ハイペリオン戦記
松本 ゆうき
序章 世界大戦
第1話 大戦の終わり
戦争が起こった。対立する二国間の戦争は、周辺国の思惑を取り込み、世界中の国を巻き込んだかつてない規模の大戦へと発展していった。
多くの若者が戦場へ向かっていった。「クリスマスまでには終わるだろう」と考えて、まるで冒険でもするかのように、彼らは自国の軍服に身を包み、笑顔のまま戦地へと送られていく。
だが、勇ましい青年も、その戦争の凄惨さに言葉を失った。
ある者は機関銃掃射に仲間の兵士が次々に倒れる光景を目の当たりにし、ある者は毒ガスに苦しみもがいて死んでいく。運良く生き延びた者達は、ネズミと伝染病が蔓延る塹壕の中で、負傷者のうめき声を聞いて震えていた。
目の前に広がったのは、この世の地獄であった。彼らが持っていた希望は、日を追う毎にすり減らされていき、やがて仲間の死にすら無関心になっていった。
来る日も来る日も、男たちは塹壕を掘っている。彼らにとって最大の敵は雨であった。ひとたび雨が降れば、塹壕の中は凍てつくような泥にまみれ、兵士は銃から手を離してひらすら泥を掻き出す。
クリスマスを過ぎても、戦争は終わらない。兵士たちはやつれ、冷たい泥に長時間浸かったため、足は凍傷と水虫を併発し、その症状は「塹壕足」と呼ばれるようになった。
しかし、ただ待っているだけではなかった。自軍の戦車とともに、敵陣への突撃が決定する。戦車のけたたましいキャタピラの唸りを体中で感じ、家族や恋人の顔を思い浮かべ、兵士は自らを奮い立たせる叫び声とともに塹壕から飛び出した。
激しい銃撃戦が待っている……はずだった。
両軍の塹壕の間に、巨人が立っている。全長は一○メートルを超えているであろうか。戦車も兵士も、目の前の光景を信じられずにいて、その場に立ち尽くしている。
巨人が歩く。戦車以上の地響きと金属音がする。
死を覚悟して塹壕から出た彼らが見たものは、巨大な人型兵器であった。
『メック』
後にそう呼ばれることになる兵器が実践投入された瞬間だった。メックは機銃にも大砲にも屈せず、戦場を蹂躙していった。
戦場は、メックを受け入れた。
数年後、世界大戦は終結したものの、多くの人々の心に深い傷を残す結果に終わった。
人々は平和を願い、新たな時代を歩み出したかに思われた。
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