第55話


 投稿! 今日は外食してきたのですが、おなかいっぱいに食べたせいで既に眠気が襲ってきております。



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 「……トウヤ」


 風呂を出て部屋へと戻ると、俺達の部屋の前でルリが待っていた。俺を見つけたルリはそのままポフンと正面から俺に体を預ける。


 「済まない、俺達はどうやら邪魔なようだな。部屋を空けるか?」

 「はっ倒すぞ」


 要らぬ気遣いをしてきた拓磨に罵倒しつついると、奥から叶恵達も歩いてくる。どうやらルリもずっと部屋の前で待っていた訳ではなく、丁度部屋から出てきたところらしい。


 「あれ、どこ行ってたの?」

 「俺達は風呂に。そっちはどうした?」

 「私達も今からお風呂よ。ただルリちゃんが、刀哉君のことが気になるってね」


 なるほどそれで。ルリのことを見ると、普段のように抱きつくのではなく、体を預けて両手で俺の服を握っている。

 可愛い。けど、周りの視線が痛い。こんな小さい子にくっつかれているという構図が既にかなりヤバいのだ。


 娘、姉妹、従姉妹。それならまだ分かるが、そういう訳じゃない相手。


 「夜栄君も隅に置けないなぁ」

 「そんな事実は無いけどな」

 「そう? ルリちゃんから刀哉クンのこと、いっぱい聞いちゃったんだけどなぁ……ねぇ?」

 「本当に何も無いぞ」

 

 事実ありまくりではあるが、当然俺は悟られないように誤魔化す。あくまでこれは信頼の証であって、そういった事実はないと。

 神無月の言葉にも表情は崩さない。実際ルリが何を話したのかという部分はある程度予想が着く。隠し事が下手な方のルリでは、素直に答えるまではいかなくとも、俺への好意を隠すことは出来なかったはずだ。


 少なくともルリが俺に懐いているという最低限の認識は皆持ったはず。ただ異性間のものであるかに関しては確信がない可能性も高い。


 下手に反応する方が、その憶測を事実に変えてしまいかねないからな。


 「まぁ、私達はお風呂に入ってくるから、その後一緒にご飯でも食べましょ?」

 「そうだな、わかった。ルリも一緒に行くんだろ?」

 「…………もう、少し、トウヤに、くっついてから……」


 嬉しいことを言ってくれる。返事の代わりにその頭を撫でていれば、美咲と叶恵が少し視線を向けてきた。

 どちらも似ているようで、含んだ意図は微妙に違う。だがその差異が実際どのようなものであるかまでは推察が難しい。


 「それじゃ皆、またね。お風呂出たら呼びに来るから、待っててくれると嬉しいかな?」

 「あぁ、分かった」


 拓磨が返事をして、女性陣は階下へと向かっていく。その中美咲が俺の隣を通る際、少しだけ意地の悪い笑みを浮かべてボソリと呟いた。


 「ルリちゃんのこと、今度聞かせてね?」


 美咲はどうやら、ルリの好意を確信しているようだ。目的を探るなら、俺の方がルリのそれを察しているか、そして俺自身がどう思っているのか、そこを知りたいといったところだろう。

 俺の返事を待たずに美咲は通り過ぎていく。『聞かせてね』というよりは、実質『聞くから』という宣言に近い。俺に拒否権は無いとのことだ。


 美咲の声が聞こえていたはずのルリの方を見る。ルリはちょっとだけ恥ずかしそうにしている。

 

 「では俺達は先に部屋に入らせてもらう。お前はゆっくりして構わないからな」

 「何度も言うがそういう事実は無い」

 「ふっ……ではな夜栄。俺も貴様の意思を尊重しよう」

 「なら誤解を解いてけ」


 雄平まで悪ノリをする。一緒の部屋で寝ていたという事実は結構重いらしいな。


 というか、そういう反応をしてルリに失礼だとは思わんのか貴様ら。もし本当に誤解だったらルリが可哀想だからな?

