第10話 満月の夜の狙撃。。。紅蓮の炎に染る夜空 ※戦いは静かに火蓋を切った

 右も左も分からないままに、直面する出来事の流れに任せここまで来た

 “みなみちゃんと僕”、深まる謎を少しでも解きたいためにゆうやは大きな

 質問を3つする。


 1つ、この世界は何?


 :この世界は、常若の国と呼ばれるダーナ神族が古の魔法で築いた安寧の地。

 住まうは、ダーナ神族とその眷族。

 だが、長い年月の内に様々な異分子も増え、更に強大な邪が甦りつつある。

 その治安が不安定となりつつある異次元世界に“みなみちゃんと僕”は迷い込ん

 だようだ。


 2つ、僕を“御君様”と呼ぶのは?


 :“尊き御方”の指示で “御君様”と呼ばれる七柱(7人)が呼び集められて

 いる。

 僕もその内の一人らしい。

 その案内と警護担当が“ハクア”や“スプリガン”や“フェニックス”。


 3つ、これからどうすれば良いのか?また、元の世界に戻れるのか?


 :これは“尊き御方”の待つ樹海の先シャングリ・ラにて説明がある。

 そこに兎に角向かう必要がある。

 

 陣屋の外は、吹きさらしの野っ原。


 風が強く、肌寒い。


 陣幕を背に外向きにズラリと居並ぶ屈強な鴉天狗が睨みを利かす中、


 僕らは“フェニックス”の例の梯子に掴まり〈ふわーっ〉と

 新月で蒼く染まる夜空へと上昇する。


 雲一つない澄み渡る紺碧の夜空に、僕らは浮かぶ。


「“御君様”、ここらで宜しいですかな」


 眼下には、鴉天狗の陣屋の篝火がロウソクの灯りのようにか細く揺らぐ。


 頭上背中は新月の眩いほどの月光で照らされ、

 まるで僕らは幻灯機の影絵のような虚ろな存在。


「“御君様”、あれなるを」と、“フェニックス”の眼差しが見据えるは

 月光でエメラルドグリーンに映し出される果てなく続きそうな樹海の

 海原。


 そのずっとずっと彼方に森の海原の果て夜空と交わる境界線辺りに、

 〈ピカッピカッ〉と明滅する雷光を纏う剣のようにそそり立つ山脈が

 見えております。」


「“あの魔の山脈の先に“シャングリ・ラ”はあります。」


「“御君様”、我らはそこを目指します。」


「あの樹海の果ての剣の山脈を越えた先を目指すのか〜」


 巨大な怪鳥“フェニックス”とそれから吊るされた梯子にぶら下がる影を

 新月、SUPER MOONが巨大な月輪でバックライトする。


「“みなみ”ちゃん、あそこまで行けば、きっと戻れる術が分かると

  思うんだ。行くかい“みなみ”ちゃん!」


 〈クスクス、クス〉


「“ゆうや”男になったね〜あたしに付いて来い! な・ん・てね」


「もー茶化さないでよぅ“みなみ”ちゃん!」


「ハイ!勿論!付いて行くわよ、“ゆうや”ぁ!」


 と“みなみ”ちゃんの答えに顔が赤くなる“ゆうや”であった。


「“御君様”、そろそろ下界に戻りまするか」

 と“フェニックス”が言い終わるか直後。


 それは現れた!


 〈すーっ〉と、目の前に“ハクア”が浮上して来る。


「者共!結界防御陣、方円陣_展開せよ!“御君様”に指一本触れさせるな」


 その“ハクア”の采配する声音は凛と澄み渡り、その姿は月光の中に神々しいまで

 に輝く。


 “フェニックス”と僕らを中心に三重の円陣が空中に組まれる。


 傍らには“ハクア”が薙刀を構えて立つ。


 屈強な鴉天狗らの三重の円陣の一番外側が、左方向に回転し始める。


 続いて二番目真ん中は右方向に回転し始める。


 三番目内側の円陣の鴉天狗は、静止したままで呪文?を唱え始め、


 〈ぶわーん〉と身体にライトイエローの光を纏い始める。


 〈ドギュン〉唐突に空気を裂く音が起きる。


 狙撃だ!


 同時に外側の円陣の鴉天狗が声も無く墜落して行く。


 墜落した鴉天狗の前方遥か彼方に黒い靄のような集団が姿を現す。


 〈ドギュン〉〈ドギュン〉〈ドギュン〉空気を裂く音が連続する。


 狙撃のような攻撃の激しさが増して行く!


「大外!魚鱗の陣、二番偃月えんげつの陣、三番そのまま」と“ハクア”の采配が

 飛ぶ!


