第6話 「真の同志は灯台下暗し」その6
前沢の口調はとても辛辣だった。
苦しいというか、嘆きというか、僕に語り掛けるような彼の瞳は少しだけ曇っていた。
「まじか」
「ああ……まあな」
空気が重くなる。
ずっしりと僕にのしかかる話の重さが彼の心情を表しているかのようで、僕には理解できかねないものだった。
「それで、そんな表情するんだしなんかあるんだろ……彼女?」
「なんか……か、でも、そんな簡単な話じゃないよ」
「それなら、こんな立ち話じゃなくて、また今度だな」
「おう、そうしてくれると嬉しいよ……」
彼の何とも言えない悲しい表情、心は痛む。無論、僕だって辛い経験はあったし、それを何とか耐えて、壊して、最後には越えて、この道を歩んできたと思う。でも、同級生のことでそこまで悩んだことは四葉くらい親しくならないとない。彼のように、中学生からの関係ではそこまで至らない。
トレイを回収口に運びながら思案していると、急かす様に昼休み終了のチャイムが鳴った。
——————————————————☆☆☆
いつも通り、それこそいつも通りの授業が終わる。
午後の授業は苦手で嫌いな国語科目だった。古典と現代文、この国語科目のダブルアタックが僕の
僕の心に大きな穴がぽっかりと開く。
「ぐはぁああああ!」
「おいおい、大丈夫か?」
机に僕が突っ伏すと、前側からよく知る男の声がする。
「ああ、まあな」
「柚人って現代文嫌いなのか……苦手なの?」
「いや、苦手ってわけでもないけど……まあ正直言うと苦手かもしれないし、ましては好きではないな」
「好きではない——そんな回りくどい言い方せんでも先生はもういないぞ?」
「……じゃあ嫌いだ、クソくらいだ‼‼」
「先生居るぞ」
「へ?」
彼がそう言うと、目の前には鼻息を闘牛の如く鳴らした現代文の先生が立っていた。
「君はぁ、洞野柚人くんだね?」
圧倒的なオーラに、僕は狂気を感じ腰が抜ける。
するりと落ちた僕の体には目も向けず、下へと落ちていく僕の瞳をその爽やかかな言葉とは裏腹に睨めつける。瞳を合わせて感じてくるのは、恐怖と狂気、その二つだけだった。
「は、ひゃい‼‼」
鬼のような形相に怯んでしまい、変な声を出してしまう。すると、彼の怒りはさらに上昇する。
「君は……授業態度0点に、しとくとしよう」
「へ?」
世にも奇妙で、本当にあった怖い話が今ここに爆誕した。
「おいおいおいおい、あれひどすぎじゃねえか‼‼」
怒りと焦りに震える僕を前に、前沢ともどもクラス中が笑いに更けていた。
「まあ柚人が悪いしなぁ、しょうがないしょうがない!」
「柚人~~どんまい!」
「洞野君、やっぱりやるわね」
「やってねえよ! お前らうるせえ‼‼」
にやにやする皆に殺意すら覚えるが、問題はこいつ、前沢にある。先生がいることを素早く言っていたらまず、こんなことにならなかった。
「……おい前沢、なぜ言わなかった⁉」
「え?」
「え? じゃねえ‼‼ こちとら死活問題なんだよ、あれがなんだかんが一番低い科目なんだから、もしも僕になんかあったらどうする⁉」
「柚人次第だな、あはは!」
「お前、ぶん殴るぞ?」
「ぎゃははははっ‼‼」
僕が拳を構えると彼は席を立った。
「じゃ、また!」
「んなっ!」
先ほどの緊張感は僕の中からは消えて、僕にとってはつまらない校内鬼ごっこが始まった。
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