第十節:私の正体

 宿をいいところに変えてもらって、高級な四人部屋に移動させてもらってから、すぐに私は話を切りだした。


「まさかバレているとは思いませんでした。『ゲルハート』さんに……」と私がいったのだ。


「カルトルまでの対応に難があったのでね、独自ルートで調べてもらったのさ。まさか本当に姫君だとは思わなかったけどな」と『ゲルハート』はいった。


「内政官交通大臣の娘さんてことは姫君で通るじゃない、なんでこんなに危険な旅路を?」とは『セリア』であった。


「人にはそれぞれさだめがあるモノじゃよ」と『ウィーゼル』はいって『セリア』をなだめた。


「師匠を追っているという話は本当かい?」と『ウィーゼル』は尋ねてきた。


「あれは本心から出た言葉と行動ですよ」と私はそこだけは曲げないでいった。


「師匠を追ってさらなる力を付けるのです。あの方は今の私よりも強い、今からさらに成長してもまだ先に居るそういう方なのです」とも続けた。


「師匠の名前を聞いてもいいかしら?」とは『セリア』だった。


「私の師匠は『ウォン・ウィリアム』どことなく人族離れしている方です」といい切る。


「そのひと……ギルドの職業指南役で五指に入るヒトよ」という情報が『セリア』から、もたらされた。


「滅多なことで教えることが無いという有名なヒト、種族を超越した達観した技を持ち、自身が気に入らない限り教えることは無い。そういうヒトよ。何週間教えてもらったの?」と『セリア』さんからいわれたので。


「三年間と少し」と私は答えたのである。


「うわー! 羨ましい。家庭の事情とかではないわよね?」と『セリア』に聞かれたので正直に答えた。


「家庭の事情とかでは無いですよ? 庭先で鍛錬をしているときに、それを見られた師匠のほうからウチに上がり込んできたのです。それからミッチリ三年と少しくらいでしょうか、近くの街に行って帰る途中の休憩時間にギルドの方が転移で跳んでこられて師匠と話を少しした後、師匠も転移跳躍されて、置手紙だけ置いてあったのです。」と私は少し長めにゆっくりと話したのである。


「それで今に至るわけなのです」と私は話を切った。


「それは確かに、置いてかれたら追いかけるしかないわよねー。その気持ちは分かるわー。浪漫ろまんですもの。再会した時に見違えたぞなんて言われた時には……感慨深いものがあるのよね」と『セリア』はいった。


「まあ今は、この国の首都フレイまで行って、師匠の行方を捜すしか手は無いのですがね」と私はいった。


「俺の独自ルートも使ってくれて構わないんだが、隣国とはいえ姫君に何かあっては」と『ゲルハート』がいった。


「俺の独自ルートはかなり手広い方なんでね、昔の傭兵時代の仲間やそれとなく旅の武器商人をやってる連中の集まりだからそれなりに情報は集まるはずだ、特にその関係筋はね」と『ゲルハート』は追加した。


「ありがとうございます、少し頼らせてもらいますね。よろしくお願いします」と私がいった。


「何を水くさい、旅の仲間じゃないか」と『ゲルハート』はいった。


「隣国って?」と今度は『セリア』が『ゲルハート』に聞いた。


「俺の出身地はセレスティア皇王領のアイネイアースってデカイ城塞都市でね。ヴェルゼニア王国とは関係が深いのさ、俺の親父も交通関係の役に付いて居てその関係ではヴェルゼニア王国には色々世話になったはずなんでね、恩返しとはいかないまでも、協力しておきたいじゃないか」と『ゲルハート』は身の上を語った。


「それを言うなら、俺なんてもっと協力せんといかんな、何せ自国の姫君にあたいする方と旅をさせてもらっているわけじゃから。神殿の協力が必要であればいつでも言ってくれ、サリーネ神のご加護があるじゃろう。俺は最北端の城塞都市ヴェルゼニスの出身なんじゃ。ヴェルゼニア王国は交通に関してはかなり整備されてて言うことは無い。それどころか、他国よりも強い。一重に交通を指揮されている御方の力量なのじゃろうが、まさかその方の姫君と一緒に旅をするとは思っても見なかったわけなんじゃ。どこか対応が不味まずければいつでも言ってくれ直ぐに直す」と『ウィーゼル』が改めてかしこまっていった。


「私は……ギルド直轄地中部セントラルシティーの生まれではあるんだけれども、私の知識が必要ならいつでも言ってね」と『セリア』は簡潔にまだ何かあるよといったふうにいったのであった。


「皆いつもどおりでいいですよ。そこまでかしこまられると私のほうが対応に苦慮くりょしてしまいます」と私はやんわりといった。


「今の私は、皆様から見れば姫君かもしれませんが、一冒険者の“ウィオラ”ですから」とも追加した。


「やっぱり、『ウィオラ』ちゃんらしいわね。小さな英雄として見た頃とあまり変わらない」と『セリア』がいった。


「美味しい所だけはさらって行かせねえぜ、ウィオラから師匠の情報を聞いたからには、その師匠の居そうな場所を少し調べてもらってみよう。情報ってのはフレイに着くまでに集めておくものさ」と『ゲルハート』がいった。


「ディオメル・ワルストマのことは抜けてたくせに」と『セリア』は『ゲルハート』に突っ込んだのであった。


「ありゃー、情報が多すぎて行くしかねえってなっただけだ。あの人はいわくが多すぎて困るんだ」といいわけをしていたのであった。


「あと地図だとフレイまで一月ほどで付く事にはなっているが、あくまでも地図上での話だ。実際には何が起こるか分からんから、気を引き締めて行こう。それにフレイニア王都フレイは俺の生まれたアイネイアースと同様の円状城塞都市で何層か堀も持っているらしい。それに冒険者ギルドの加盟の宿が、街中にかなりあると聞くどこに泊まるかも行ってみないと分からないな」と『ゲルハート』は情報を話してくれた。



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