第107話 思考する少年

 この世界におけるエルフは、なんというかファンタジーなイメージそのままの存在だ。

 実際に目にしたことはないが、話に聞く限りはそうらしい。


 長い耳を持ち、森の奥深くで自然と共生する種族。魔法に長け、永き時を生きる長命種である。

 基本的に亜人はスキルを持たない。獣人がそうであるように。だが、エルフは亜人でありながらスキルを持つ珍しい種族である。


「エルフっすか……」


 喜ぶべき情報であるのに、ウィッキーは難しい顔になっていた。


「事情を話してお願いしたとして、はいそうですかと秘薬を渡してくれるっすかね?」


「十中八九ありえないわね。エルフは極めて排他的な種族。他種族が里に立ち入ることすら拒むでしょう」


「そうっすよねー……」


 エルフは排他的な種族か。それもなんかステレオタイプだよな。


「思い付きなんですけど、先生の『千変』で、エルフに化けて里に入るとかできませんかね?」


 俺の提案に、アデライト先生は首を横に振った。


「それは難しいでしょう。そもそも人口の少ない種族ですから、仲間のことは熟知しています。そうでなくとも、魔力に敏感な彼らはすぐに私だと見抜くでしょう」


「じゃあ、アイリスに行かせるのも無理か」


 姿形だけ変えても、すぐにバレてしまうだろう。エルフってのはすごいな。

 俺は顎を押さえて頭を捻る。


「忍び込んで秘薬を盗むってのも難しいよな」


「そっすね。冗談でもなんでもなく、バレたら殺される危険もあるっす」


「それはやばいな」


 エルフと他種族の確執ってのは相当のようだ。


「無理しなくてもいいっすよ。ウチがサラに嫌われたのは完全に自業自得っす。誰かに危険を冒させてまで仲直りするつもりはないっすから」


 力ない笑みを浮かべるウィッキー。


 ううむ。これはよくない傾向だ。


 こう言っているが、ウィッキーは間違いなくサラと仲直りしたいはずだ。エルフの里にシーラを治す秘薬があると知った今、こいつは一人でも取りに行くだろう。それができるだけの力を持っていそうだしな。


 だが、仮にウィッキーが一人で秘薬を取りに行ったとして、それが成功するとはとても思えない。そんな流れでは失敗するのが世の常だ。

 嫌っているとはいっても、サラに姉を亡くすような経験はさせたくない。


 他に何か手段はないものか。


 俺はとにかく思い付いたことを口にする。


「人間嫌いって言っても、エルフにも例外はいるんじゃないですか?」


「と、仰いますと?」


 俺は一応真剣な眼差しをアデライト先生に向けてみた。


「ほら、例えば人間社会に紛れ込んで暮らしてるとか」


 なんとなくありそうじゃないか? 転生前に呼んだ漫画とかでもありがちな設定だったりしたしな。


「少なくとも私の知ってる範囲では、そんな人物はいませんね」


「ウチもっす。排他的な反面、エルフは仲間意識が強いっすからね。里を捨てて人間の国で暮らすってのは、ちょっと考えにくいっす」


 だめかー。

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