「中央硬く、御大将“御君様”に何人たりとも近づけるな!命を賭し死守せよ」


 その後に続く、覇言で鴉天狗らの士気は極大化する。


 〈ドギュン〉〈ドギュン〉〈ドギュン〉と絶え間ない狙撃音に変化が現れる。


 〈ドギュン〉〈ピキン〉〈ドギュン〉〈ピキン〉


 弾かれる音が入り始める。


 観るに、三番の円陣の鴉天狗らからライトイエローの光源が拡がり、大外の魚鱗

 の陣形を覆い始めた。


 ライトイエローの光の膜は、狙撃を尽く弾く。


「二番、三番前後入れ替わり、二番“御君様”護りつつ後退し樹海へ降下せよ」


「各武人、誉を捧げ名を上げよ!展開〜いぃ!」


 〈ふわり〉と「姫、ご武運を」と言葉を残し“ハクア”の傍に従っていた黒鴉天狗

 の長が最前線である一番、三番隊へと向かい飛び立つ。


 僕らと“フェニックス”を真ん中に二番隊の後退が始まる。


 眼下の樹海はまだ遠い。


 狙撃音がいつの間にか止んでいる!


 〈ドギュン〉〈ピキン〉〈ドギュン〉〈ピキン〉が聞こない。


 遠目に一番、三番隊の方向を凝視する。


 距離にして1キロほど、人影の動きが見える程度。


 もう狙撃では無く、接近戦となっているようだ。


 鴉天狗隊の三倍はあるかと見える敵方集団の黒い霧に覆われている。


 〈パラパラ〉と鴉天狗が落ちて行くのが遠目に見える。


 傍らの“ハクア”が采配している。同じ鴉天狗同士で思いが通じるのだろう。


「一番隊、魚鱗を解きます。各武人、爆裂人の呼び水願います」


 一番隊の鴉天狗が四方に散開し始める。


「三番隊、詠唱半分光輪鎧維持しつつ、半分爆裂人詠唱開始!」


 采配後、「すまぬ」と“ハクア”の震え声の呟きが聞こえた。


 〈ピキン、ボガン〉と空気の振動を伴う閃光の点滅が敵方の黒い塊の中で明滅し

 始める。


 三番隊の爆裂人の詠唱を終えた鴉天狗は、〈フッ〉とその身を掻き消して


 一番隊の散開した鴉天狗の位置に〈フッ〉と現れ同時に爆散する。


 当然、一番隊の鴉天狗も爆散に巻き込まれる。


 なんとゆう恐ろしき決意の捨て身の攻撃。


 一番隊が広範囲に散開し、それ目掛けて三番隊の爆裂人の起動を持って一番隊

 の兵士目掛けて瞬間移動して爆裂人を起動している。


 一番隊の絶対数は、三番隊より少なくなっておりもう三番隊の飛び先は無く

 なった。

 ※一番隊が全滅したという事になる。


 黒鴉の長は、残りの三番隊を集め真ん中に光の盾を詠唱する。


 その光の輪の中に爆裂人の鴉天狗が円陣を組む。


 黒鴉の長の指示に従い、樹海に後退する“ゆうや”を守護する一団に追いすがろう

 とする敵の突端を黒鴉の長の光の輪が牽制し抑え込む。


 敵も爆裂人の脅威から後ろに後退する。


 後退する2番隊は、涙目で霞む目を凝らしながら樹海へ樹海へと降下する。


 ただその鴉天狗らは、なんぴとも近寄れない凄みのオーラを視覚出来るほどに纏

 っている。


 樹海が目前1メートルに降り立つ。

 

“フェニックス”も梯子が、ゆっくりと降り立つ様に着地させる。


 “ハクア”が「さ、“御君様”樹海の中へお願い致します」

 と誘う。その眼は真っ赤である。


 “フェニックス”が滞空しながら


「“御君様”我も若輩鴉どもを加勢致しますのでこれにて」

 と凛とした声音で云う。


「あ、“御君様”、我の名は南蛮の“フェニックス”という化鳥如きでは御座りません。


 我が名は、“紅鳳凰”日の本の同胞で御座います。


 命あらば、今後ともお見知り置きを願いまする」


 と云った途端、紅蓮の炎が吹き出し敵を見据えて振り戻すその眼差しは、修錬無

 き者が見たら命が消し飛ぶ程の凍てつく紅蓮の魔神の瞳に変貌している。


 〈すーっ〉と浮上して〈キーン〉と飛び去る。


「クハハハハ、得たり我が戦場。紅蓮に焼き尽くさん。ファハハハ」

 と凛とした声音が時間差で残る。


 思念が共鳴するのか、飛び向かった戦場での“紅鳳凰”の声が聴こえる。


「“鴉天狗”ども、もう良い!“御君様”無事に逃げ延びた、撤収せよ!

