第八節:実力

「『ウィオラ』ちゃんが目を覚ましたわ。大丈夫? 精神力使い切ってたでしょう」と『セリア』の声がかなり近くでした、目をパチパチさせながら覚醒かくせいして行く意識を感じた。


「ここは?」私がいった。


 『セリア』が答えた。


「馬車の中よ、もう走ってる最中よ。ライまではまだかなりあるけれど。あの後馬車のほうに応急処置を施して走れるようになったのが十一時くらいだったから。今はもう十八時よ、今日はライに入るまで走るって張り切ってるわ『キルヒャ』さん達、まあ私たちは軽症者と気絶してしまった『ウィオラ』ちゃんが居たから。結構バタバタしたけど。もう少し寝ててもいいのよ?」と。


「お腹が空いてしまいました」と私は正直にいった。


 『セリア』がいった「それだけ元気なら大丈夫だ」と。


「膝をありがとうございました」と私がいう。


「大丈夫よ」と『セリア』がいう。


 そして続けた「神気法の方のリカバリィは、アレ本来は一回掛けるだけの術でしょう。それをあんな三十分も延長して。確かに驚いたのかも知れないけれども。無理は禁物ですからね」、「ごめんなさい、私にできる事ってそれしか無かったから」と私がいう。


「まぁ一番焦ったのは当の本人でしょうけれども。『ウィーゼル』狸寝入りは無しよ『ウィオラ』ちゃんに何か一言でもいいからいいなさいな」、と『ウィーゼル』が「済まんそこまで思い詰めてるとは思わなかったんだ。この通り許してくれ」といったので、「旅の仲間なんですから全力は当たり前です。でも無理はしませんからね。『ウィーゼル』さんはどこか痛むところはありませんか?」と聞いた。


 『ウィーゼル』がいった「馬車に直に当たったところに青痣あおあざが出来ていてな、それが少し痛むだけだが骨には異常はない」と。


「流石に今回の旅の敵は強いのばっかりね。尋常じんじょうじゃないわ。今日のも中位に該当がいとうする悪魔だし他の二ランクパーティーでは手が出なくって当たり前よ。それだけ厄介やっかいで何時の間にか六ランクまで上ってしまったし、全部六ランクよ信じられる?」と『セリア』がギルド証の表面おもてめんを見せながらいった術士が三つとも六ランクで並んでいるのだ。


 術士と言えば、高難易度で難しい職業クラスの上から数えた方が早い、といわれるくらいのモノである。


 私も、右懐のベルトポーチをガサゴソする革ひもを付けてあるので直ぐ分かるのだ、するとなんということでしょうっていいたくなった。


 冒険者証の表面に魔法剣士ランク六、闘士ランク六、異界術士ランク六、と思わずマジデェ? といいたくなるランクになっていたのである。


 『セリア』は魔導士と呪符使いと白魔術士であった。


 凄いですねと思ったワケだが、私のも人のことがいえないのであった。


 なので「偶には確認しないといけませんね」と私がいった。


 ランク六と言えば、町や村では、すでにトップラインの筈だ。


 街や都市ですら中堅どころか上位と言われるワケだが、この先何が出て来るのかが非常に怖かった。



 その前に保存食を開けて食べ出すのであった、時間は既に二十一時になっていた。


 ライ村といえばこの辺りでは珍しく、高台の上に村を築いている村ではある。


 形状的な理由で珍しく、襲いにくい村としてはそこそこの知名度があったといえよう。


 逆にそれだけの理由で、襲われる可能性がある村ともいえた。


 盗賊の知名度を上げるにはどうするか、難攻不落といわれる村や砦を落とすだけで、知名度が上がり有名になれるのだから……盗賊が考えるところとしてはそんな所だろう。


 今回はさらに嫌な予感を感じていた。



 時間は二十四時を過ぎた所だった『ウィーゼル』だけでなく今日は朝まで走らないとライには付かないだろうという全員一致の意見で、全員寝るという事にはなっているのだ確かにどこをどう考えても朝の六時は過ぎると言う答えしか見つからなかったのである。


 私はオープンメットが外されていただけで、それ以外の装備はそのままだった。


 長い背まである髪を整えオープンメットだけ被り直し、固定用の革紐をあごの下でくくり直すと。


 今日は『ウィーゼル』と一緒に荷物側であったため自身の背負い荷物を荷物側に置いて、それをクッション代わりに寝始めたのであった。


 普段、髪はサーコートに付いているフードの中に入っているから気にならないのである。


 フードが半端なくデカいのである。


 そして朝までは何も起きなかったわけだが、車列はライを通り過ぎ、まだ走り続けるようだった。


 流石に野盗と言えど疾走中の幌馬車にチョッカイかける、命知らずは居なかったと見えた。


「今日はこのままアマルテオまで一気に疾走だ」と言う御者さんの声が聞こえたのが朝の九時位だった。


 御者さんは、三人ほどいて、三交代制らしかった。


 少し大きめの幌馬車であり御者さん三人がの寝るスペースも確保できているという、素晴らしいサイズであったと言えよう。


 御者台も詰めれば、フル装備の四人が座れるスペースを確保できている特別製らしかった。



 我々もゆっくり目に起き、朝の九時には皆して保存食を食べると言う光景になったのである。


 アマルテオは街道から、ちょっと離れたところにあるが道が無い訳ではなく街道と同等の規模の道が敷かれているのである。


 この街道といっているこの道はヴェルゼニア内部ではさらに大工事があり、車列が専用で走れる車列専用道(三車列)と歩行者が両片側に三人フル装備で並んでも歩けるような幅を誇っているのであった。


 この空前の大工事も平地や丘陵地に街道が多く走るヴェルゼニア王国だからできたただけだろう、といわれてはいるがそのおかげで街道筋には馬車で約一日の距離に多くの村や街ができたのである。


 まぁ逆にいえば、街道筋以外はあまり発達していないと言うことにもなるが、村や街で動かせなかったところの代表例が、アマルテオの様なちょっと外れたところにある、中型の町なのだ。


 アマルテオには行ったことは無いが、師匠の話によると。


 通過したマルテラや、まだ行ったことの無い。


 サライと同程度の都市で、門を持ち真北の門の近辺と街の中央部と南東の門の近辺が栄えている街だという。


 それもその筈そこが、街道筋にあたるのである。



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