第16話 貴族ってやっぱそうなんですね
「ちなみにー。評価基準は内緒でーす! これ言っちゃうと変に要領よくやろうとする人が出てくるからねー」
アデライト先生の言うことはわかる。裏技を探そうとせず、正々堂々試験に取り組めということだろう。
「すこし待ってもらおう!」
ざわついた新入生の中から、大きな声が響いた。
「ダンジョンに潜るだと? そのようなことは下賤な冒険者どもの仕事だろう! 我々は高尚な学問である魔法を学びに来ている。なぜそんなことをしなくてはならん!」
気の強そうな少年の声だった。言葉遣いからして、貴族だろうか。
視線が集中した先には、数人の騎士を引き連れた見るからに貴族っぽいいでたちの少年が立っていた。
予想外の出来事に、先生の形のいい眉が下がる。
「ん~? キミはたしか……ガウマン家の」
「いかにも! ガウマン侯爵家が次男、イキール・ガウマンだ! 由緒ある貴族として、試験の内容に異議を唱えさせてもらうぞ!」
まさか試験に文句を言うなんて。
「また面倒臭そうな奴が出てきたな」
「ですね」
俺の呟きにサラが頷く。
とはいえ、俺はこの状況を楽しんでもいた。蚊帳の外から見るいざこざほど面白いものはない。野次馬根性は、傍観者の特権だ。
「もう一度言うぞ。ダンジョンに潜るなど冒険者のやることだ。冒険者は下賤の輩。そのような者達と同じことができるものか!」
むむ、ひどい言いようだ。典型的な下々を見下すタイプの貴族だな。
たしかにこの世界では、冒険者の地位は低い。基本的に喰いつめ者たちに残された最後の職が冒険者だ。喰いつめ者になるのはスキルに恵まれなかった者達がほとんどだ。盗賊や浮浪者にならないための政府の措置だが、だからこそ彼らの社会的地位は最底辺に位置する。
「ちなみに僕のスキルは『剣聖降ろし』だ! そして職業は『英霊召喚士』である! どうだ、すごいだろう!」
ここぞとばかりに自らのスキルを自慢していくスタイル。嫌いじゃないぜ。
聞いたことのないスキルだが、あれだけ言うからには強力なスキルなのだろう。名前からして強そうだしな。
そもそもこの世界の貴族とは、非常に強力なスキルを持つことで有名だ。神から授かるスキルは血筋が関係しているらしく、貴族はほぼ間違いなく桁違いに有用なスキルを持っている。
「まぁでも規則だしねー」
イキールの自慢を、アデライト先生は軽く流していた。
「規則など人が作ったものだ! 人の手でいくらでも変えられる!」
「でも今は無理かなー。たとえ侯爵家のお坊ちゃまでもねー」
「なにを! ならば納得できる理由を説明したまえ!」
ふむ。
規則というからにはそれなりの理由があるはずだ。それには俺も興味がある。
ちょっとだけ考える仕草をしたアデライト先生は、その大きなおっぱいを強調するように腕を組む。
「この学園はねー、現場で活躍する魔法使いを育成するのが理念なの。知識や理論ばかりひけらかす学者気取りは必要ありません。なによりも、現実の生活に役立つ魔法を使いこなせるようでないと」
「それならダンジョンじゃなくてもよかろう!」
「まーそうなんですけどー」
唇を尖らせて目を逸らす先生。
むむ。
俺はクソスキルを発動する。
クソスキル『イヤーズオールドアナライズ』だ。
このスキルは対象の年齢を識別するスキル。ちなみに一日一回までしか使えない。
このスキルによると、アデライト先生の年齢は十九歳。
非常にいい塩梅であった。
「あなた、いい加減にしなさい!」
不意に、聞き覚えのある声が響いた。
間違いない。
エレノアの声だ。
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