第61話 予想外の展開

「サラ……? うそ……本当にサラっすか?」


「おねえちゃん!」


 サラは大股で部屋に入り込んでくると、きっとウィッキーを睨みつけた。


「どうしてこんなところにいるの? もう二度とボクの前に顔を見せないでって言ったよね?」


「サラ……これは、その……」


 サラは眉を吊り上げて、じっとウィッキーを睨んだままだ。

 ウィッキーはというと、もはやたじたじだった。


 これは一体どういうことだ。感動の再会、というわけではなさそうだ。


「サラ」


「ご主人様」


「話が読めん。説明しろ」


 俺が真面目な声色で言うと、サラは静かに頷いた。


「この人はボクの、実の姉です」


「実の、姉? ならどうしてそう邪険にする?」


「この人は!」


 サラは急に大きな声をあげる。


「シーラさんを壊したんです! ボクの為だと言って……自分がスキルを手に入れたのをいいことに好き勝手して……関係ない人達まで――」


「サラ」


 俺は話を強く遮った。


「分かるように説明しろ。話を分かっているのは、お前とウィッキーだけだぞ」


 部屋を見回す。

 アデライト先生も、アイリスも、事情を知っているような感じではない。


「ご主人様、ごめんなさい。今のボクは、冷静に話せる自信がありません……!」


 拳を握り締めて震わせるサラを見て、俺は溜息を吐いた。


「アイリス」


「はい」


「サラを連れていけ。こっちで話をつける」


「かしこまりましたわ」


 アイリスがサラの手首をつかむ。


「ちょっと! まだ話は――」


「マスターのご命令です。退室いたしましょう」


「アイリス!」


 多少乱暴だが仕方がない。アイリスにアイコンタクトを送ると、彼女はサラを力づくで引き摺って行った。


「離して! 離してったら!」


 部屋の扉が閉まると、サラの悲痛な叫びが徐々に遠のいていった。


 あいつがあんなに取り乱すとはな。風呂を覗いてもそれほど慌てることはなかったというのに。


「さて」


 俺はウィッキーに向き直る。


「喋ってもらうぞ。包み隠さず、全部な」


 俯いたウィッキー。口を開こうとはしない。


「ウィッキー。ちゃんと教えてちょうだい。このままじゃあなたが悪者にされたままで終わっちゃうわ」


 アデライト先生も助け舟を出してくれる。


 深呼吸をしたウィッキーは、意を決したように俺を見上げた。


「あんたは……サラのなんなんっすか?」


「俺か」


 先に質問したのは俺だが、ここは答えておくべきだろう。


 しかし、どこから説明したものか。


「半月くらい前か。リッバンループの街で、あいつは奴隷として売られていた」


「奴隷……!」


「ほとんど捨て売り状態だったよ。奴隷商のおっさんもワケありだとかなんとか。その時は知りたくもなかったけどな」


 今思えば、あの時しっかり聞いておいた方が良かった。


「捨て売りって言っても奴隷一人買うにはそれなりの金がかかる。俺は大枚をはたいて、サラを買ったんだ」


「それでご主人様っすか……」


「ああそうだ。だが俺はあいつを奴隷だとは思っていない。俺にとっちゃ、サラはかわいい妹分なんだよ」


 俺の言葉を聞いたウィッキーは、しばし目を閉じて思案する。


 アデライト先生も、俺の話に感心しているようだった。

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