リッチは中二病だと自覚した

四宮あか

リッチは中二病だと自覚した

 リッチとは……人の一生では成しえなかったことを追求するために、不老不死になる道を模索し、それに半分成功し半分失敗した。

 ――人間の欲のなれの果てである。



 不死になることは成功しても、肉体が朽ちていくことは止めることはできず。

 骨と皮だけの姿に、ぽっかりとあいた目の部分に不気味な青い炎が灯る。

 彼らは言葉を話すが、対話はほとんど成立しない。


 死から逃れてまで学び続けた魔術は厄介で、アンデット系モンスターの頂点に君臨している。

 かつての栄光を象徴するような装飾品がついた煌びやかだっただろう今はボロ布に身を包み。骨と皮だけになった不気味な外見はまさに、人間の欲のなれの果てと呼ぶにふさわしい。


 以上、モンスター図鑑より抜粋。




 中二病――渡り人と呼ばれる異世界人の国で、14歳前後の心の成熟が未熟な者が患うことが多い病。

 身体には何の影響はなく、精神に強い影響をもたらす。

 軽症の場合。不穏行動は少なく、この恐ろしい病にかかっていることは、第三者からはわからず、人知れず発症し、人知れず完治することも多い。

 病は第三者にうつることはなく、感染している間も当人が苦しむことはない。



 感染者の多くは、

 ・自分は特別な存在。

 ・自分には秘められた力がある。

 ・自分は他の人と違う定を背負っている。

 といったような、自分だけは特別な存在に違いないと強く錯覚する。



 少々冷静になればありえない設定であろうとも、病を患っている者はそれに気が付かず、本気で心から信じている。

 本人は大まじめだが、そのありえない設定は第三者には通じず。

 精神への影響が強くなり、不穏な言語が外に出るようになると、人々はこいつは中二病だと認識し。生暖かい視線を送る。

 中二病を患っている患者を客観的に見つめると、実に滑稽。

 重症化している患者に関しては、あれが自分だったら……中二病が完治したら死ねるなどと言われるほどの精神ダメージをのちに受ける。




 中二病を患った患者の多くは、特に治療などせずとも時の流れによって、自然に完治する。

 そして、完治後にこの病を患っていた副作用に長期的に苦しめられる。

 病に患っていた間の自分の数々のふるまいを、完治したことで第三者と同じ感性で判断できるようになるからだ。

 病にかかっていた間の自分の行いを恥じ、そして思い出す度……のたうち回れずにはいられなくなることや、死にたいと己の過去のふるまいにたいして、死を引き合いに出すほど後悔する者が後を絶たない。

 病を患った者はみな、己が病を患っていたことを恥じ、隠す。

 中二病を患っていた期間のことを人は『黒歴史』と呼び。

 黒歴史を封印するといった風に、過去病に患っていた出来事を封印するのである。




 幸い、この中二病という恐ろしい病をこの世界で発症した例は今のところ報告にはない。

 自分のこれまでの生き方を一生にわたり恥じ、隠して生きていくなど……考えるだけで恐ろしい。

 渡人の国には、我々の知らない恐ろしい精神に異常をきたす病があることを心しておかねばいけない。

 そして、わが国で、実はこの恐ろしい病が発症した人がいるとすれば……

 時の流れで自然完治することを切に願う。


 以上。渡り人病図鑑より抜粋。






 簡単☆中二病自己診断チェックシート

 ・自分は特別な存在だ。

 ・自分は特別な力を持っている。

 ・一人称が独特。

 ・十字架、髑髏、剣、悪魔の羽、天使の羽の中に何かしらの思い入れがある。

 ・騒がしい世間に興味などない。

 ・オリジナルの呪文を作ったことがある。

 ・世間の流行や恋愛にたいして、愚かな人間が好むものと馬鹿にしている。

 ・魔術の本など、世間一般で怪しいと思われる本を所有している。




「……」


 魔術の探求。

 それが、の望みだった。

 しかし人の身では極めることができず。

 人であることを失った代わりに、寿命で死ぬことから抜け出しさらに学びを重ねた。


 だって吾輩には才能があった。

 ほかの人達とは違う、吾輩は特別だった。

 だから人の身を捨てでも、自分の道を突き進まなければいけないと思ったのだ。

 人の身を捨て、学び、学び、学び、あまたの新しい禁術を編み出した。

 それでも、吾輩は足りなかった。

 きっと人の身を捨てたとき、満足する心すら捨ててしまったのかもしれない。




 渡り人の病。

 それはすでに生が失われた吾輩にとっては関係のないものだと思っていた。

 魔術を極め続けたその先にはいったい何があるのかという、自分が持っていたはずの夢や希望が薄れていることに気が付いたとき……

 自分がこのようにしてまで生きる意味がわからなくなった。


 だからこそ、何か自分が生き続け魔術を極め続ける理由となるものが何かほしかったのだ。

 あまたの書籍を読んだ吾輩は、ついに渡り人の書物に手をだし、この世界以外のことの真理へと迫ったのだ。


 この身体はすでに朽ちており、病にかかっても死ぬことなどない。

 それがどうだ、今吾輩の手は震えていた。

 このチェックにすべて該当する場合はどうなるのだ……

 はやる気持ちで吾輩は次のページをめくった。





 全てがチェックが入ってしまったあなた!

