第651話 液体はどこからでるのか

「『ドリーム・リキッド』ですって……! 現代にも存在していたのですか」


 隣からレオンティーナの驚き声が聞こえた。


「あ……申し訳ありません主様」


 俺の視線を受け、はっとするレオンティーナ。


「知ってるのか? その『ドリーム・リキッド』ってスキルを」


「はい。存じております」


「どんな効果なんだ?」


「それは……わかりません」


 なんだそりゃ。

 首を傾げる俺を見て、ティエスが小さく笑みを浮かべた。


「そのお嬢さんの言うことは何もおかしくありませんよ。そういうスキルなのです。私の『ドリーム・リキッド』は」


「主様。『ドリーム・リキッド』は古い文献に記されたスキルです。ヘッケラー機関にいた頃に読んだことがあるのですが、その使い手は過去たった二人しか確認されていません。そしてその二人のスキルの効果は、まったく異なるものだったらしいのです」


「同じスキルなのに効果が異なる? そんなことあるのか?」


 俺は再びティエスを見る。


「ええ。『ドリーム・リキッド』はその名が表す通り、使用者の夢を実現する液体なのです。使用者の心の奥底に潜む渇望によって、その効果を変える」


「渇望……?」


「簡単に言えば、その者が叶えたいと願う夢を実現させるということです」


「そんなの、最強じゃねぇか」


「そんなことはありません。渇望とは無意識の内に潜む強い欲です。自身の無意識を操作することはできない以上、スキルの効果を好きなものにはできません」


「そういうもんか?」


「ええ。ちなみに私の場合、おっさんを幼女あるいは少女の肉体に変異させるというスキルになっています」


 なんでやねん。

 どういう渇望なんだよそれは。


「成程わかったでござる。その『ドリーム・リキッド』なるスキルの力で、ジョッシュ殿はおなごの姿になったでござるか」


「左様」


 ムサシの言葉に、ジョッシュは深く頷く。


「肉体の衰えを感じていたわしは、若い体を手に入れるためティエスの提案に乗ったのじゃ。まだまだ剣を極めなければならんし、昔から女体化には興味があったしの」


「ジョッシュ殿、おなごになりかったでござるか?」


 驚くムサシを、ジョッシュは一喝した。


「可憐なおなごになる。男なら誰しも一度は思い描く夢じゃろう! それを解らんと申すか!」


 ジョッシュの投げたお猪口が、ムサシの額を叩いた。皮膚が裂け出血し、ムサシの顔に赤い筋が走る。

 怒ることじゃないわそんなの。

 俺はまぁまぁとジョッシュをなだめる。


「えーとつまり? ジョッシュを女にする代わりに、クィンスィンの独立をティエスが助けるってわけか? ジョッシュしか得していないような気がするけど」


「そんなことはありません。言ったでしょう。渇望だと。私は世界中のおっさんが美少女になることを望んでいるのです。もちろん、無意識下でね」


 なんてこった。こいつもかなりの狂人だわ。

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