第555話 何の話
「それから、どうなったのです?」
どうやらアイリスもセレンの両親のなれそめに興味津々のようだ。ほんの少し、身を乗り出している。
「お父様とお母様が出会った戦いは、それまでは小競り合いばかりだったのヴェルタザールとメサが、本格的に戦争に取り組み始めるきっかけになった」
「どんな戦いだったんだ?」
「お父様は単独で、メサの前線基地に偵察に出ていた。国境を越えて敵拠点に近づく危険な任務」
「たった一人でか? いくら偵察っていっても、それはきついな」
「当時のヴェルタザールにも色々な思惑が交錯していたから」
「なるほど」
「メサの前線基地は警備が薄かった。お父様は好機と判断し基地に潜入したらしい」
「それで、見つかっちまったと」
「そう。お父様はちょうど入浴中だったお母様とばったり遭遇した」
「……おいおい」
なんつーか。典型的なボーイミーツガールだな。
完全に、少年漫画の主人公とヒロインじゃねぇか。
「お母様は悲鳴を上げ、お父様はすぐさま逃げ出した」
「だろうな。容易に想像できるわ」
「でも、お母様が用意した追手に、お父様は執拗に追いかけられ、国境付近で戦闘になった。お父様は一人、対してメサの追撃部隊は二十人を超えていた」
「大丈夫だったのか?」
「お父様は手傷を負いながらも敵を全滅させた」
「すごい」
「追撃部隊を退けた直後、後から出発したお母様が追い付いてきた」
「あら。一対一というわけですわね」
アイリスは目を輝かせている。
「手負いの親父さんと、無傷のお袋さんだろ? 俺的には親父さんの方を応援したいが、分は悪かっただろう」
セレンはふるふると首を振る。
「お父様は戦わなかった」
「なんで?」
「すでに恋に落ちていたから」
「ほう」
「お母様の入浴姿を見たお父様は、一目で心を奪われた」
「……同じ男として笑えないな、それは」
気持ちは痛いほどわかる。
「参考までに聞くが、当時ふたりはいくつだったんだ?」
「ヴェルタザールとメサの戦争は今から二十年以上前。だから、お父様とお母様は十六歳と十七歳だったはず」
「お袋さんはそんな美人だったのか?」
「周囲からは、母とわたしはよく似てると言われる」
「超絶美少女じゃねーか。そりゃ親父さんも惚れるわな」
やれやれ。
俺が言うのもなんだが、男ってのは悲しい生き物だな。
セレンは何か言いたげな瞳で俺をじっと見つめてくる。
「ん? どうした?」
「……なんでもない」
なんだろ。
言いたいことがあるなら言えばいいのに。
「早く続きを聞きたいですわ。姫君の父様はその場でいかがなされたのです?」
「愛の告白をした」
「あら」
「具体的になんて言ったかは、教えてくれなかったけど。でもそれが最初のプロポーズだったということは聞いた」
親父さんにとって、運命の出会いだったんやろなぁ。
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