第44話 自分勝手な行動

 白瀬姉のアパートから数十メートル離れた住宅街の十字路にて、俺は白瀬妹を捕まえた。

「おい、白瀬」

 俺は白瀬妹の腕を掴む。

「離してくれないかな?」

「どうせ、駅のホームに行くつもりだったんだろ?」

「さすがだね、成瀬くんは。何でもお見通しなんだね」

 白瀬妹は言葉だけ聞けば、褒めてるようだが、目は合わせようとしない。

「姉はあんな感じなんだよ。結局は、わたしの記憶喪失っていうウソも見破っていたんだよ。なにもかもお見通しで、わたしはそういう姉が嫌いなんだよ」

「まあ、それはわからなくもないけどさ……」

「それなら、何かな? ここでわたしを捕まえて、戻れって言いたいのかな?」

「いや、そのさ、ちゃんと、姉さんと向き合って、話をした方がいいかと思ってさ……」

「成瀬くんに、そういうことを言う資格はないと思うよ」

 白瀬妹は言うなり、握っていた俺の手を無理やり引き離した。

「それに、成瀬くんはわたしの彼氏でも何でもないんだよ。それなのに、こういう時だけ、彼氏みたいに、わたしのことを考えて何かをしようとするのはズルいと思うんだよ」

「ズルい、か……」

「わたしは、やっぱり、姉に何か会うんじゃなかったって思うよ」

 未だに目を移そうとしない白瀬妹はぽつりと小声で漏らした。

 俺は自分勝手な行動をしたのかもしれない。

 白瀬妹の立場を考えずに、自分がよかれと思ったことを押し付けようとしていた。だいたい、彼氏でもない、単なるクラスメイトの男子という関係だけなのにだ。

「悪い」

「謝らなくていいよ。何だか、そういうことされると、わたしが惨めになってくるんだよ」

 白瀬妹は口にするなり、おもむろに歩き始める。

「どこに、行くんだ?」

「家に、帰るんだよ」

 白瀬妹は答えた後、ふと足を止め、振り返ってくる。

 ようやく見せた顔は瞳が潤んでいて、指で涙を拭っていた。

「大丈夫だよ。今は気が変わって、駅のホームには行かないから、そこは心配不要だよ」

「白瀬……」

「じゃあね、成瀬くん」

 白瀬妹は言うなり、背を向けて、再び足を進ませ始めた。

 一方の俺はかけてあげる言葉が思い浮かばず、唇を噛み締めることしかできなかった。

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