第12話 騎士道精神のある骸骨!?

 それからすぐに変化は起きた。周囲の木陰から、大勢の魔物たちが、静かに姿をあらわしたのだ。


 その中で最も多いのはゴブリンで、数は40を超えている。他にも狼、猪などの獣型のモンスターに加えスケルトンなども混ざっていて、合わせた総数は80を超えている。


 カイは最も数の多いゴブリンが、すぐに襲って来ると思ったのだが、予想に反してゴブリンたちは動かなかった。


(何故動かない)カイは疑問に思い観察する。ゴブリンたちが警戒しているのがわかる。


 だがそれは、カイたちに対する警戒ではない。別の方向に対してだった。


 カイがそちらを見ると、そこには二足歩行の狼人間がいる。人との大きな違いは、頭部が狼であること、全身を覆う毛、指から伸びた鋭い爪だ。全部で四体いるのだが、そのうちの一体が体を反らすと、遠吠えを上げた。


「ワオォォォーーー」


 それはまるで、この場にいる全員が獲物だ、とでも言っているようだ。


「あれはEランクのモンスター、ウェアウルフです。手強いですよ! 本当に一人で大丈夫ですか? 俺たちも一緒に戦った方が――」


 アランが心配しているのに気づいたカイ。カイはアランが何を言おうとしているのかがわかり、手をかざし言葉を遮った。


「大丈夫だ。行ってくる」


 カイはそう言い前に進み出る。睨み合っていたゴブリンやウェアウルフの視線が一瞬カイに向けられたが、すぐにまた、お互い向き直った。


 どうやらモンスターたちにとってカイの脅威度は低いと認識されているようだ。(警戒されないのは好都合だが、それはそれで微妙な気分だな。さて、どう動くかな)とカイが考えていると、それは突然起きた。


 ウェアウルフたちの背後から数匹のスケルトンが襲い掛ったのだ。それをチャンスと思ったのだろう。ゴブリンたちは雄叫び上げながら、突撃していく。出遅れたカイ、気づけばそこは戦場になっていた。


 カイは怒りを感じていた。それは何に対してか、脅威でないと判断されたこと。勝手に開かれた戦端、カイを無視して続いている戦闘。そして勝手に失われていく経験値に、


「ふざけるな!」


 カイは叫び走り出した。前を遮るモンスターを、薙ぎ払いながら進んでいく。中心に近づいて来ると、一匹のウェアウルフが見える。ゴブリンはチームを組んで戦っているようだが、それでもウェアウルフのほうが押しているように見える。


 奴らは、天然の刃物と言ってもいい、鋭く伸びた爪を持っており、ゴブリンたちも迂闊に攻め込めないようだ。


 ゴブリンとウェアウルフの戦いは、ギリギリのところで均衡を保っている。ウェアウルフたちは後回しでいいだろう。そう判断したカイは辺りを見渡す。


 すると、スケルトンたちが目に留まる。その法則性のない無差別な攻撃が、この場を乱し最も戦果を上げている。つまり、最も経験値を掠めとっている。


「まずいな、俺の経験値が」


 カイはスケルトンにターゲットを絞ることにした。


 カイは戦場を駆け抜けスケルトンを、次々と倒していく。幸いなことに、カイが手に持っている棍棒は打撃武器であった。エリュシオンと同様に、打撃が弱点であるスケルトンには抜群の効果を発揮する。一撃殴るだけで、骨は砕け部位欠損を起こし行動障害をおこす事により、思ったよりも簡単に倒すことができている。


 それに勢いづき、さらにスケルトンを倒していると、カイの前に一体のスケルトンが立ちふさがった。


 そのスケルトンは他のヤツとは違い、鎧を着ていた。西洋風の鎧で、鉄と革が使われている。兜には赤毛がニワトリのトサカのように逆立っている。その鎧は腕と太ももが見えるタイプの物で、骨が覗いている。だが、それ以上にカイの目を引いたのは、スケルトンが手にしている盾ではなく剣だった。


