第14話

 と、とうとう最新話まで来てしまった……い、一応ここからは毎日投稿ではなくなることご了承ください。

 ちなみに次回投稿は明日か明後日あたりです。基本的には二日〜三日に一回の投稿を目安としています。


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 見ればわかるが、やはり王都というのは他の街と比べると明らかに大きく、栄えている。当然その大きさは街を囲む城壁にも表れており、壁の高さは30メートル近くあるだろうか。

 それだけ高くして、果たしてそんな巨大な壁が必要な魔物が現れるのかどうかは疑問だが、少なくとも壁の一部は修復したような跡がある。それも結構上部だ。


 今はともかくとして、過去を振り返れば実は魔物が今よりも溢れかえっていたとか、巨大、もしくは空を飛ぶ魔物が多かったとか、そういうのがあるのかもしれない。巨人とかワイバーンとかドラゴンとか。


 ちょっとロマンを感じるのは男として仕方ない。


 それはともかくとして、王都へ入ること自体はすんなり出来たが、やはりそこは王都。馬車が通る道は当然ながら他の馬車もあって渋滞しており、入ったは良いものの、身動きが取れない状態だった。

 一応このまま案内も兼ねてハルマンさんが拠点とする店の前まで連れていってもらう予定だったのだが……。


 「これはしばらく動かなそうですし、良ければお二人共、ここで降りていきますか? 幸いにして、探索者ギルドはここからすぐ近くですから。街の中心の方に向けて歩いていれば、目立つ建物があるのでわかると思いますよ」

 

 ハルマンさんは気を使ってそんなことを。確かにこれは一度降りて歩いた方が早いだろうし、その申し出はとてもありがたい。

 一応ルリの方を向くと、構わないのか頷いた。ルナが「えぇ、もう行っちゃうの?」なんて少し寂しそうに言い、ミレディはルリに名残惜しそうな表情を向けているが、止めようとはしてこない。


 ……少し考えてしまったのは、彼女達の境遇を考えてのことだ。今でこそ普通だが、一応二人は奴隷としてハルマンさんが買っている状態。

 当然、ハルマンさんもそのまま自分の店で暮らさせる訳では無いだろう。最終的には誰かに買われていくはずで、だからこそ奴隷商がある。


 だからそんな顔をされると、時間よりも少女二人を優先してもいいかなと。ルリだって、別に嫌いじゃないはずだ。


 「───奴隷は購入してすぐに売ることは出来ません。奴隷の調教期間を一週間から数ヶ月ほど設けることができますから、その間は二人は私の店に居ますよ。ですから暫くはまた会うことも出来ると思います」

 

 どうやら俺の心情を汲み取ったらしいハルマンさんが小声で告げる。聞こえは悪いが、ようは休みと捉えていいのだろう。その期間が終わるまでは売られる可能性はほとんど無いと。

 まぁ俺としても二人は嫌いじゃない。ほっと息をついて、それならと決める。


 「またねルリちゃん」

 「……ルリちゃん、じゃ、ないけど……また」

 「ルリちゃんバイバイ」

 「…………ルリちゃんじゃ、ないけど……バイバイ」


 そんな三人のやり取りを見守る。ルリがはにかむような笑みを浮かべていたのは非常に珍しいし、微笑ましいなぁと思うのは当然だろう。


 「お兄ちゃんも、ね♪」


 と、俺にもサービスしてくれるルナ───もちろん変な意味ではなく、純粋に可愛らしい仕草をしてくれるという意味で。


 「……あぁ、また会いに行くよ。もちろんミレディちゃんにも」

 「ひゃっ、は、はい。ありがとうございますっ」


 こちらは相変わらずか。嫌われてはいないのだろうが、思わず苦笑いを向けてしまいたくなる。

 



