第197話 再出発の時

「ところでさ。エレノアの両親も、ヘッケラー機関のメンバーなのか?」


「そうだ。だが、彼らはエレノアちゃんの実の親なんだ」


 ということは、実の子を実験台にしたってことか。


「そう怖い顔をするな。彼らにも彼らなりの考えがあってのことだろう。他人が口出しするべきじゃない」


 そうかもしれないけどな。


「それに、エレノアちゃんにはマホちゃんがついてるわ。あの子が傍にいる限り、機関もこれ以上おかしな真似はできないでしょう」


「マホさん?」


 そういえば、マホさんって昔からエレノアと一緒にいたような気がする。従者になる前からずっとだ。


「もしかして、マホさんも機関の?」


「知らなかったのか。彼女はエレノアちゃんの守護者として選ばれた子だ。エレノアちゃんをサポートし、監視し、プロジェクト・アルバレスの進行を見守る使命を持っている」


 そういうことか。

 今度マホさんに会ったら、色々と話を聞かなくちゃならないようだな。


「まぁ、マホちゃんどころか、この村の大人の半分以上は機関の息がかかった人間だからな。それを知らないのは、一部の子ども達だけだよ」


 今知らされる驚愕の事実やん。

 ほとんどプロジェクト・アルバレスの為だけに作られた村ってことかよ。

 びっくりだな。


 閑話休題。


 というわけで、そろそろ俺はお暇することにした。

 聞きたいことは聞けたし、これ以上は両親も知らないようだった。

 俺はたいまつを貰い、カード村へと出発することになる。


「なにもこんな夜更けに行かなくたって」


 母はそんなことを言っていたが、とにかく早く行くべきだ。兵は拙速を尊ぶとも言うし、なによりサラのことが心配なんだ。

 アインアッカ村からカード村までは、一本の道で繋がっている。夜でも迷うことはない。気をつけないといけないのは盗賊くらいだが、こんなところに盗賊なんているわけがないだろう。昔は多くの盗賊がいたようだが、最近は治安もよくなっているようだし。


 盗賊なんて出るはずがないだろう。

 仮に出てきたとしても、容赦なく返り討ちにする自信がある。今の俺はすこぶる機嫌が悪いのだ。

 逆に出てきてほしいくらいだわ。ストレスのはけ口にさせてもらいたいからな。


 たいまつ片手にそんなことを考えながら歩いていると、突如前方に人影が現れる。


「盗賊だ!」


 正面の男が叫んだ。

 ほんとに来たよ。


「いやいや」


 俺は溜息を吐く。


「盗賊が馬鹿正直に盗賊だ、なんて言うか?」


 警察だったらわかるけどさ。


「はっはっは。確かにそうだ」


 見覚えのある黒いローブ。

 暗闇でフードを外したのは、フェザールであった。


「探したぞ、ロートス」


「あんただったのか」


 緊張の解けた俺の肩をぽんと叩き、フェザールは明るい笑みを浮かべる。


「プロジェクト・アルバレスの件、できる限り調べてみたぞ。大変だったが、なんかとか最高機密を手に入れることができた」


「やるじゃねぇか!」


「君達がコッホ城塞に侵入したせいで、警備に穴ができてね。それがラッキーだった」


 俺達のやったことは無駄じゃなかったってことだな。


「けど、よかったのか? 俺が頼んだことだけどさ、それって機関に逆らうことになるんじゃ?」


「娘を救ってくれたんだ。これくらいしないとな」


「……たすかるよ」


「なに。歩きながら説明する。急ぎなんだろう?」


「ああ。頼む」


 俺は運がいい。

 一人で行かなければならなかったと思っていたが、ここでまさかフェザールと合流できるとは。


 俺は、運がいい。

 やはり、上手くいっている。

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