはグランオーリスへ向かうことになった。

 急いで向かうしかない。

 ここからはシリアスにいくぜ。

 当然、これまでもシリアスだったけどな。

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