第238話 差別はアカン

「頭がどうかしちまってるんじゃねぇのか! この『無職』が!」


 一人の冒険者が、椅子を蹴って立ち上がる。


「戦争はもう始まった。もう何人も死人が出てんだよ。こうなっちまった以上、退くなんてこたぁありえねぇ。あの劣等種どもをのさばらせるワケにゃいかねぇだろうが!」


 屈強なスキンヘッドの中年男である。太い腕は俺の胴体ほどもあり、背丈も見上げるほどだ。こいつも有名なS級冒険者の一人なんだろう。

 男の怒声に、冒険者達も同調するような素振りを見せている。


「だからこそ、一日でも早く戦争を終わらせたいと思ってる」


 ここで怯むわけにはいかない。俺も一応の覚悟をしてきてるんだ。


「ああそうかよ。だったら、生意気な亜人どもをぶっ殺しちまえばいい。二度と反抗する気が起きねぇくらい、徹底的にな」


「和平の道はないのか」


「和平だぁ? 戦争けしかけられたこっちが、いやいや亜人さん仲良くしましょうよー、ってか? 頭おかしんじゃねぇのかこの『無職』がよ」


 将軍達も男の支援をするように声を上げる。

 貴族は冒険者を見下していると思ったが、S級ともなると例外なのだろうか。

 俺は口論を続ける。


「もとはと言えば、人間が亜人を迫害していたのが悪い。種族差別なんて続けてたら、こうなることなんて目に見えていたじゃないか」


「最高神エストがお決めになったことだ! スキルを持つオレ達人間は優れ、スキルを持たない野郎どもは家畜にも等しいと! それをなんだ貴様は。神に反逆するつもりか? ああ?」


 この世界、否、少なくともこの国においてその認識は普遍的なものだ。スキル至上主義とはそういうことだからだ。

 地球における人類の歴史でも、差別問題は常に存在していた。俺が生きていた現代日本ですら、部落での差別があったくらいだ。肌の色による差別なんか言うまでもない。


 スキルの有無という分かりやすく、実際に能力に差が出るものがある世界だ。能力至上主義という地盤もあるせいで、そういった価値観がはびこるのも分からない話じゃないだろう。


 だけどな。

 俺は今ここで、俺自身の主張をはっきりとしておこうと思う。


「スキルの種類やそのあるなしで、生き物の価値を決めるなんざ、スーパークソくらえだ。王国はさっさと亜人達を解放して、人間と同じ人権を持たせるべきなんだよ」


 戦争の原因は、亜人の差別だ。それがあるから機関や帝国に付け入られた。

 だったら、その原因を取り除いちまえばいいだけだろ。

 そうなったら亜人だって納得するはずだ。機関や帝国も手出しはできなくなる。

 手っ取り早く戦争を止めるには、それが一番じゃないのかってな。

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