第558話 建国史

「同盟を組んでも、王国の戦力はこちらの三倍を超えていた。普通に戦って勝てる相手じゃない」


「なら、どうしたんだ?」


「作戦はこうだった。ヴェルタザールは単独で王国に決戦を挑んだように見せかけ、戦術的な撤退を行いつつ有利な地形に誘い込む。そのタイミングで、お父様達が王国を背後から急襲する」


「挟み撃ちか。上手くいけば楽に王国軍を壊滅させられるな」


「けれど、ヴェルタザール軍が誘いこみを完了しても、お父様は一行に戦場に現れなかった」


「つまり、サーデュークの軍を見殺しにした」


「お父様はわざと援軍を遅らせ、ヴェルタザール軍がすり潰されるのを待った」


「うわぁ」


「援軍を信じていたヴェルタザール軍は、最後まで勇敢に戦ったけれど、叔父様がムッソー大将軍に討ち取られてまもなく総崩れとなった。それとほぼ同じタイミングで、お父様の軍が王国軍の背後を突いた」


「それだともう挟み撃ちじゃなくなってるけど、勝てたのか?」


「勝てた。お父様とお母様が神から授かった超絶神スキルは、数倍の戦力差を覆すに足る代物だったから。最初から叔父様と手を組む必要なんてなかった」


「まじかよ」


 一体どんなスキルなのか。


「背後を突いたお父様は一気に王国軍を敗走させて、決戦に勝利した。戦争の原因となった叔父様が戦死したことで、王国内でも一悶着あったらしく、この地から手を引いた。お父様とお母様は民から英雄として称えられ、この地を統一してグランオーリスを建国した」


「それが、十数年前の話か」


「そう」


 なるほどな。

 サーデュークはその時の恨みが死後も消えず、魔王の瘴気によって蘇ったってことか。

 怨念というのは、死後さらに強まるっていうしな。

 魔王も面倒なことをしてくれたもんだ。死者は大人しく眠らせておけっての。


「セレンの親父さんは、どうしてサーデュークを謀殺したんだ? やっぱり、生かしちゃおけねぇって思ってたのか? 自分の親父を殺したくらいだし」


「それもある。それ以上に、お父様は平和を手に入れる為に叔父様を殺した。もしあの人が生きていたら、王国を退けたとしても、待っているのはこの地の覇権をかけた骨肉の争い。それを回避するため、お父様は王国との戦いを利用して叔父様を亡き者にした」


「ふむ」


 いくらクソ野郎とはいえ、自分の兄を殺すのは非情な行いだ。

 一国の王となるなら、それくらい割り切った考えが必要なのかもしれないな。


「王室の因縁に関する話はわかった。次は、今の話を聞かせてくれないか」


「もちろん」


 セレンの返事は、こころもち強い気がした。


「叔父様の言ったことに間違いはない。あたしは、この旅の中で、意図的に兵達を助けなかった」


「理由を聞かせてくれ」


「騎士達を、ふるいに駆ける為」

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