 あなたは間違いなく中二病です💀💀💀


 

 中二病、身体的に害はないが、心を蝕む精神の病。

 未知なる病名に手が震え、恐怖に膝が笑う。


「吾輩はこれまで病に侵されていたのか?」





 吾輩だって今から〇百年ほど前は、人の身だった。

 それが今の自分はどうだ。

 高価な本が入ったガラス扉に移るのは、何百年の歳月の間に擦り切れてしまった真っ黒で、豪華な装飾品が付いていた、かつての栄光の衣装に身を包んだ、自分のおぞましき今の姿だった。

 骨と皮だけの黒く醜いおぞましい容姿。眼球のあったところに目はなく。代わりに灯る青く不気味な炎……

 長年袖を通した服はすりきれ、どこからどう見てもアンテッド以外の何者でもないものがガラスに映っていた。

「ひぃ」

 自身の容姿に驚き滑って、吾輩は久方ぶりに尻もちをついた。

 そして、急激に襲う、恐怖、虚無、これまでの自分の行い。

 はやる気持ちを抑えて、吾輩は書物の続きを読む。




 中二病診断が出た貴方。

 でも大丈夫♡

 厨二病は恐ろしい病です。

 しかし、恐れることはりません。



 自身が中二病だと自覚すると、中二病の病はたちどころに――




 頭の中に走馬灯のように流れる数々のこれまでの数々の出来事。

 自分は特別だと思っていた日々。





 その結果、人であること辞めちゃった! ←今ここ。






 イケメンどころか、退くメンとしか言えない今の自分の外見。

 一人称はいつのまにか、何がどうなったのか『吾輩』。

 そういえば『吾輩』とかいうやつ、吾輩以外に見たことない!

 語り口調も、いかに自分が崇高な存在かを今思うとに意識していた。

 だって、あんな口調で話す人見たことないもん。




 人をやめて以来、初めてこみ上げる強い感情。


『羞恥』


 地面にひれ伏しのたうち回る。

 固い石の床にむき出しの骨が打ち付けられて、カンカンカンカンやたらうるさい。

 しかし、どれだけのたうち回ったところで、過去は変えることはできない。


「吾輩は今まで何をしていたんだぁぁあああああ」

 大きな叫び声は、遥か昔に人は住むことをやめ、吾輩の他に誰もいないゆっくりと朽ちるのを待つ図書館にこだました。





 あの衝撃の事実から一月後。

 吾輩……いや、俺はあの本に書かれていた通り、中二病を自覚したことであっという間に正気を取り戻した。


 正気を取り戻してからは最悪だった。

 まさに本で読んだ通り、俺はこれまでの自分の黒歴史の数々に死にそうな後悔と恥の概念が襲ってきた。

 しかも、俺のやらかしは精神面では収まらず、身体をアンデッドの最高位ともいえるリッチに変えてしまうという取り返しのつかないところまで到達していた。


 詰んでる!



 鏡、ガラス、水面、いたるところに移る自分の容姿を見るたびに、中二病の最大のやらかしを常に見せつけられているようで恥ずかしくて死ぬかと思う様な日々だった。



 そんな私がさっそく取り組んだのは、もう一度人に戻るということだった。

 しかし肉体が朽ちてからかなりの歳月が流れ、汚れた魂の吾輩は……あっ、また独特な一人称と崇高ぶった言い回しでてる!

 だってこういう感じで何百年単位で生きてきてるからもういろんなことが悪い意味で癖になってる。


 ……オホンッ、でも残念なことに吾輩は生き返るなんてことはできなかった。

 だめだ、長い間つかっていた一人称ゆえについ言ってしまう。

 吾輩という部分だけはのちのち改めることにして話をすすめよう。

 じゃないと一向に吾輩の呪いのせいで先に進まない。



 リッチでいる限り、吾輩は自分のやらかしを自覚せざるを得ない。



 でも、その辺は大丈夫だ。

 多くの時間を魔法に使っていた吾輩は、人を生き返らせることはできないが。

 欠損部を治すことくらいはできる。



 なので、ものすごく時間をかけ頑張ってみた結果。

 無事それらしく自身の身体に肉を復元することに成功!

 吾輩はやはり天才で特別な子だったかもしれない……ってまた出てる中二病の余韻。

 頭をふって、つい中二病よどこかに飛んで行ってしまえと念じる。



 すでに、失ったものを一時的に復元しているに過ぎないので、常時魔力を消費など問題は多々あるが……まぁ、外見が骸骨であること以上の問題があることはそうそうないので良しとしよう。




 鏡に映るのは、骨ではない。

 血肉が通っているように見える人間だった。

 吾輩はやり直せる。これまで取り返しのつかないことを、それこそ自身が骨になるまでやってしまったが……

 渡り人の本にはこう書いてあった。




 人生はいつだって、気が付いたときからやり直せると!

 吾輩の第二の人生は始まったばかりなのである。

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