補給遮断作戦 03



 ロイクは艦隊に残った大型輸送船を容赦なく破壊させる。

 戦況モニターに映し出される敵補給艦隊を表す簡略CGモデルが、自艦隊の攻撃で撃ち減らされる度に小さくなっていくのを見ながら彼はこう思っていた。


「このCGモデルが小さくなっていくにつれて、実際に人が死んでいる…。初陣の時はその考えが頭をちらつき心がざわついたというのに、今では冷静に戦況を確認しているだけになっている。人とは慣れるものだな…」


 ロイクは、旗艦の艦橋に設置されている指揮官席に座って、戦術モニターを眺めながらそう呟く。


「閣下、何かおっしゃいましたか?」


 側に控えていたゲンズブール大佐が、上官の呟きに反応して指示かどうか確認する。


「いや、なんでもない。それより、敵の輸送船は一隻だけ、残すように艦隊に厳命せよ」

「はっ!」


 この指示の意図は単純で、敵の占領地域を単独で行動しているロイク艦隊は、物資の補給ができないためにこの補給艦から物資を奪うためであった。


 大型補給艦が残り一隻になった時に、ロイクは降伏勧告を出して、相手はそれを受け入れる。

 相手も補給物資目的とは解っていたが、自分達の命と天秤にかければ仕方がない。


 ロイク艦隊は、物資を奪うとその大型補給艦をその宙域に残して、何処かへと立ち去った。


 ロイクの戦術の基本は機動と速攻であるが、レーダーの発達した現代に置いては、折角の機動と速攻もその価値は半減されてしまう。


 そこでフランは彼の艦隊の全ての艦を、ステルス性を有する高速艦にして、機動と速攻に奇襲を加わることにした。そのステルス性は優秀で、例えレーダーに反応したとしても流星群と誤認される程である。


 護送船団のレーダーにロイク艦隊が、2万キロまで映らなかったのはその為であった。


 但しステルス艦は、通常の艦よりコストと建造工程に掛かる時間が増加しており、そのため配備が間に合わずに彼の指揮する艦隊数は、1800隻とヨハンセン艦隊3000隻比べれば約半分となっている。


 ロイクが士官学校に入った理由は、ずばり死にたくないからだ。

 彼はヨハンセンほどではないが、戦史や軍記に興味を持ちそれを学んだ彼は学んでいる内にある事に気付く。


「戦争は階級が上であればある程後方の安全な所で指示を出して、下になればなるほど使い捨てのような危険な場所に送られ、消耗品のように死んでしまう。死にたくなければ、士官学校に入って出世するしか無い!」


 ガリアルムでは彼が幼い頃から、徴兵制が採用されており男女問わずに、兵役の義務

 が課せられている。当時、ガリアルムでは国王シャルルの方針によって、戦争は行われていなかったが周辺国では、度々領地を巡る戦いがおこなわれていた。


 そのため彼は、いつこの国でも戦争になるかわからないと考え、士官学校に入り出世することを目指す。


 入学当初『童の者』で『陰の者』だった彼は、自分に自信を持てずに成績が振るわなかったが、一年の時に訓練で目の近くを怪我して、サングラスを掛けるようになってからは、サングラスによって『陽の者』になったような気がして、本来の才能を発揮できるようになり成績も上位になる。


 その時に成績首位を争ったのが、クレールであった。

 だが、彼は三年の初めにある事に気付く。


 それは、ルイが気付いた事と同じで、<成績が優秀な者は、前線に配属される事になる>ということで、そんな危険地帯に配属されれば元も子もないことから、彼はルイと同じく<脳ある鷹は爪を隠す>で成績を程々に押さえ後方の基地勤務になるようにする。


 ルイと馬が合うのはそういう考え方が似ているからかも知れない。


 彼は計画通り卒業してから後方基地勤務をしていた。

 彼の計算通りなら、この後方基地で安全に順調に階級を上げていくはずである。

 だが、彼の誤算は<爪を隠さずブイブイ飛んでいた>頃を知っているクレールが、フランの側近になったことであった。


 護送船団が襲撃されて壊滅したことは、すぐさま生き残った補給艦からボローナに報告され、更にドナウリア本国にも報告され、もちろんロイク艦隊からフランにも報告が送られ、彼女も知る所となる。


「『童の者』がやってくれたようだな」

「そのようで」


 フランのチート洞察能力は、そのように表情を変えずに同意したクレールが、いつもよりほんの少しだけ嬉しそうに答えたことに気付く。


「フフフ…」


 フランが自分を見た後に洋扇を口元に当てて、微笑する姿を見たクレールはこの天才に今の心境を気付かれたと推察して、冷静な表情で嫌味を込めてこう尋ねてみる。


「殿下、何を一人笑っているのですか、気持ち悪いですよ」


 その彼女らしからぬ嫌味を込めた質問を聞いたフランは、自分の洞察を確信してこう答えた。


「いや、だってまさか我が鉄仮面参謀殿が、同期の成功を喜ぶ一面を持っているとは思わなかったのでな」


「それは深読みしすぎです殿下。私はあくまで作戦の成功を喜んだだけです」


 彼女は同期の成功を喜んだことは頑なに拒否してくる。


 フランはその返答を聞いて、いつも冷静な彼女が妙に頑なに否定する姿が、おかしく見えてしまいこのような返事をしてしまう。


「まあ、そうしておこうか…。フフフ…」


 クレールはこの恋愛脳お花畑の余裕の態度に、今の自分の心を覗かれた感じがして、それが何故か不快に感じてしまい、またもやこのような返しをしてしまう。


「フフフ…。殿下は私の心は洞察できても、ロドリーグ提督の心は無理なのですね。きっと、恋愛脳お花畑がフィルターとなってしまっているのでしょうね」


 彼女は大人気なく年下の恋愛下手な少女にこのような返しをしてしまい後悔してしまう。


「な…?! どういう意味だ、この鋼鉄冷徹冷血参謀!?」


 フランはチート的天才とはいえ、まだ17歳の少女であるために、ルイの事になると冷静な返しができなくなってしまう。


「作りすぎたからと言って、同じシチューを三日も食べさせられて、どう思っているのかと思いまして…」

 フランは張り切ってシチューを作ってしまい、その量は大量であった。


 そのため彼女と彼は、そのシチューを夕食に三日間連続でアレンジ無しで食べていた。


「ルイは美味しい、美味しいって言って食べてくれている!」


 フランはそう答えるが正直自信はなく、優しい彼が気を使ってそう言ってくれているだけかもしれない。


(まあ、その優しいところが、私がルイを好きな理由の一つなのだが~)


 だが次の瞬間、フランは頭をお花畑にしてこのように考えていた。


「そうですか。それは、私の考え違いのようですね。小官の愚考によって、殿下の心中を騒がせてしまい申し訳ありませんでした」


 クレールは少し大人気なかったと思って、フランに謝罪する。


 その場はこれで収まったが、今日の夕食時に部屋に呼ばれたルイが監禁されて、またもやヤンデレ目で金属製のおたまを持ったフランから尋問を受けたことは言うまでもない。


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