第五節:送迎会と依頼受注

 昼飯にすることにして二階に上がる、と歓迎パーティーの様相をていしていた。


 簡易ながら垂れ幕を用意され、豪華な食事も用意されていた。


 みんなから「頑張れよ挫けんじゃねぇぞ」とか、「『ウィオラ』ちゃんに限ってそんなことあるかい、あの師匠に付いてたんだぞ。あの師匠のしごきにも、耐えて来たんだ。大丈夫だって」とかいわれたり、「この料理は餞別だ。たっぷり食べていきな!」という飯屋のマスターや顔見知りが祝ってくれたのであった。


 確かに都合三年も出入りして居れば、これくらいの仲間というか知人ができてもおかしくは無かったのである。



「悪い男は良い事しか言わねぇからな」とか「身は必ず綺麗に証を立てていくのですよ」とかいう先輩冒険者からのアドバイスも貰い。


 昼を完食し「御馳走様ごちそうさまでした、皆さま今までお近づきお付き合い下さいましてありがとうございました。私は師匠を追いかけるために旅立ちます」といって簡単ながら挨拶あいさつとした。


「またな」とか「元気でやれよ」とか「悪い男にゃつかまんじゃねぇぞ」とか「元気でな。体には気を付けろよ」とか「貴方にサリーネの神のご加護が有らんことを!」であるとか「ちゃんと師匠を見つけておけよ」等と様々な言葉をもらったのであった。


 たくさんの言葉をいただきすぎて、書く場所がないくらいに。


 それだけかまわれ愛されていた、のかもしれないと思ったのであった。



 階下に降りると丁度グラント商会の執事さんが、募集の板に紙を張り出してるところであった。



 今回はエフェメリスよりも南にある大都市ラームリッツァまでの最大十日行程の旅らしく、危険がある事を示す黄色い受け札が掛っていた。


 速攻で近付いて、受け札を一枚とる事にした。


 私は速い動きができるほうでは有るので割り込まれることは無かったのだが、受け札は他に十一枚あった。


 要約するに三パーティーで護って欲しいという事らしく、依頼期限は本日十五時までだった。


 移動に使用するのは幌馬車で、先頭車と最後尾と真ん中に四人ずつ乗って欲しいとあった。


 詰まり足に疲労が溜まらないという条件だったので、これと無い移動手段ではあることが分かった。


 依頼額はそこそこ大きく、一ゴルトと書いてあったから多分重要な荷を運ぶのだろうと推察できた。



 いの一番に行って一番の受け札を持つと、先に執事さんのところへご挨拶に行った。


 受け札を見せて、「今回貴方の出したグラント商会からの依頼を、受けさせて頂く事に成りました。『ウィオラ』と申します。魔法剣士まほうけんしです」ギルド証を見せながら、先だっての挨拶であり自己紹介でもある。


 これだけで相手の雰囲気や荷物の重要性じゅうようせいを知ろう、という魂胆こんたんもあるのだが。


「これは魔法剣士様、お受けくださいましてありがとうございます。この度は私目も付いて行くように、大旦那様からはおおせつかっております。『キルヒャ・ミカエル』と申します。どうぞよろしくお願いします」と深々ふかぶかと挨拶された。



 こちらの得物でぱっと見よく解るのは、両片手持ちのバスタードソードともう一本左腰に何かを下げているということが分かるものではあるのだが、そこまでは見られていなかったらしい。


 後は魔法剣士という、希少性きしょうせいに頼った受け方でもあった。


 普通は魔導士なら魔導士、戦士なら戦士と職が別れ対応できる範囲が縮まってしまうのに対し、魔法剣士は魔法も剣もある程度使えることから汎用性は高まるが難しい職業とされることが多いのであった。


 って魔法剣士でも自身の腕に自信が無い者は、魔法剣士であるのに剣士と名乗ったりするくらいであった、だから魔法剣士と名乗るイコールそれだけ腕はあるといっている様なものではあったのである。



 これは師匠に教わったベストな依頼の受け方からではあるが、この選択は間違ってはいなかった様でキルヒャさんにはかなり覚えてもらえたらしい。


 後は私の立ち回り方次第である。


 この立ち回り方にもヒトそれぞれ個性が出て来る、と師匠は個性を出す戦い方を批判はしないがあまり好ましくないといった様子で語ったことがある。


 個性をあえて出さずに、重要性から基準に考え分け隔てなく何かをするのは難しい事であると常日頃から師匠は口癖のようにいっておられた。


 戦術と戦局せんきょくを見る目が一番大事なのだ、こと魔法剣士の場合それが重要でそれができなければ魔法剣士とはやっていけない、と口をっぱくしていっておられ、見極みきわめ方からなにからなにまで教わったことが大分だいぶんあった。


 さいわい記憶力と動体視力どうたいしりょくやらの観察眼かんさつがんに恵まれていた私は、それを覚えさらなるみがきをかけるべく色々と個性を出さずに切磋琢磨せっさたくまするということを念頭ねんとうにおきながらたたかうことを身に付けて行ったのである。


 戦闘中でもそれに集中することなく情勢じょうせい把握はあくし、最適解さいてきかいを出しながら戦闘を行う、特に守るべきものがあるさいの立ち回りは重要である。


 それを極められるまで何度でも戦術せんじゅつ戦局論せんきょくろんを何度繰り返しやったことであろうかとそれらをみしめるのであった。



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