第560話 ゆさぶる
「座らないのか」
所在なさげに立つコーネリアに、俺はそう語りかけた。
しばらく反応はなかった。
俺達は、黙りこくるコーネリアをじっと見上げる。
「……騎士達に、殿下に対する不信感が生まれています」
絞り出されたのは、擦れた声。
「私は、どうにか弁明をと思いましたが……申し訳ありません。何も言えませんでした」
唇を噛みしめるコーネリアは、沈痛な面持ちで俯いたままだ。
場の空気は、更に重たいものになった。
セレンがこちらを見る。
一見、その目に感情の揺らぎはないように思えたが、実のところそうじゃない。
翡翠の瞳には、懇願か、あるいは催促するような色があった。決して、騎士達の反応に落胆しているわけではないようだ。
わかってる。
セレンはこんな時でさえ、コーネリアが成長する機会だと捉えているのだ。
「とりあえず、突っ立ってないで座ったらどうだ?」
俺の言葉に、コーネリアは素直に従う。
俺達は四人でかがり火を囲む形となった。
「このままでは、団は崩壊します。夜が明ける頃には、何人か脱走者が出ているかもしれません」
逃げたい奴は逃げればいいと、そう言えたら簡単なんだけどな。コーネリアの立場的に、それは看過できないだろう。
「団長のあんたが、あいつらをまとめるしかないって」
「それは、わかっています。ですが、私には人望がありません。エライア騎士団は、殿下の下に集まったのであって、私はあくまで形だけの長でしかないのです」
そして、セレンへの不信感が募っている今、なんとか保てていた組織も崩壊しかけている。そういう感じってわけか。
「コーネリア。あんたはどう思うんだ?」
「え?」
「セレンに、不信感を抱いてるのか?」
「そんな……とんでもありません! 私が殿下を疑うなど……!」
「サーデュークの言葉には、惑わされないって?」
「もちろんです。たとえ父といえども、あのような戯言に耳を貸すほど落ちぶれてはいません」
「なぜだ?」
「え?」
「あいつらが不信感を抱いてるのに、どうしてあんたはセレンを信じ切れる? その理由はなんだ?」
「それは……」
一瞬、口ごもるコーネリア。
「私は、殿下が家臣を切り捨てるような方ではないと知っています。王女としての殿下だけではなく、一人の人間としての殿下を、知っています。それが、理由です」
「じゃあ実際に騎士が死にまくったことに対してどう思ってるんだ。もっと早い時点でセレンが戦っていれば、誰も死なずに済んだかもしれないだろ」
いま俺が口にしている主張は、おそらく不信感を募らせる騎士達の言い分と似ているだろう。あえてそういう意見を言っている。コーネリアの想いを引き出すために。
「私は……」
視線を彷徨わせながら、コーネリアは再び口を閉ざす。
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