第153話 空白の数時間

 宴は楽しかった。


 『清き異国の雄』としてエルフ達にもてなされてたせいで、他のみんなと話すことは無理だった。

 まぁ美人のエルフ達にもてなされて嫌な気分になるはずもなく、俺はこの世の春を享受した。


 とはいえ、流石に明日もあるので徹夜は厳しい。疲れたので眠るというと、一つの家に案内された。木造の屋敷。ログハウス的な建物だった。すでに明かりはついている。

 こんなところを一人で使うのか。とりあえず中に入ろう。


「ふいー。疲れた」


「おかえりなさい。ロートスさん」


「おおっ」


 誰もいないと思っていたから驚いた。

 リビングのソファに先客がいたのだ。


「先生? どうしてここに」


「私もここに案内されたのです。宴には参加させてもらえませんでした」


「あいつら……」


 やっぱり差別するんだな。ムカつくぜ。


「よいのです。この問題は一朝一夕で解決できるようなものではありません。殺されないだけありがたい処遇なのです。ロートスさんのおかげですね」


「まぁ、先生がそう言うなら堪えますけどね」


 俺は先生の対面に腰を下ろす。


「やっと落ち着いて話ができるってもんですね。一体、何があったんです」


 俺が眠ってからエルフの森に拉致されるまでの間。何が起こったか。それをまだ聞いていない。

 アデライト先生の目がすっと細くなる。眼鏡を直して、先生は静かに、しかしはっきりと言葉を紡いだ。


「冒険者ギルドが裏切りました」


 耳を疑うような言葉だった。


「裏切った?」


 先生は首肯する。


「ギルド長はギルドにとって不都合な存在である母と、忌み子であるハーフエルフの私を消すために、A級の冒険者パーティを送り込んできたのです」


「……それで馬車を襲撃された?」


「はい」


 なんてこった。ふざけんなよ。どうなってやがる。あのクソジジイめ。


「刺客はまずロートスさんを狙いました。ハナクイ竜の家族を一人で仕留めた腕を警戒したのでしょう。ロートスさんさえなんとかすればあとは女ばかり。どうとでもできる。そう考えたゆえ、入念に準備された転移魔法でロートスさんだけエルフの森へ飛ばされたのです」


 馬鹿な奴らだ。俺が一番の無能だってのに。


「その冒険者達はどうなったんです?」


「一掃しました。今頃は獣のエサになっているでしょうね」


「……そうですか」


 シビアな世界観だな。誰かの命を狙ったら、返り討ちで殺されても当然。現代日本的感覚が抜けきらない俺には理解に苦しむ話だ。


 しかしながら、だ。


「なら結果的によかったかもしません。フェザールにエリクサーを渡せて」


「ええ。私もそう思います。あのままギルドに持って帰ったら、奪われていたかもしれませんから」


 ふむ。裏切りは想定外だったが、一応は計画通りいっているのか。


「でも、これからどうするんです? 王都に戻るのは危険すぎませんか」


「ギルドの狙いはあくまで私と母です。私達はどこか安全な場所に潜りますから、ひとまずは死んだことにしておいてください」


「そんな」


 それはあまりにもひどすぎる。先生には学園の職務もあるだろうに。

 恩義ある先生がそんな仕打ちを受けるのは流石に気が引ける。俺にも一応人の心はあるのだ。


「ギルド、潰すか」


 何気なくそんな声が漏れた。

 文字通り死ぬほど目立つ行為かもしれないが、このまま泣き寝入りなんてできるかよ。

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