第8話 「救世主女たらし伝説」 その13
「それもそうだよ……ほんとに」
「……ほんと良く分かるな」
「もちろん、ボッチをなめるんじゃないって」
胸を張って言う彼女、別にそこまで自慢気に言えることじゃないはずなのにそれでもにっこりと笑っていた。
そんな焦燥の間。
その笑顔に映ったのは、その笑顔に重なったのは————。
「ねえ」
「うん?」
「私ね、無理には聞かないよ」
「う、うん」
「でもさ、なんかあったなら頼ってよね。洞野君みたいにねたくさん友達がいない私にとっては、すごく大切な友達だから、困ったときは相談してほしい」
笑顔がするりと抜け落ちる。
別に、彼女は泣いていない。
でも、なぜだろうか。
僕には泣いているように見えた。こんなことは比喩か何かではない。本当にそう見えたのだ。理由も理屈も分からないけど、ほんの数秒だったが正真正銘の涙が見えた。
「……あはは、な、私……何言ってんだろうね、恥ずかしいっ」
僕がその幻想を見つめていると、彼女は両手で大事そうに抱える小説を口当たりまで持ってきて、女の子特有の妖艶な唇を何気なく隠していた。
「いや」
「……?」
「いや……ありがとう」
ここまでも頼りになる友達がいるのに、僕は何を溢しているのだろう。
まったく、僕の方こそ恥ずかしい。
いいんだ、このことは忘れていいんだ。
ここで考えて答えが出る話ではない。
先も思ったが、時期尚早なのだ。高校はまだ二年間ある、むしろ家だって同じだ、大学だって同じだと思っている。だから、この先に歩む道で僕と彼女でゆっくりと決めていけばいいんだ。
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいな」
はにかんだ可愛い笑みだった。
雰囲気も、外見も、性格だって違うのに、笑顔が四葉と重なっていた。
「ああ、頼りにするよ烏目さん」
「っあ!」
「ん?」
僕が笑みで返すと、何か考え付いたかのような表情で指を一本天に向けた。
「そう言えば、私のことは名前で呼んでもいいよ……というか、そっちの方が嬉しいし、相談……しやすいじゃない?」
頬を薄桃色に染めている彼女を前にして、僕の言葉は決まっている。
「おう、椎奈」
「……頼むぜ、柚人」
「なんで、ぜ?」
「こっちの方が友達って感じしない?」
「あ、はは……確かにな」
苦笑する僕をまじまじと見て、小さな手で精一杯顔を覆う。
「っ⁉ も、もし、もしかして……変だった?」
「ん」
コクっと頷くと、彼女はその場にしゃがみ込む。
「っ///」
変な感覚だった。
椎奈の照れた顔を見て、僕のムネノコドウは高まった。
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