第22話 主殿は王を目指すらしい?
それから数週間が過ぎた。この数週間、直人たちはレベル上げと金策を兼ねて、モンスター狩りに専念していた。直人たちはあの日の食事の後に話し合い、拠点を手に入れようと言う話になっている。
銀さんは、アリシアとエリスの二人と共に店で出せる料理の研究をしている。
研究と言うのはこの街にある材料で何が作れるのかの研究だ。直人たちは居ても役に立たないだろうと言う事で店を始める資金集めをしているのだ。要は効率良く役割を分担しているという事である。
役割を分担した事でカイやGさんは、銀さん達には負けないと張り切ってしまう。料理の研究とモンスター狩りで勝ち負けが有るのかは、不明なところではあるが、張り切ってしまった事がいけなかった。
自重知らずのカイとGさんは互いに競い合い、モンスターを手当たり次第に殲滅していったのだ。最初は直人も自重しろと言っていたのだが、カイとGさんに乗せられて厨二病を発症してしまったのだ。
歯止めを失い、大暴れしてして悪目立ちした直人たち。だが、そのお陰で、この短期間で目標の拠点の購入を果たしていた。
直人が正気に戻ったのはガイルに声をかけられた時で、その時には既に手遅れな状況に陥っていた。
「お前ら随分派手に稼いでるみたいだな。あちこちで噂になってるぞ」
「あはは……えっ、そんなに噂になってます?」
「あぁ、相当にな。ギルド職員の中だけじゃなく、冒険者の間でも話題になってるんだぞ」
と言いガイルは意味ありげにニヤニヤと笑う。そんな事をされれば気になるのが人というものだろう。
「なんですか、その意味ありげな顔は?」
尋ねられたガイルは、さらに楽し気な笑みを浮かる。
「聞きたいか? 聞きたいのか?」
直人は勿体ぶった物言いに、少しイラっとしながらも、
「なんなんですか? 勿体ぶらないで言ってくださいよ」
「わかったわかった、言うぞぉー。お前らがモンスターを狩ってるのを見た冒険者がかなりいてな。そいつらが言うには、おまえん所の爺さんが【首狩りの血老鬼】でカイの奴が【さすらいの王子】だってよ。ぷぷぷ、なあ笑うよな、笑うだろ」
ガイルは口を抑え笑いを堪えている。ここがギルドでなければゲラゲラと笑っていただろう。
直人はガイルの話を聞き(おいおい、首狩りの血老鬼って、物騒過ぎるぞ。あの爺さん何やったんだ。カイもカイでさすらいの王子って何なんだよ。それにガイルさんアンタ笑い過ぎだろう)と思いながらガイルに尋ねる。
「あいつら何をやったんですかね?」
「聞いた話しでは――」
ガイルは聞いたことを話し始めた。
直人たちはモンスター狩りをする事が決まり、狩りを始めた。最初の一日目は直人が歯止めになっていた為、それほど目立つ事もなく狩りをしていた。
しかし、それでは効率が悪いと思ったカイが陰謀を謀る。
それは一日目の狩りが終わり野営をしている時の事。直人たちはダニエルに見張りを頼み、眠りについた。ダニエルはアンデットの為に寝る必要が無く、とても優秀なモンスターなのだ。
皆が寝静まる一人の人物が動き出す。その者は篝火の所で見張りをしているダニエルへと近づいて行くと、ダニエルは背後に人の気配を感じ振り返る。
「カイ殿か、いかがなされた?」
「ちょっと、お前に話があってな、直人の事ついてだ」
ダニエルは直人の事と聞き、興味を示し、
「ほほー、主の事ことですか。お聞きしましょう」
カイは近くにある手頃な石に座り話はじめる。
「お前は直人が、目立たない様にしよう、と言っている事をどう思う?」
「どうとは、どう言う意味でしょうか?」
「そのままの意味だよ!」
ダニエルは少しの間考えると、
「主は目立つ事によるデメリットを考えておられるのではないかと」
「そうだ、直人は目立つ事で起こり得る面倒ごとを避けているんだ。ただな、直人は目立ちたくない訳ではないんだよ」
ダニエルはその答えが意外だったのだろう、スケルトンである為に表情には出ないものの驚いた様子で、
「そうなのですか? 私にはそうは見えないのですが?」
「お前は付き合いが浅いから分からないかも知れないが、アイツが欲しっているのは力だ。余計な横やりや面倒ごとを受ける事なくやっていく為にな」
