第422話 ドボール編はこれにておしまい

 とりあえず宿を取ることにした。

 俺にも休養が必要だし、ロロの身なりを綺麗にしてやりたいとも思ったからだ。


「すっげー高そうな宿だなぁ……」


 部屋に入ったロロは、ほぉーっと感動しながらそんなことを言っている。


「実際高い部屋だからな。一泊十万エーンだ」


「じゅうまんっ?」


 えらく素っ頓狂な声だな。


「無駄遣いじゃねぇかっ。だめだぜアニキ。金ってのはもっと大事に使わなきゃ」


「わかってる。今日は特別だ」


「とくべつ?」


「俺もまだ万全じゃない。療養も取りたいし……それに、お前が晴れて自由の身になった記念っていうのが一番だな」


「自由たって……おいら、アニキの奴隷じゃねぇか?」


「俺の奴隷は自由なんだよ。なんならそこらの市民よりよっぽど自由だぞ?」


「そうなのか? だったらなんでアニキはおいらを買ったんだよ?」


「それは……」


 うーん。答えにくい質問だ。


「同情しただけってんなら感心しないぜ。そんな理由で散財してたら、いくら金があっても足りねぇよ」


「違いない」


「それによ。この宿の奴らだっておいらが泊まるのイヤな顔してやがったし」


「それは仕方ないな。身なりが身なりだ」


 さすがに清潔感のない客は誰でも嫌がるだろう。


「ま、とりあえずお前は風呂に入ってろよ。しばらく入ってないだろ」


「そーだけど……おいら、着替えなんか持ってないぜ」


「買ってきてやるよ。宿の売店に服屋があったはずだ。身だしなみを整えれば嫌な視線も消えるだろうよ」


「ん。わかった」


 というわけで、俺は部屋を出て、一階の服屋に向かう。

 ふむ。


 服を選びつつ、俺は大会での出来事を思い出していた。

 アイリスは、少女の形をとった理由が分からないと言っていた。

 答えは俺に喜んでもらうためなんだが、それを忘れてしまっているようだった。そりゃそうだろう。俺という存在がいなかったことになっているんだから。


 となると、そこにぽっかりと矛盾ないし空白が生まれている感じだ。矛盾を解消するために記憶を捻じ曲げられていないのは幸いか。

 詰めるとしたらそこだな。

 いずれにしろ、みんなとの関わりをもう一回作らないとな。まずはそこからだ。


 服を買って、ロロのもとに戻る。

 部屋の奥からシャワーの音が聞こえてくる。


「おーい。ここに着替え置いとくぞ」


「おっ……おーう! あんがとなアニキ!」


「うい。俺はちょっと馬を取ってくるから、適当にくつろいでてくれ」


「あいよー」


 フォルティスを街の繋ぎ場に留めたまんまだからな。宿の馬屋に置かせてもらおう。

 その後はゆっくり休ませてもらおう。アイリスにやられたダメージを回復させないといけないからな。

 俺はふかふかのベッドにダイブする。


 回復したら、すぐにでも出発しよう。

 色々足止めを喰らったが、収穫はあった。

 とにかく、急いで魔法学園に行くんだ。

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