 数日共に過ごしていた相手と離れるのは少し名残惜しいが、ハルマンさんの気遣いは有難いのも確かなので、俺はルリを連れて馬車から降りる。

 外の喧騒は馬車の中にも聞こえていたが、やはり王都。ただ場所によって土地の高さに差のあったルサイアの方とは違い、こちらは街全体が比較的平坦だ。


 街の奥に城が見えるのは変わらないが。王都はやはりこうでなくては。


 ───なんて言いながら、人波にもまれる。いや、馬車が動かないから何となく予想はできていたが、人の往来が激しすぎる。


 俺はルリの手を握った。理由は言うまでもなく迷子にならないためである。ここではルリも土地勘は無いだろうし、俺が先導しなくてはという思いも強い。

 俺も土地勘ないけども。


 「確か、街を中央の方に進んでればギルドが見えてくるって言ってたよな」

 「……ん」

 「取り敢えず行きますか……大変そうだけど」


 実際の距離以上の時間がかかるのは考えるまでもないだろう。別に都会で育った訳では無い俺からすれば、東京を彷彿とさせるこの人混みは中々慣れないところがある。

 ただ、王都で暮らしていたルリも慣れとは程遠そうなのが、ある意味で安心だ。仲間とでも言おうか。


 幸いにして、別に入り組んでいる訳では無い。街の中央まで真っ直ぐ道一本とは行かない様子だが、大体真っ直ぐで大丈夫そうだ。


 あとは目当ての建物を見落とさないようにするだけ。ルリは身長の関係上見渡せないと思うので、そういう意味でも俺が先導しなければならないだろう。


 そうして人波に振り回されること十分程度。ようやくそれっぽい建物が見えてきた。


 意外と遠く感じたが、距離自体は確かにハルマンさんが言うようにそう離れてはいない。建物も他のものより高く、この分なら多少雑に見ていても見落とすことは無かったかもしれない。


 ルリの手を引けば、逆らうことなくルリはついてくる。


 「……見つけた?」

 「あぁ、アレが探索者ギルドだと思うんだけどな」


 それに近い建物ではあるはずだが、如何せん『探索者ギルド』なんて書かれた看板が掲げられている訳でもないので確信は持てない。


 まぁ、とにかく入ればわかる。




 ◆◇◆




 建物の入口は、西部劇でよく見るようなウェスタンゲート風の扉だ。どことなく荒くれ者が集いそうな雰囲気なのは、外観が綺麗だった冒険者ギルドとはまた違うことが分かる。


 流石に中は外ほど混んでいることはなかったが、それでも随分と混んでいる。入っていく人間の外見からも判断できたが、冒険者ギルドと同じく、武装した人が多い。

 武装、とは言っても軽装だ。この世界、敵が魔物だからか、鎧のような重い装備はあまり使っていない様子。グレイさん達も、全身フル装備という訳ではなかった。


 ゴブリンなどならともかく、ある程度強い魔物を相手に攻撃を受けること自体、そもそも致命傷のはず。もちろんパラメータ如何によっては皮膚の硬度自体も変わってくるのかもしれないが、それでも魔物は生物的に人間より強いことが多い。


 攻撃は基本回避。防御は最終手段というわけだ。


 「ところで、ルリは探索者登録的なものはしてないんだよな?」


 ふと、冒険者には元々登録していたルリに聞けば、コクリと頷きが返ってくる。

 迷宮に関してはお互い知識以上のことは知らない。それならまだ俺が出る幕もありそうだ。


 正直なところ、ルリは命を預ける相手としてはとても頼もしいが、強くなりたい時には……中々困るところもある。

 俺との間に結構な戦力差があるのは、早いところどうにかしたい。


 

 やり方としてはきっと冒険者登録の時と同じだろうと、俺達は受付の列に並んでいた。外観はともかくとして、内装は冒険者ギルドと似ており、左手に依頼書等が貼りだされている掲示板、正面に受付があり、右手には酒場が隣接。


 こうも酒場があると少し興味を引かれるが、そこはそれ、俺は未成年である……こちらの世界でお酒を飲む時が来ないことを祈るばかりだ。

 

 それはともかく、先程からルリが目立っている気がする。こんな場所に似つかわしくないからだろうか。

 ルサイアの王都ではルリは少なからず認知されていたようだが、こちらでは違う。ルリの見た目から子供のように思っている人が多いのではないか。


 奇遇だな、俺もそう思っている。しかも俺と手を繋いだままというのはどういうことか。


 親子、というには俺が若いので、やはりしっくり来るのは兄妹だろうか。そんなふうに見られているのかもしれない。


 「……慣れてる、から、平気」

 「俺は何も言ってないぞ」

 「……違った?」

 「…………違くはないけども」


 図星なので降参だ。


 まぁ、確かに慣れてそうではある。慣れているというか、諦めにも近いものを感じるが。

 外見から、ルリを子供ではないと判断することは不可能に近い。


 しかし、その言い方ではやはり見た目通りの年齢では無いのだろう。一応現実的な範囲としては、13から15歳あたりなら有り得そうだ。

 流石に高校生レベルかどうか聞かれたら怪しい。


 そうしているうちに、順番が来てしまった。

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