第三節:鬼人闇の中で死す

 対象のすべてを包み込む、異界の闇のとばりが降りた。


「七分間しか持たない、早く。救出を、優先で」というと次の呪文を唱えた。


異界の炎フレイア」と瞬間的に小さい方の三メートルサイズを先に焼き殺しにかかった。


 レジストには失敗したようでさけうめき転げまわっており、仲間と思われる対象が皆そちらに向かっていくのを確認した。


 一分以上燃え上り周囲にも引火して行った。


 当然対象に触ったヤツにも燃え移るので、一瞬にして士気が崩壊したのが分かった。


 が、攻撃の手は緩めない。


 四メートルに対象を絞ると「異界の炎」とささやき詠唱した。


 レジストには、高確率で失敗するようであった。


 オーガノイドの弱点は魔法だ、と実感した瞬間であった。


 すでに消そうにも消せない異界の炎がまとわりついて、その周囲をも燃やしている。


 当然四メートルのほうからも、叫び声が聞こえてきている。


 より高威力でかかった、炎だったようだ。


 集中した甲斐が、あるというものであった。


 当然消そうと水らしきものを持って近寄って行く奴らにもその炎は燃え移り一人を残して全滅した。


 その一人を「ティルファー」と言ってロングレンジでとらえる。


 人種の様だが顔面蒼白でもう戦闘する気力は無さそうだったが、念のため「強制送還リターンズオブ」と囁き詠唱する。


 その瞬間そいつはフッとそこから消え去った。


 どうやら悪魔かそれに類するモノだったらしい。


 何かわかっていたから、燃えているヤツに手を出さなかったということが判明したのである。


「敵影消滅、オールザットクリア」とテレパスに乗せた。


 その内、異闇も自然消滅して行った。異界の炎も、もう燃えてはいない。


 周囲には、黒焦げの遺体が散乱しており、凄まじい攻撃だったことを物語っていた。


「上空からも何も見えないのねあの闇って」と梟の視界能力、暗視に疑問を持った『セリア』から質問が飛んできた。


「あの闇の中では暗視やら闇視やらは効きませんよ。そういう異界の法則を持った闇なので」と近場に居る『セリア』だけに聞こえるように話した。



 私の特製の術で、師匠お勧めの術の結果ではあったが、かなり燦々さんさんたる悲劇が鬼人にはもたらされた。


 特に闇の中から聞こえる、焼き殺されるという悲鳴や恐怖は十分に伝わったはずだった。


 これで特に問題は無いはずだった。


「俺、何もできんかったな」という『ウィーゼル』にフォローを入れるのを忘れなかった。


「回復役はイザって時に精神力尽きてたら問題でしょう?」といっておいたのである。


「私の回復能力は小さいしそんなに役には立たないし、ああ言うのは得意だけど」と惨状を見ながらいった。


 十分無理をした味方にも、こちらの意図は伝わったと思っていた。


 まあ、そこから先はパーティーのサブリーダーと言うより男同士の話し合いが持たれたのであった。


 一発ガツンと『グレイデル』を、『ゲルハート』が殴り倒したのである。


 その瞬間、騎士鎧の重いのを着ていた『グレイデル』が浮いたのであった。


「例え依頼主様が、泣いて騒いだとしても俺らにゃ超えちゃあならねえ一線が、あるんだよしっかり覚えておけ!! 俺らが、『ウィオラ』の術が間に合わなかったら、お前ら依頼主ごと、殺されてたんだぞ!! しっかりと反省しておけ。一旦センシヴズラまで戻るぞ!!」と『ゲルハート』がたましいかたった。


 ああいうのは男同士でないと締まらないわな、と思いながら眺めていることにしたのである。


 恐怖だけは、植え付いているだろうし無理はもうしないかな?


 と、少し甘く考えていた面もあったのかもしれない。


 彼はまたやらかすかもしれないが、多分我々以外のパーティーと組んだ時だろう。


 と思っていたわけではある。



「『キルヒャ』の旦那、若い血気にはやってるパーティーを焦らすのはやめてもらえないかな、今回の騒動で馬二匹は死んでんだぞ!!」そう、馬はアッサリと喰われて最初にヤツらの飯になったのである。



「逆に馬二匹が居たから、人が食べられなかったそういう結末よね」とひとごとふうにつぶやいたが。


 そのセリフはしっかりと『セリア』には聞かれていたのであった。



「ふーん、意外とクレバーなのね、『ウィオラ』ちゃんて」と『セリア』の囁きが聞こえたのであった。


「まあ、早めに集まりましょうか。『キルヒャ』さんに風邪でも引かれては面倒ですし」ということにしたのであった。


「『ウィオラ』助かった、疲れてないか」と『ゲルハート』にいわれた。


「特に問題ありませんし大丈夫ですよ」と笑顔で答えを返すのだけは忘れなかった。


「距離拡大とか範囲拡大の大きいのしたでしょ!」と『セリア』には見抜かれていた。


「それに、あの融合魔法も見事だったわ、あーやってって使うのね。覚えておくわ」と『セリア』にいわれてしまった。


 そうしているうちに、両手足をぐるぐる巻きに紐で拘束されていたのを解かれた『グレイデル』とそのパーティーと御者さん二人と『キルヒャ』さんが峰まで上がってきた。


「荷物は向こうですよー」といいながら少し下の中腹付近を指した。


「そこにうず高く積まれているのが荷物だと思われますが、皆来てから積みますか。もうそろそろ、みんな来ると思いますよ」とレイダーの拡張版をまだ展開していた私の感覚に車列が映った。


 八台分こちらに来ていた。


 レイダーの拡張版を閉じると、少し疲れがやってきた。


 それを軽くこらえると、「もう無理はイケませんからね!」と突っ込むのも忘れなかった。


 峰の上でたたずむこと三十分ほどして、ふもとに八台が到着して、一号馬車の復旧作業が行われていった。


 その間に『グレイデル』とそのパーティーたちによる、荷物移送作業が行われて行き、復旧作業中の一号車の横に全て積み直されたのであった。


 馬は九号車から一頭引き抜いて、一頭立てとして九号車に車速を合わせたのであった。


 そして車両が治ると、再び一号車メンバー全員による一号車への荷物積み込み作業が行われたのであった。


 再び走れるようになるのにかかった時間は、合計五時間で最初の時間と合すとお昼近い十一時半になっていたのであった。


 その間五号車メンバーや他の車両のメンバーは総動員で、全周警戒を行っていたのであった。


 他の野盗に襲われても、いけないからであった。



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