第15話 打ち上げはバーベキュー

 カイとミノタウロスが戦う近くの崖の上。そこからこの戦いを盗み見ていた者たちがいた。人数は四人。その見た目から戦いを生業としている者たちだという事がうかがえる。


「ミノタウロスを単独撃破とは驚きね。……彼の事、誰か知ってる?」


リーダー格と思われる戦士風の女が仲間たちに尋ねると、魔法使いの女が首を横に振る。


「見た事ない人ね」


 魔法使いそう答えると、その場にいた他の二人も続き答える。


「知りませんね」

「知らないけど、イケメンだよね」


 最後に余計な事を言う盗賊風の女。そんな女の言葉に、リーダー格とは別のもう一人の女戦士が厳しい口調で言う。


「それは関係ありません」

「……」

 

 そんな仲間たちを見てリーダー格の女は考える。いったい何者なのかと。最初は、どこからか流れてきた腕の立つ冒険者かと思ったが、身につけている装備があまりにも場違いすぎた。彼の装備は村人に剣を持たせた、そんな状態だった。


 それが彼女の推測を混乱させていく。仮に、彼が腕の立つ冒険者であれば、戦闘が予想される場所にはそれなりの装備で来るはずである。かと思えば強力なスキルと思われるものを複数使用しており、その矛盾に謎は深まっていく。


「誰かあのスキル知ってる?」


 そうリーダー格の女が尋ねると魔法使いの女が答える


「二つのスキルについて心当たりがあるんだけど」

「心当たりがあるなんて、流石エレナね」

「シンシアはどう?」


 尋ねられた魔法使いが逆にシンシアに尋ね返した。


「私には分からないわ、何のスキルなの?」

「これはあくまで推測よ、全身が黄緑色に光ったあのスキルは【女神の癒し】だと思うわ」


 それを聞いた他の四人は驚きの表情を浮かべた。盗賊風の女性は尋ねる。


「はぁ? それマジ~? それってあれだよね?」

「まだ説明の途中ですよ。ローゼはしばらく黙っていてください」


 尋ねるローゼを鋭い眼つきで睨みながら言い女戦士が黙らせると、エレナは続けた。


「あの竜の様な目は皆も聞いたことがあるはずですよ」


 そうエレナが言うと、四人は不思議そうにお互いの顔を見合わせている。誰も思い当たるところがないようなので、エレナはさらに続ける。


「皆も、聞いたことあるでしょ?勇者デルディの物語を。その中に出て来たはずよ、黄金に輝く竜の瞳が」


 思いがけない話の流れに四人が息を飲んだ。一瞬の沈黙が流れ、シンシアが口を開いた。


「とんでもない規格外ね。でも速い段階で彼の存在を知れてよかったわ。まだレベルも低いわ。仮に敵対したとしても、私たち【パルセノス】なら、知ってさえいれば対応は可能だしね」


 シンシアの言葉に仲間たちは相槌を打つと、シンシアは、


「じゃあギルドに戻りましょ」

「そうだな」

「そうよ。早く帰ってご飯を食べましょ」

「ローゼ、帰ったら先に報告よ」

「え~」


 仲間たちと歩き始めたシンシアは振り返り、崖の下のカイを見ながらに思った。(先ほどは皆を不安にさせない為に言わなかったけれど、あれでレベル上がり、装備が整ったら、どんな化け物になるのかしら。出来れば彼とは早い内に友好的な関係を築きたいわね……それにイケメンだし)


