第195話 ヘッケラー機関はかなり鬼畜やん
父と母は互いに目線を交わすと、俺の対面に静かに腰を下ろした。
「今、どこまで知っている?」
二人とも特に驚いた様子はない。この展開は予想できていたのだろうか。
「俺が運命を操作されて生まれてきたこと。そのせいで『無職』になったこと。あんたらがヘッケラー機関の手先だってこと。俺が失敗作だってこと。あとは、エレノアも同じように運命を操作されてるってことくらいか」
大体こんな感じか。
「では、我々の知っている限りを教えよう」
いつになく真面目な顔の両親。
「最初に言っておくけど。私達は計画初期の段階までしか把握していないわ。最重要機密は、上層部に独占されているから」
「ああ。それでもいい」
家の中は静かだった。
「まず……そうだな。父さんと母さんは、お前の本当の親ではない」
「だろうな」
「私達は子どもを作れない体質でね。だから、養子を取る感覚でプロジェクト・アルバレスに参加したの」
そんな理由で? まぁ、気持ちは理解できなくもないが。
「じゃあ俺の本当の親は誰なんだ」
「お前の出生は明らかではないんだ。ある日、機関のトップから授かったのが生まれたばかりのお前だった」
「あいつか……マシなんとか五世ってやつだろ?」
「知ってるのか」
「一回やり合ったよ。尻尾を巻いて逃げたけどな」
さすがに驚いたのが、両親は目を大きくしていた。
「マシーネン・ピストーレ五世と対峙して生きているだと……?」
「そんなの、ありえないわ」
そう言われてもな。生きてるんだから仕方ない。
「それはいい。肝心なのはプロジェクトの中身だ」
「ああ……そうだな」
具体的に聞いた方がいいか。
「俺の運命は、どういう風に弄られたんだ? どうやったらクソスキルばっかり貰える運命になるんだよ」
「べつにクソスキルを与えようと思って操作したわけじゃない。アプローチの仕方は違うが、結果としてお前とエレノアちゃんは同じように運命を改変されているんだ」
「エレノアと、同じ?」
そんな馬鹿な。
だったらなんで俺とあいつとの間で、貰えるスキルに天と地ほどの差があるんだ。
「母さんたちが聞いた話によるとね。あなた達は、どんなに頑張っても人生が思うようにいかないって、そういう風に運命を変えられているの」
「は?」
なんだそれは。
「呪いだろうが。そんなの……!」
俺はテーブルをぶっ叩く。
母がびくりと肩を震わせた。
「ロートス。怒りはもっともだ。機関の中でも反対意見は多かった。だがマシーネン・ピストーレ五世は、この実験を断行したんだ。この辺境の村に、計画の拠点を移してな」
「何のためにそんなことを」
「最強の人間をつくるため。そして、神を超越するためだ」
ふざけた理由だ。
「お前とエレノアちゃんのスキルがまったくの別物になったのは、想定外の事態だった。仮説では、同じように神スキルを手に入れるはずだったんだ」
「でも俺は『無職』だ。だから失敗作だってのか」
「……そういうことだ」
理解不能だ。人の人生を弄びやがって。
「お前たちの元々の運命は、大きな苦難を乗り越えていくものだった。その中で成長し、成功を収める人生だった。それを、努力しようが工夫しようが上手くいかないように調整した。そうすれば、世界の修正力、いわゆる神のはたらきにより、さらに強力なスキルが得られると仮定した」
そうか。
もともとただのロートス・アルバレスとして生まれるはずだった赤子に、異世界転生を果たした俺が割り込んだ。
そのせいで、運命がぐちゃぐちゃになったってことか。
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