 誤解じゃないから可哀想ではないけども。むしろ気を使って離れてくれることはルリにとって歓迎すべきことのはず。


 ただそれを真実だと確信させるのはダメだという話であって。


 しかしルリに抱きつかれたまま部屋に入るわけにもいかず、四人が入っていくのを見送る。バタンと扉が閉まれば、俺とルリは廊下に取り残された。


 「……それで、いつまでくっついてるんだルリ」

 「……まだ、トウヤを補給……できて、無い」

 

 ルリは人が居なくなったからか、より強く抱き着いてくる。残念ながらここは廊下で、完全に人目が無い場所でもない。俺が抱き締め返しているところを見られてしまったら良い逃れが出来ないのでされるがままだが、ルリはお構い無しに身体を擦り付けてくる。


 擦り付ける、というところがもうなんというか……いや、言いはしない。


 「あまり過激なことはしてくれるなよ。ここは宿の廊下だ」

 「…………部屋なら、良い?」

 「そういう意味じゃない」


 ただルリの雰囲気から段々とこの先まで持っていきそうな感じがしたから釘をさしておいただけだ。


 それにしても……やはり以前より強く意識してしまうな。特に体の感触なんかは。

 今更だが、ルリは余すことなく体を押し付けてきている。上から下まで、服越しとはいえまるで肌と肌が触れているかのように強くそうしているため、俺にはルリの体の感触が丸わかりだ。


 そうなってくると当然胸の感触とか脚の感触とかも伝わってくるだけで、その柔らかさに性的魅力を感じてしまうところがある。

 単に柔らかいなとか、そういう感想だけで処理できない。その理由としては、やはりルリの俺に対する意識を知ってしまったのが最も大きいだろう。

 相手にその気があると知ったら、こちらだって意識はどうしてもそういうものになる。


 うん、それにこれもちょっと……俺を誘いに来てるよなぁ。


 「……ぁ……トウヤの、えっち」

 「どの口が言うんだ」


 何が『えっち』だ。その気にさせているのはルリの方だと言うのに。

 手は出さないけども、やはり身体の反応は抑えられない。こういうのにも慣れが存在してくれたらいいのだが、今のところそんな気配はなく、興奮するものは興奮する。


 例えば単に着替えを目撃してしまったとか、抱きついた際に意図せず体がくっついたとか、そういうのなら全くもって問題は無い。いや、何も思わないかと言われたら別だけども、こうなることはない。


 しかしルリは……そういうのではなく、基本的に『それ』を意図した行動だ。今回もこうやってくっついているが、それは単に抱きつくことを目的としているのではなく、あわよくばその先も狙っているような。

 つまり、なんだ……俺がその、ルリをという状況が理性を緩ませているのだ。


 ダメじゃないよ、やっていいよと。無論俺はその誘惑に対し首を横に振って拒否しているのだが、体というのはそう単純なものでもない。

 意思は保てていても、体が先に負けているというか……。


 「───はい、終わりだ。終わり。これ以上はダメ」

 「ぇ……まだ」

 「まだも何も無い。何より俺が辛いんだよ、色々と」


 これ以上先は俺も危ないと思って、無理矢理ルリに腕を突きだす。ルリはそれでもまだ抱きつきたそうにしていたが、俺の言葉でルリの視線が下がる。


 いや、見るなよ。ポジション的にそこまでズボンを突っ張らせてはいないから。それでも抱きついていたルリにはソレが分かっていたはず。

 視線が下がったのは反射的なものだろう。


 「……じゃぁ、仕方ない」

 「あぁ、分かってくれたならいい。また二人で時間のある時にくっつく分には構わないからな」


 俺のそれを知って、ルリは素直に引き下がった。声音こそずっと平然としているが、その実かなりきつい。というのも、未だに自分で解消していないという点が挙げられるだろう。


 これはそろそろ本当に解決しなきゃいけなさそうだが……。


 「…………そろそろ、かな」

 「何がそろそろだって?」

 「……何でも、無い」


 ルリは離れる際、意味深な言葉を零す。独り言だと思われるが、何がそろそろなのか。

 しかし聞き返してもルリは首を振る。そのまま少し名残惜しそうにこちらを見ながらも、そそくさと階下へ向かった。この時間なら風呂への合流も問題ないだろう。


 それよりも問題は先程言った、この溜まった欲求。


 「……一応、一回はしてるからな」


 今更何を我慢しているのかという話でもあるが、俺だって色々と考えることがある。それに少なくとも今日は拓磨達がいるし、男共の近くでやるのは色々な意味で避けたいところだ。

 

 それに、胃ではないが、下腹部の方もなんだか気持ち悪い感じがする。


 吐くようなものではないが、少しそれに近い感覚。


 

 そろそろ、やるかどうか真面目に検討しなければならないだろう。




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 次回は明明後日、一応お色気の予定です。

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