「なにやってるのシンシア?」

「ごめん、今行く」


 彼女たち【パルセノス】は街へと帰って行った。




 戦いが終わり、どうしようかとカイが考えていると、レアの声が聞こえてきた。


『カイさん、カッコ良かったですよ! 次もカッコ良く決めてくださいね! それではお疲れさまでーす』


 レアの話が終わると、カイの方へ、アランたちが名前を呼びながら駆けてくる。カイがアランたちの方へ振り向くとアランたちはギョッとした顔をする。


「カイさんその目は?」


 アランがそう尋ねるとカイは不思議そうな顔をする。


「ん? 目がどうかしたか?」

「いや、その、目がドラゴンの様な目になってますよ」


 アランがそう言うとカイの体の光が消えていき、目は元に戻った。


「あれ、え? もとに戻ってる?」

「ほ、ほんとだ」


 アランは突然目が元に戻ったことに首をひねっている。その隣でノーマンも、相槌を打ちながら不思議そうに見ていた。


「そっか、多分スキルの影響かな」


 カイがそう言うとノーマンが興奮した様子でカイへと迫った。


「スキルと言えば、あの最後の技は何ですか!?」


 尋ねるノーマンを止めるアラン。


「おいおいノーマン。それはマナー違反だろ」


 この世界ではスキルの詮索はマナー違反とされている。アランに止められたノーマンは、


「でも……わかったよアラン」


 渋々ではあるが、引き下がった。

 

 この後、三人で話し合った。モンスターの素材が余りにも多く、三人で持って帰るのが不可能であった。そこで冒険者ギルドに有る荷馬車をレンタルする事にした。


 こういった様にモンスターの素材が多く、持ち帰れないことは冒険者の中ではよくあることで、ギルドから冒険者に対して、二つのお助けシステムが用意されている。


 一つは、荷馬車のレンタル制度で、これは自分で荷馬車を借りて運ぶ方法だ。もう一つは、ギルドによる素材運搬サービスである。こちらの場合人員として冒険者に依頼することが多く料金が高めになっている。


 だから荷馬車を借りるのだ。ただ人手が足りないので【ガンマ】のメンバーと直人、戻ってきていればテルにも手伝ってもらう予定となっている。現場にはカイが残り、アランとノーマンが仲間たちを呼びに行き、荷馬車を取りに行くことになった。




 直人は目を覚ました。部屋の中を見渡すと、窓の外は明るくなっている。だがカイの姿は見当たらず荷物もない。


「カイの奴、帰って来てないのか? なにやってんだアイツ?」


 直人はベッドから立ち上がり部屋を出ると井戸へ向かった。


 直人が宿の外にある井戸に着き、顔を洗っていると、


「直人さん、おはようございます」


 声を掛けられた直人が振り向いた先には【ガンマ】メンバーである、ジーナ立っていた。


「ジーナさん、おはよう」

「呼び捨てでいいですよ。直人さんの方が年上なんですから」

「じゃあ、そうさせてもらうよ。ジーナも顔を洗いに来たのか?」

「そうですよ」

「終わったからどうぞ」


 洗い終わった直人はジーナに場所を譲り顔を拭いていると、マリーは宿から出てくる。


「ジーナ、アランとノーマンがどこにもいないよ」

「はぁ~、アイツ等どこいったのよ」

「アランとノーマンがいないのか?」


 直人が尋ねると、マリーは直人に気づき慌てて、


「あっ、直人さんおはようございます」

「おはよう。探すなら手伝おうか?」

「いえいえ、大丈夫です。ジーナと二人で探すから」

「そっか、じゃあ俺は行くよ。またね」


 直人はジーナたちと別れて食堂へと向かった。


 直人は食堂に着くとカウンターに座ると、ウェイトレスのお姉さんが声掛けてくる。


「おはようございます。何になされますか?」

「そうだな……トーストとコーヒーをお願いします」


 食堂の■ほぼ全てが埋まっており、厨房の中はまるで戦場のような慌ただしさだ。それを見て直人は繫盛しているなと、温かい目で見守りながら朝食を待つのだった。


 食堂で食事しているとアランたちがやって来た。


「おはようございます。直人さんあのぉ~実は――」


 直人はアランたちに事情を聞き、ギルドで馬車を借りカイの元へと向かうのであった。


 カイの所いく道中、アランとノーマンがカイの戦いを熱く語り、ジーナとマリーが盛り上がっている中、直人だけは(アイツ何やってんの!?)と怒り半分、呆れ半分であった。


 直人たちは街を出て二時間ほどでカイの居る場所にたどり着いた。直人は辺りの様子を見て呆れる。(おいおい、どんだけ倒してるんだ!?)


