第287話 修行の成果

 まず仕掛けたのはエレノアだった。


「フレイムボルト!」


 両手の火炎がそれぞれ二本の短矢となり、ミーナに向けて撃ち出された。

 最初にあいつのフレイムボルトを見たのは、クラス分け試験の時。強欲の森林でのアイリスとの戦闘で用いていた。

 その時に比べて、今のフレイムボルトは数十倍の威力に膨れ上がっている。たった二、三か月でこうも強くなるのか。

 エレノアが放ったフレイムボルトは一直線にミーナに直撃。凄まじい火柱を巻き上げる。


「やったか!」


「余計なこと言わないでったら!」


 エレノアに怒られた。言いたかったんだから仕方ない。

 案の定、火柱を突き抜けてミーナが現れる。エレノアに向かって肉薄していた。

 そこにアイリスが入り込む。ミーナの腹部に渾身のボディをお見舞い。防御出来なかったミーナは半端ない勢いで吹き飛び、塔にぶち当たってその石壁を粉砕した。

 飛散する壁の破片と粉塵。


 だが。


「あら?」


 ミーナは悠然と歩き出てくる。ダメージは皆無にも等しそうだった。


「アイリスの一撃をモロに喰らって無傷かよ」


 先程から聞いてはいたが、こうして目の前にするとこの女の常軌を逸したタフさには戦慄を禁じ得ない。


「その程度の攻撃じゃ意味がない。よわ」


 エレノアが高く鼻を鳴らす。


「さっきのはほんの挨拶よ。いわゆる小手調べってやつ」


「本気を出してもいい。はよ」


「そのつもりよ。あなたに言われるまでもなくね」


 エレノアの両手に再び火炎が灯る。

 またフレイムボルトを撃つのか? あの魔法はバリエーションがあって、威力や範囲の調整ができるけど、正直ミーナに通用するとは思えないぞ。どうするつもりだ、エレノア。

 両手の炎が形を変え、一振りの剣を形成する。その剣を担ぐように構えたエレノアの全身が、火花を散らす紫電に包まれた。


「あの魔法は……!」


 アデライト先生が驚愕に目を見開く。


「凄いやつですか」


「ええ。フレイムボルト系の究極と言われる一つの到達点です。私も直接目にするのは初めて」


 まじかよ。エレノアの奴、いつの間にそんなすごい魔法を憶えていたんだ。


「ただでさえ消費魔力がとんでもない上に、肉体強化の上級魔法である乙女の極光を組み合わせています。『無限の魔力』を持つエレノアちゃんだからこそできる神業です」


 先生がここまで褒めるくらいだから相当なレベルなんだろうな。

 これは期待できるか。だが、ミーナの体力も尋常じゃない。


「骨が残ることを祈りなさい」


 エレノアが、動く。


「フレイムボルト・レーヴァテイン!」


 エレノアの握る火炎の剣が、極大の奔流となってミーナを包み込む。視界を埋め尽くすほどの爆炎。


「うお」


「きゃっ」


 発動の余波だけで、俺と先生は空中に浮き上がり、後方へと飛ばされてしまう。

 なんて熱量と威力だ。

 体がバラバラになりそうだ。

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