第533話 ふわりと漂う違和感

 そんなわけで、俺達はエライア騎士団に同行してセレンの護衛を行うこととなった。

 コーネリアは部下達に指示を飛ばしながら、王族の別荘地であるメインガンという地域への旅路を再開する。

 神の山とはまるで逆方向だが、セレンの身の安全には代えられない。


 馬車を騎士達が警護し、その周辺を歩兵が固める。コーネリアは先頭を行き、俺達は彼女に随伴する感じだ。

 そんな騎士団の様子を見ていると、ちょっと気になったことがある。


「なんか、あれだな。距離感があるな」


 俺の一言に、コーネリアは敏感に反応した。


「なにがです?」


「団長と団員の間にさ。まぁ、こんな美人が団長だったら、男所帯に慣れた騎士達はやりにくいのかもしれないけどさ」


「……私が美人かどうかはさておき、部下がよそよそしいのには別の理由があります」


「それは?」


「いえ、わざわざ口に出すようなことでもありません。お気になさらず」


「ふーん」


 まぁいいけどさ。


「アイリス」


「はい」


「また後でちょっと探っておいてくれ」


 耳打ちすると、アイリスは頷く。


「ところでコーネリア。エライア騎士団ってのは、どういう組織なんだ? グランオーリスは冒険者の地位が高くて、国軍はそれほど整備されていないって聞いたことがあるけど」


「エライア騎士団は、セレン王女殿下をお守りするために結成された軍団です。王都を出立した時には千人を超えていましたが……」


「今はもう百人もいないな」


「はい。瘴気に侵されたモンスターは、私達が思う以上に狂暴でしたから」


 沈痛な表情は、彼女の内心をよく表していた。


「ですが、私は必ず王女殿下を無事にメインガンまでお連れします。このエライアの徽章にかけて」


 コーネリアは鎧の胸元に埋め込まれた木の実の紋章を撫でる。


「メインガンまではどれくらいかかるんだ?」


「このペースなら、あと十日ほどでしょうか。途中の街で休息を挟みながらになりますから」


「長いな……」


 アイリスに乗せて連れて行ってもいいんだが、モンスターに変身できるなんて要らぬ誤解を受けそうだからやめておこう。俺が我慢すればいいだけの話だ。


 なんやかんや日が暮れ、小さな宿場町につつがなく到着。騎士団は休息を取ることになった。

 コーネリアは部下達と軍団の宿を手配していた。


「明日の日の出に出発します。それまではご自由にお休みください」


「なんだ。俺達は一緒じゃないのか?」


「そこまで面倒は見れません」


「冷たいなぁ。夫になるかもしれないってのに」


「な、何を言っているのです。まさか本気だったのですか?」


「あれ? 違うのか?」


 コーネリアは頬を染めたまま答えず、さっさと馬車を引いて行ってしまった。

 まったく、照れ屋さんめ。


「アイリス。俺は適当に宿を取っとく」


「かしこまりましたわ。ではわたくしは、申しつけられた通りに」


「ああ。頼むぞ」


 騎士団のぎこちない雰囲気の理由を探らないとな。

 セレンの安全のためにも。

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