第331話 運命の荒波は待ってくれない

 ふーむ。


「ご主人様。また粉かけちゃったんですか」


「ちげーよ」


 どうせあの子も俺のことを忘れるだろうからな。まぁ、忘れられずに済んだら縁があるんだろう。


「しかし、難民とはな。いよいよ戦争の影響が強くなってきたか」


「こうなってきますと、諸外国の動きも気になりますわ。王国の内乱に乗じて、周辺国が変な考えを起こさなければよいのですけど」


「帝国なんかは確実に手を出してくるだろうな。まぁマクマホンがここにいるから、下手なことはしないだろうが」


「そう信じるしかありませんわね」


 アイリスの懸念もわかる。

 だが今は、エストをどうにかするのが先決だ。

 とはいえ、奴を消すにはどうすればいいのか。

 『妙なる祈り』の影響を受けた者が八人必要だというからには、一刻も早く見つけないといけないんだろうけど。見当もつかんな。


 今のところ分かっている人材をあげていこう。

 サラ。

 アイリス。

 アデライト先生。

 ウィッキー。

 エレノアは、今のところ微妙な感じだけど、まあ数に入れていいだろう。

 現時点で五人か。


 あと三人、一体誰なんだろうな。

 これは完全に俺の願望が入っているが、候補としてルーチェとシーラは入れておきたい。

 ただ、あの二人は否定していたからな。どんなものか。


 俺のことを好きな奴かぁ。

 好きの定義が恋愛感情に限らないのであれば、ヒーモなんかもあり得そうだな。個人的にはお断りしたいが、背に腹は変えられないし。


「とりあえずメシにするか。腹がへっては頭が回らぬ、だからな」


「そうですね。行きましょう行きましょう! ボク、デラックスモーニングセットがいいです」


「わたくしも同じもので」


「じゃあ俺も」


 こいつらを飯に連れていくと出費がはんぱないんだよな。でもまぁ、今の俺はお金に困っていないから問題ない。

 というのも、『妙なる祈り』でいくらでもエーンを作り出せるからだ。インフレ待ったなし。申し訳ないと思いながら小金を作り出させて貰っている。やりすぎなければ問題ないと思う。


 そういうわけで改めて『てぇてぇ亭』に向かう。

 その途中、進路の脇に数人の少女達が突如として現れた。

 黒いローブ。守護隊のみんなだ。


「あっ、シーラさん」


 サラが声をあげる。


「主様。急報がございます」


「どした?」


 なにやらただならぬ雰囲気だ。緊迫感があるというか。


「隣国のマッサ・ニャラブが国境を侵害。二万の大軍を率いて侵攻を開始しました」


「……は?」


「内乱に乗じて領土を奪うつもりかと。カード村、アインアッカ村はすでに侵略されていると思われます」


 ちょっと待てよ。

 展開が早すぎる。電撃作戦かよ。


「王国軍はなにをやってるんだ」


「リッバンループ以東に軍は展開されていませんでした。大将軍ムッソーとエルゲンバッハの戦いの影響を避ける為です」


「なんてこった……」


 いや、これもう。

 どうすりゃいいんだ。

 俺が介入するべきなのか?

 エストをなんとかするのが優先事項なのに?


「ご主人様……どうするんです?」


「どうするったって」


「わたくし達は、どこまでもマスターのご意思に従いますわ」


「アイリス……」


 そうだな。

 なんか、考えるのも面倒だ。


「アインアッカ村に向かう。生まれ故郷が侵略されたとありゃあ、黙っておけねーわ」


 両親のことも気になるしな。

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