 アランがカイの方へと行き、


「直人さんたちを呼んできましたよ」

「思ったより早かったな。じゃ馬車に戦利品を積むとしようか」


 カイは軽くアランと話し、直人の方へと近づいていく。しかし、その足取りは重い。原因は直人の不機嫌な表情にあった。(直人の奴、怒ってるよ。勝手な行動を取ったからな……なんて声掛けよう?)と思いながら口を開いた。


「やあ、直人」


 カイの表情はとても気まずそうで、その口調はよそよそしいものだった。


「……」


 直人は何も言わずにカイを見続ける。無言の圧力にカイの目が泳ぎ出す。


「違うんだって、ちょっとレベル上げようとしただけなんだよ」


 直人はわざとらしく周りを見渡しカイを見る。そのしぐさは、ねえねえちょっと周りを見て見て、カイ君これがちょっとなのかな?と言わんばかりだった。


「……いやーそれがさ~……すまん!」


 直人のその視線に耐えきれなくなったカイは謝るのだった。直人は、数秒の間を置いてから、口を開いた。


「次から何かする時は、ちゃんと話せよ。変な気遣いはすんなよ。そんなんで仲間外れとかごめんだからな」


 この時、直人はカイの考えをなんとなく察していた。直人が死ねない事に気を使いカイがレベル上げをすればいい、などと考えているのだろうと。だが直人は仲間を犠牲にして楽するつもりも、誰かに戦わせて自分だけ安全を図るつもりもなかった。直人はただ単純に、この世界で楽しく過ごせる仲間を求めていた。


「……あぁ次からはちゃんと話すよ。ほうれん草だろちゃんとわかってるよ」


 最初の間が気になる直人だったが、


「約束だぞ」

「あぁ」


 話しが終わると男たちは高く売れる部位、討伐証明部位などの剥ぎ取り、女たちはバーベキューの準備をしている。


 これはカイの提案で色々と迷惑を掛けた【ガンマ】に対する、悪いなというカイの気持ちの表れだった。そのため、この場で最上級と呼ばれる牛肉である、ミノタウロスを使ってバーベキューをする事なっている。アランとノーマンはカイの指示で街戻った時にバーベキューに必要とされる物を持って来ていた。


 皆が作業している中フライングする者がいた。


「うはッ! やばいやばいマリーこれマジ旨いよ」

「ジーナ駄目だよ。皆頑張っているんだから」


 最上級とされる牛肉、ミノタウロスを食べて驚くジーナを止めるマリー。


「マジでヤバいよこれ。マリーも食べて食べて!」


 初めて食べるミノタウロスに、興奮のしてマリーの注意が聞こえていないジーナ。そのあまりの美味しさから、マリーにも食べるのを勧めるジーナ。


「つまみ食いは駄目だよ」

「いいからいいから」


 断るマリーにジーナは、串に刺さった肉をマリーの口元に持っていく、という実力行使にでた。


「駄目だよ、駄目だよ。私は食べないからね」


と断り続けるマリーにジーナはニコニコしながら


「はい、あーん、あーーーん」


 断り切れずに食べたマリーは驚く


「すごーい、柔らか~い」


 食べた瞬間にジーナのおかしなテンションに納得するマリー(凄く美味しい。ジーナがハイになるのも分かる。このお肉見ているだけで、ゴクリ)この反応は当然と言えば当然と言える。