カイの言葉にダニエルは(面倒ごとを避けたい主殿だ。力を持つ事で避けられるものもあるでしょう。わからない話ではない)と納得する。そんなダニエルにカイは話を続ける。
「だと言うのにアイツは飲食店を始めている。銀さんがやる以上、繁盛はするだろう。確かに金も力だ。だが金の動きは人の目につきやすく、アイツの嫌う面倒ごとは向こうから近づいてくる事に成る。そもそも金の力が万能と言う訳じゃないからな。それを踏まえて考えれば、俺たちのレベル上げるのが、最善だと思わないか?」
ダニエルはカイに尋ねる様に言われ口を開く。
「確かに、そうですね。お金を稼ぐ事によりは、レベルを上げる方がやり方次第では人目には付きにくく出来るでしょう。戦力を上げる事で主殿の嫌う面倒ごとを避ける事に繋がる事でしょう。なんだかんだ言っても最終的に力がなければどうにもならない事も多いですからね。それは個人でも国も同じですが」
ダニエルはカイの話を聞き納得するとカイはさらに続ける。
「ではなぜ直人がこんなまどろっこしい事をしていると思う?」
「……わかりません。なぜなんでしょうか?」
「それはアイツの目指しているのが、王だからさ」
王を目指していると言うのがあまりに予想外だったのか、先ほどとは比べ物にならない程驚くダニエル。
「なんと! 主殿は王を目指しておられるのか!?」
「考えてみろ。メンバーは十分揃っているんだ。後はレベルを上げるだけで十分な戦力が揃う。そうなれば、目立つ事で誰かに目をつけられようが、疎まれようが問題にはならない。だと言うのにレベルを上げることを優先しないんだと思う」
ダニエルは首を傾げ、
「さあ? 自分には見当もつきません」
「力で物事を解決する事は出来るだろう。だが力により無理に物事を解決すれば
、恨まれ軽蔑されるだろう。それを直人は大きな障害になると考えている。だからアイツは商売を通して金を、冒険者として名声を、分け隔てなく接する事で人心を得るつもりなんだ。力、金、名声、人心を使い、敵を増やす事なく味方を増やしながら王を目指すのが、アイツの目指す王道なのだとよ」
それを聞いたダニエルは肩を震わしている。彼にとっては余程の衝撃だったのだろう。すぐには言葉が出ない。
「……わたしは、わたしは、ついに真の王に仕える事ができるのですね。……生前ではかなわなかった願いがついに――」
喜びに打ち震えるダニエルにカイは、
「よかったなダニエル。アイツは言っていたよ、人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵とな」
ダニエルは理解できずに尋ねる。
「どういう意味ですか?」
「熱い情を持って接すれば、強固な城以上に人は国を守ってくれるし、仇を感じるような振る舞いをすれば、いざという時自分を護るどころか裏切られ窮地にたたされると言う意味さ。要は人の心が離れてしまえば世の中を収めることができないとアイツが言っていたよ」
「なんと聡明な方だ。このダニエル、微力ながらも主殿のお力になる事を誓いますぞ」
と、ダニエルは一人興奮していた。それも致し方ない事だろう。この世界には名君と呼ばれた者は少なく、凄惨な歴史を持つ。生前ダニエルも国に仕えていたが、それは酷いものであり、ダニエルはよく嘆いていて、名君の存在を夢に見ていたのだ。それに仕えるチャンスが来たのだ。興奮して当然といえよう。
「あぁ、一緒にアイツを支えて行こうぜ」
そう言いカイは手を差し出しす。その意味に気づいたダニエルはカイの手を握り、握手をかわすのだった。握手が終わるとカイは、
「じゃ、俺は寝るよ、見張りは任せるぞ」
「承知した」
カイはダニエルと別れテントに入ると、(……アイツ、マジだ。まさかあそこまで信じるとはな。まあ問題はないだろう。俺の予定ではそうなる予定だからな、これでダニエルがやる気を出して直人を刺激して、厨二モードを引き出してくれれば文句なしだな)とカイはニヤリと笑う。
そう、全てはカイの作り話であった。
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