第12話 「学校祭」 その18


――――☆


「ゆずと、大丈夫ですか?」


「うん、おかげで回復したよ」


 あれから二時間が経ち、時計には午後九時に秒針が向いていた。たったの二時間寝て治るようなものなら大して危ないことなどなかったかもしれない。もしかしたら僕の考えすぎなのかもしれないな。


 ——にしても、四葉にくぎを刺されたが前沢に感謝を伝えるのはなんか嫌だな。僕の細胞が総動員で嫌がっているのを感じるし。こりゃあ何十億個の細胞から表が入っているし言わないほうが…………なんて馬鹿なことはできないな。


「ねえ、何考えてるんです? 顔がめっちゃ怖い顔になってます」


「え? あ~~ごめん、こっちの話」


「ほんとにです?」


「え、いや……まあそうだぞ?」


「はぁ……まあいいですよ」


 溜息をもらす四葉。


 同時に彼女は箸をお椀の上に置いた。口に含んだ今日の夕食、甘辛に仕上がったチキン南蛮の咀嚼を一通り終えて、こちらを見つめる。


「な、なに?」


 ジト目を向けられるとさすがに困るな。もしかして僕の顔になんかついていたのかな?


「分かりませんか?」


 どうやらジト目だけではなかったらしい、加えて少々の怒りも混ざっている。いや、怒りじゃなくて呆れかもしれないが。


 って、なんだ?


 さすがにそんなに見られたらこっちも照れる。


 ちょ、み、見ないで、見ないでほしいなぁ……そんなに。


「……わ、分かりません」


「はぁ……まあ、ですよね……ゆずとですもんね」


「なんだよ、その呆れ顔は……?」


「だって、何もわかってないから」


「でも……うん、何……だ? 一体全体、見当もつかないけど」


「ほら、分かってないです」


「……それは、でも……」


 こうなったら四葉は止められん、女子怖いぞ。


「……四葉、結構心配してたんですよ?」


「そ、それは、どうも……」


「じゃなくて、その……ありがとう……とか、ないんですかって……」


 目線を下げる彼女、腰を少しだけ捻ってもじもじとし始めた。


 それにしても、さっきの呆れジト目はどこかに行ってしまって、まるで別人のような一言だった。


「……」


 一度、思い出すか。


「……」


 目が覚めてからの出来事を思い出すと——確かにお礼を言ってなかった。


「あ」


「もぅ……」


「すまん、忘れてた」


 じゃなくて。


「その、ありがと……助けてくれて、心配してくれて……」


「ど、どうも」


 でも、確かに思い返してみればお礼お礼って言ってたような気がするな……前沢にお礼しろって、実は自分にしてほしかったっていうことか。


 にしても……なんだこいつ。


 かわいいな――


 ——ってわかり切ったことか、僕の義妹は可愛いや。


「なあ、四葉」


「なんです……?」


 白米をパクっと口に含んだ彼女、頬がリスのように膨らみ、小さな口はもぐもぐと音を立てる。動きがまさに小動物のそれだった。


「いろいろ助けてくれて、迷惑かけてごめんな」


「そ、それはさっき聞きましたっ」


「さっきのはお礼だろ?」


 ま、まあと呟き告りと頷く四葉は頬を赤くする。別にツンデレでもないのに、なんか少しだけ、四葉がデレた顔が凄く愛おしく感じてしまった。


「なあ……」


「?」


「ありがとな」


「こ、こちらこそです……///」


 最初から、ちゃんと言わないところが特に可愛かった。


 洞野四葉は……最高の義妹いもうとだ。

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