 それは他のスケルトンたちの物と違って錆びてはおらず、一目見ただけで上等な剣だとわかる。


 カイはそれを見て、(ついてるな、こんな早い段階で武器が手に入るとはな。できれば装備も無傷で手に入れたいとこだな)カイは一気に踏み出し距離を詰め、棍棒を振り被る。(狙うは首、ここだ!)カ―ンという音と共にカイの攻撃は盾で弾き飛ばされ体勢を崩してしまう。それに合わせて放たれる突き。(やられたカウンターか! かわしきれない。うぉぉぉぉッ!)カイは無理やり体をねじり倒れこんだ。


 カイは倒れこんだおかげで、かすり傷程度で済んでいた。(いってぇな、なんとか串刺しは避けられたか)カイは急ぎ立ち上がる。


 スケルトンに追い打ちをする様子はなく、カイが立ち上がるのを待っているように見える。


 それを見たカイは(舐めてんのかこいつ、俺はスケルトンに舐められているのか?)カイが武器を構えると、スケルトンが攻撃をしてくる。カイはその攻撃を薙ぎ払うべく棍棒を振るう。剣と棍棒がぶつかり合う。ボキッっと音を立てて棍棒が折れてしまった。(やっべっ)カイはバックステップで一気に距離を取った。だがスケルトンは構えたまま動かない。


(なに考えてんだ、この骨は? 意味がわかんねぇ)と眉間にしわをよせるカイ。


 カイは奴を警戒しながら辺りを見渡す。辺りには倒したスケルトンが持っていた錆びた剣が、何本も落ちている。カイはそのうちの二本を拾いスケルトンを見ると、やはり動く事はない。


(一体何が狙いなんだ!? 戦って、そこまでの力の差は感じられなかった。遊ばれてるとは考えにくい。じゃあなんなんだ……まさか!?)


 いくつかの思考を巡らせ、こいつ意外にいい奴なのではないのかと考え嘲笑するカイ。まさかこいつは「騎士道精神のある骸骨」なのではないのかと。


「またせたな」


とカイが試しに声をかけてみると、武器の構えを解き大きく二回頷いた。それを見たカイは(どうやら推測通りのようだ。ではこのスケルトンの望みは……真剣勝負か)


「いいぜ、真剣勝負といこうか」


 カイは先制攻撃を仕掛け、双剣の手数の多さで一気に攻める。反撃する暇を与えず、連続攻撃で押しつぶす。カイの次から次へと繰り出す連撃、それは嵐の様な連撃と言っていいだろう。


 ステータス補正がなければ繰り出せない圧倒的な連撃。だがスケルトンはそんな連撃を盾と剣で捌き、隙を見つけては攻撃を繰り出してきていた。(手強い、もっと早く!)カイはさらに回転を上げていく。


 あれから何分経ったのか、いまだその攻防は続いている。攻撃を放ち続けるカイは思う。(決めきれない)戦況はカイが押してはいた。既にけっこうな数の攻撃をヒットさせているのだが、スケルトンは立っている。


 既にスケルトンの防具は傷だらけになっているのだが、これがレベル差というものだろう、決定的な一撃を与えきれていない。


 カイは削りきるのにはまだ暫くかかるだろうと思っていたその時、ガシャンッ! 突然聞こえた金属音に、カイは思わず、音のしたほうを見た。


 すると、スケルトンが持っていた盾が、地面に落ちているのがわかる。骨が衝撃に耐えきれなくなって、折れたのだろう。


 カイはこのチャンスを逃さず、一気に叩み掛けた。腕一本ではその攻撃に対応できずに、スケルトンは崩れ落ちた。


「俺の勝ちだ」


 カイがそう言うと、倒れたスケルトンは上を向いたまま、


「見事です、最後に真剣勝負ができてよかった。ありがとう」


 そう言いスケルトンが灰になり始め、


「えッ!」


と言う驚きの声を上げて消えていった。(……えってなんだ? 何に驚いたんだ、というかアイツ喋れたのか)そんなことを考えながらカイはスケルトンの持っていた剣を拾い上げた。


 その剣はロングソードと呼ばれるやつだ。特徴として一般的な片手剣より長く、柄が両手でも持てる様になっている。両手、片手持ちどちらでも使える剣だ。


 その刀身は美しく、触れただけでも切れそうな鋭さがある。見ているだけでかなりいい物だと思える。良い武器が手に入ったな、現状では破格のドロップ品だ。


 などと考えながら剣を見ていると、音が響いた。それはまるで、大きな鉄球が地面に激突したような音で、それと共に地面が揺れた。

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