第12話 蛍のような仄かな面持で物哀しい表情の娘子。

「この椿はの〜、その娘子の形見かたみなんじゃ」


「わしゃ当時“ひょうすべ” と呼ばれる酒宴好きの妖怪で久々の人の訪れに嬉しくてのその晩は里の者らに手伝って貰って野外に櫓やぐらを組み夏の盆踊り大会を開催したのじゃ」

「娘子は蛍のような仄かな面持おももちで物哀しい表情じゃったが一心に感謝を述べて宴を楽しんだ」

「全てを失い生きる力が抜けてしまった抜け殻のような娘子」

「妖怪は元々人に寄添い生きておったからの〜、集いし妖怪もその様子を察して話しかけ、踊り、馳走を運び盛り上げた」

「特に齢の若い子供の妖怪は娘子の様子を敏感に感じて周りに侍って気を使っていた」

「子供妖怪の中で“雪姫”、“伊吹丸” が一番仲良くなった」


「丑三つ刻となり妖怪どものテンションもピークとなる頃櫓上の特別席の娘子を見やると微笑みながら目を瞑っておった」

「やっと笑みが出たと、“雪姫”、“伊吹丸”が喜び櫓に駆け登った」


 二人は駆け寄る前に分かった。

 そこにはもう生命が無い事を。


 櫓が妖怪等の踊りの地響きで少し傾いだ。

〈コクリ〉と娘子の首が力なく傾く。

 ただその表情は楽しさを感じたままの笑顔のまま。


 盆踊りは自然と解散となった。

 櫓の上ではいつまでも“雪姫” の泣き声が響いてその晩は吹雪となった。


「翌朝わし等は吹雪の中、娘子を櫓の下に葬った」

「今でも娘子が寂しがらないように宴会は娘子の前で行う慣わしとしとる」


「娘子の命は自ら生きるを放棄したものだと儂は思う」

「そろそろ丑三つ時じゃ」


 肌に風が当たる。

 風は何とも柔らかい慈愛帯びて頭上より降り注ぐ。


 そう頭上に悠然と在る大楠木から降り注ぐ。


 みんなは確信する。

 その大楠木が娘子の眠る場所なんだと…。

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