  しんがりは我に任せよ。上首尾で御座った。後は生きよ!」


「御意」と“黒鴉天狗の長”が応える。


「方々“御君様”の元へ馳戻る。撤退開始〜っ!」


「成る程、敵なるは“ガーゴイル”の群れか。道理で易々と“鴉天狗”を射抜ける訳よ」


 “ガーゴイル”は、神聖の魔眼を持ち遠隔地より物理防御を無視して目視した敵の

 心の臓を射抜くことが出来る。

 

 だが魔法のシールドは絶対的な効力を発揮し、魔眼の狙撃を弾く。


「何故、魔族の尖兵が我らを襲う!。応えよ!」


 “ガーゴイル”からの返答は無い。


 代わりに“紅鳳凰”は、〈キュィーン、キュィーン、キュィーン〉と魔眼を一斉に受

 ける。

 

 〈ゴオゥア、ゴオゥア、ゴオゥア〉と魔眼は“紅鳳凰”の纏う紅蓮の炎に飲み込まれ

 焼失する。


「返答の声も無しか、下郎め。有難き!情け無しでMAXでお相手出来る」


 “紅鳳凰”は、

 

 〈キュィーン、キュィーン、キュィーン〉と照射される魔眼の嵐の中を敵前の

 隊列を横薙ぎに〈ヒューンン〉疾風駆け抜ける。

 

 疾風の少し後に炎の帯が〈メラ。。メラメラ〉と舐めるように起き始める。

 

 “ガーゴイル”は一陣の風が吹き去った感覚しかない感覚で紅蓮の炎に焼かれ墜

 ちて行く。


 “紅鳳凰”が、3回程“ガーゴイル”の群れの先端を横薙ぎに滑空し紅蓮の炎の花を

 咲かせると、“ガーゴイル”の群れの前進が止まった!


 だが、“ガーゴイル”の群れは太陽光を曇らす程の雲霞の如き大軍であることは

 変わらない。


 “紅鳳凰”は、敵に気取られるをもじさずに大きく後ろを振り返る。


 その視線の先には、樹海へと入る“御君様”一行の姿があった。


 “ガーゴイル”の群れに視線を戻し、

「紅蓮に焼かれ、灰と成りたき者共は来るがよい」

 と凄味を利かす。


 “ガーゴイル”の群れが、動き方・フォーメーションを変え始める。


 巨大な氷山の如きの群れ花火が咲くように縦横に広がり始める。


 統率力は強くないようで鴉天狗のような微塵も乱れないフォーメーションでは

 なく思い思いに鈍足に広がって行く。

 

 点の“紅鳳凰”と“ガーゴイル”の群れ塊の構図が、


 点の“紅鳳凰”と“ガーゴイル”の多数の点の構図に変わろうとしている。


 そうなると、点の“紅鳳凰”では防げなくなる。


 その動きの意味を察知しない“紅鳳凰”ではない。


「愚策!浅はか成り」


 と、〈ふふふふ〉「一挙に屠るか」※かなり、嬉しそう。


 その言葉の直後、〈グオングオン〉と重低音の音が響き出す。


 “紅鳳凰”の胸から眩い光が溢れ出す。


「受けて見よ!紅蓮の咆哮」〈うぅうぅ〜ぐうぇ〜ぇえぐうぇー〉


 と、物デカイ異物を無理矢理吐くが如く、口から噴射する。


 〈シュパン、ゴオオオおおおお〉


 と、真一文字に弩級紅蓮の炎が襲いかかる。


 まだ、広がり始めたばかりの“ガーゴイル”の群れの真ん中に着弾。


 〈ピキーン、ボゴン〉


 見定める“紅鳳凰”のその鋭い眼差しは何故か涙目。


 ※やはり、紅蓮の咆哮は止めよう。。。嗚咽してしまうゥ


 “ガーゴイル”が密集していた紅蓮の咆哮の着弾点は灼熱の炎の名残りで

〈ユラユラ〉と大気が陽炎の如く揺れている。


 風に乗り〈サラサラ〉と“ガーゴイル”だった粉塵が降って来る。


 〈うぅうぅ〜ぐうぇ〜〉まだ嗚咽を漏らしながら、“紅鳳凰”は踵を返して樹海

 へと向かおうとした直後。


「なんと、我の生命尽きるは、よもや今夜であったか、これも我が運命か」


「さもあらん」「“御君様”ご武運、大願成就遂げられんことを祈念致しまする。」


 と、踵を元に戻し“ガーゴイル”らの遥か先の空を睨む。※その瞳は水を得た魚

 の様に嬉々として笑っている。


 〜○〜

 武人“紅鳳凰”がニヤリ。

 だけど、無駄に命は散らすな!

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