 【ガンマ】のメンバーは全員が同じ村の出身である。そこでは牛肉はめったに食べられる物ではなかった。冒険者になってからもその値段から数度しか食べておらず、それも並レベルまでであって上すら食べたことがなかったのだ。それが突然、最上級の牛肉を食べれば当然の反応だと言えるだろう。


 ジーナたちがそんなやり取りをしている所を作業中のノーマンが通りかかる。つまみ食いをしているジーナたちを見て、驚き声をかける。


「え、何で食ってんの?」


 尋ねられたジーナは、ノーマンにもこの美味しさを味わってもらいたいと思い、串肉を渡す。


「はい、ノーマン」


 突然、串肉を渡されたノーマン。一瞬食べてもいいのかと疑問に思うが、ジーナが笑顔で見ているのでそのままお肉を口へと運んだ。


「うわっ! なんだこれめちゃ旨いんだけど!」


とノーマンが興奮し騒いでいると、それに気づいたのかアランがやって来た。慌てて止めに入るアラン。


「お前ら何やってんの?」


周囲の温度が一気に落ちるような冷たい声でアランに言われ、黙り込む三人。そんなどんよりとした空気に気づいた直人とカイが近づいてくる。


「どうしたんだアラン?」


 カイが声を掛けると、アランは振り返ると同時に頭を下げ


「すいません! こいつらが勝手にミノタウロスを食べてしまいました」


と突然謝られ、直人とカイは驚きお互いの顔を見合わせ二人とも笑い出した。


「はははは、ただのつまみ食いだろ。そんなに気にする必要ないぞアラン」

「そうそう俺らがアラン君たちに手伝ってもらっているんだから。カイに振り回されて大変だっただろ? 文句を言ってもいいんだよ」


 と直人は言い、にやけた顔でカイを見て茶化すのだった。結局、男達は倒したモンスターの部位のはぎ取りを止め。先に食事をする事になった。


 皆が食事をする中で、直人は一人だけ、少し離れた木々の陰にいた。食事を始めようとした時にテルからNINEの通知が来たのだった。今はテルが現れるのを待っているのだ。


 召喚の招待を送る時に、召喚したスマホにアップデートが来ていたのでとりあえずダウンロードしたのだが、今になって何のアップデートなのか気になりだしている直人だった。


 そんなことを考えていると地面に魔法陣が浮かび上がり、テルが現れた。


「ただいまっス! 大変――あれ? ここどこっスか?」


 テルは召喚された場所が森である事に驚き、辺りをきょろきょろと見まわす。


「おかえり、色々あってな、今からバーベキューする事になったんだ」

「色々ってなんスか!? いきなりバーベキューって、全然状況が分からないっスよ。俺が居ない間に何があったんすか?」


 直人が軽く事情を話すとテルは呆れたように笑い、


「カイ先輩らしいっスね。目を閉じるだけでその光景が容易に思い浮かべれるっスね。あはは」


 直人とテルが皆の居る場所に戻ると、既にバーベキューは始まっていた。


「おかえり。ミノタウロス、マジでうめぇぞ。直人もテルも食ってみろよ」


と振り返りながらカイが言うと、テルは慌てて近づいて、


「何で食べてんスか? 普通、待たないっスか? 待つっスよね!?」


と皆にテルが訴えると【ガンマ】メンバーたちは苦笑い浮かべる。そんな中、カイだけは真剣な表情で、


「いや待たねえだろ!」


と言い、ニタリといやらしく笑う。


「そりゃないッスよ~」


 そんな二人のやり取り見ていた直人が、


「冗談はその辺にして食べようぜ」

「そッスね」


 二人は串肉を手に取り、口に運ぶ。


「んっ! 美味いな。こんなに柔らかい肉は初めてだ」

「なんスかこれ!?めちゃくちゃ美味いじゃないっスか!」 


 カイはそんな二人を見て、


「なっなっ美味いだろ!」


 嬉しそうに言うカイであった。


 バーベキューが終わると馬車に荷物積み街へと戻るのだった。

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