第80話 深夜に男の家に来るなんて
その日の夜。
なんとも奇妙なことに、この新居に来客があった。
「ロートスくん、お客さんだよ。魔法学園の先生だって」
「ん。アデライト先生か?」
自室で一人くつろいでいた俺は、呼びに来たルーチェに礼を言い、すぐさまエントランスに向かう。
広いエントランスでは、家の中を見渡しているアデライト先生がいた。
「こんばんはロートスさん。お邪魔しています。素敵なおうちじゃないですか」
「ええ。色々ありましてね。おかげさまで」
「ダーメンズのところのお坊ちゃんもなかなか太っ腹ですね」
「先生……『千里眼』使いましたね?」
「あらあら。口が滑ってしまいました」
まったく。プライバシーもなにもあったもんじゃない。
パフェを奢らせたり生徒の生活を覗いたり、この先生はほんとなんでもありの怖いもの知らずだな。
「それで、こんな時間にどうしたんです?」
「ええ。気にしていると思いましてね。クラス配属の件です。私が来るのを待っていたのではありませんか?」
「……ご明察」
俺は自分を落ち着かせるために深呼吸する。
そして、すぐ傍に侍るメイド長を見た。
「ルーチェ」
「はい」
「客間にお茶を」
「すぐに」
俺はアデライト先生を客間に案内し、向かい合ってソファに腰かけた。
先生は客間に置かれた調度品や装飾などを見渡し、感嘆の声を漏らす。
「これはまた、なんともお金のかかっていそうな」
ソファやテーブル、照明器具や壁にかかった絵やモンスターの剝製など、たぶん価値のあるものなんだろう。俺にはとんとわからないが。
「今日は災難でしたね。貴族の決闘に巻き込まれるなんて」
「まったくです。そういえばあの後はどうなりましたか? 学園で噂になっているらしいですけど」
「ええ。ガウマン家が逸早く手を打っていましたね。あなたを巡る女同士の戦いだと。ガウマン家が負けたなどとは、もう誰も思っていないでしょう」
「俺の名前が広まったりは?」
「それに関しては安心してください。個人名は出ていません。まぁ、だからこそ報道関係者がこぞって特定しようとしているわけですが」
「報道関係者か。厄介だな」
一応、この世界にもマスコミみたいなものが存在する。
多くは新聞や雑誌のようなものを発刊する機関であり、学園内においては生徒会や報道クラブがその役割をになっているようだ。
「エレノアさんと同郷のあなたです。真っ先に候補に上がってるのではないでしょうか?」
「勘弁してくれ……」
俺は頭を抱える。目立ちたくないって言ってるだろうに。最高神エストを恨むぜ。
ルーチェが紅茶を運んでくる。それを口に含み、アデライト先生は色っぽい吐息を漏らした。
「おいしい」
「ありがとうございます」
ルーチェが嬉しそうに笑う。うん、確かにうまい。
「先生、夜も更けてきます。本題に入りましょう」
「ええ。そうですね」
頷き、ちらりとルーチェを見る先生。
俺は先生の内心を察して、背後に立つルーチェに振り返った。
「後で呼ぶ。別室でゆっくりしていてくれ」
「失礼します」
俺の意を汲んで、ルーチェは足早に客間を去っていった。よくできた使用人である。
「先生」
「はい」
俺の促しで、先生は口を開いた。
「クラス配属の先に、まずあなたの正体からお聞きしたいと思っています。はぐらかされたままでしたから」
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