砂の十字架

時は、9月15日の朝10時半頃であった。


場所は、イオンモール今治新都市の1階にあるスタバにて…


A班のメンバーたちは、ヨリイさんと会ってお茶をのみながらお話しをしていた。


ひどくやつれて、痛々しい姿になった私をみたヨリイさんは、泣きそうな声で言うた。


「よーくん、だいぶやせたねぇ…」

「ええ。」

「よーくんは、去年のクリスマスにお嫁さんを迎えたのね。」

「あっ、はい。」

「(泣きそうな声で)お嫁さんをもらって、幸せいっぱいの時に…こないにやつれて…よーくん…かわいそうに…」


なんともいえんけど…


ヨリイさんは、西日本豪雨が発生した時のことを私に話した。


「よーくん、西日本豪雨が発生した7月6日の夜…施設は大パニックが起きたのよ。」

「大パニックが起きたって…」

「ちいちゃいお子さまたちの泣き声がひどかったわ…パートに出ていたおかあさまたちが帰宅できない状態になったけん、子どもたちがものすごく不安定になっていたのよ…その時、よーくんはどこにおったのよ?」


ヨリイさんが言うた言葉に対して、大番頭はんが答えた。


「ああ、その時は飛行機の中でおました。」

「飛行機…」


私は、ヨリイさんにつらそうな声で言うた。


「その時は、乱気流が発生して…ヘタしたら墜落する危機にひんしていた…フライトスケジュールの変更や操縦室にいる空軍パイロットたちに声がけするなど…右往左往してはりました…」

「(心配げな声で)そうだったのね…」

「(つらそうな声で)どうにかハバロフスクの国際空港にたどり着くことができたけど…そこからインチョン国際空港までのキョリがうんと遠かった…せやかて、直接韓国本土へ向かったら、撃墜されるおそれがあったんや!!」


ウェンビンさんは、その時の状況をヨリイさんに説明した。


「極東ロシアから韓国本土へ直接飛行することはきわめて危険です。」

「どうして危険なの?」

「今年(2018年)は、北朝鮮が建国してから70年目にあたる年です…いえ、そうでなくとも危険であることにかわりはありません…去年(2017年)、北朝鮮が相次いで日本列島に向けて相次いでミサイルを発射したことはご存じですね。」

「ええ…」


私は、つらそうな声でヨリイさんに言うた。


「ハバロフスクからペキンの国際空港とフィリピンを経由して、インチョンまで行った…インチョンに着いた時は、夜遅い時間だった…その上に、胃酸の逆流による胃痛に襲われた…とてもとはいえんけど…」

「そうだったのね…よーくんごめんね…」


ヨリイさんは、コーヒーをひとくちのんでからグチっぽい声で言うた。


「なみちゃんは、なん考えとんかしらねぇ…」

「えっ?なみさんのこと?」


ヨリイさんは、私になみさんのことで知っていることはあるかどうかをたずねた。


「よーくん、なみちゃんのことでなんぞしってはることある?」

「えっ?」


ヨリイさんから聞かれた私は、ものすごくとまどった。


もしかしたら…


ハワイのサロンのこと?


私は、言いにくい声でヨリイさんに言うた。


「なにも聞いてへんけど…」

「そう…困ったわねぇ…」


ヨリイさんは、私になみさんが今どこにいるのかを話した。


「なみちゃんになにがあったのか先生は知らんけど、なみちゃんはわけあって海部郡(徳島県)の知人の家におるんよ。」

「知人の家に転がり込んだ?」

「うん…ホンマに困ったコねぇ…最初のダンナとの間にできた息子さんは、陸前高田で大津波にのまれて亡くなった…なみちゃんの最初のダンナもヤクザのテッポウでドタマぶち抜かれた…ホンマにアカンねぇ…」


なんともいえんけど…


個人で会社や店舗を買収して、それで起業する人たちが多い…


もしかしたら、なみさんはハワイのサロンの一件でトラブったと想う…


私は、そのように想った。


それから数分後であった。


大番頭はんがバックの中から四つ折りの山陽新聞を取り出しながらたつろうさんに言うた。


「あっ、せや…たつろうさんにお伝えしよかと思ってました…今朝の山陽新聞の岡山倉敷版の一番下の方にある三行広告に目を通していただけますか?」

「あっ、はい…」


大番頭はんから四つ折りの山陽新聞を受け取ったたつろうさんは、指定された面を開いて目を通した。


岡山倉敷版の一番下の方にある三行広告にはこう書かれていた。


たつろう、いつ帰ってくるの・姉


三行広告は、たつろうさんの母親違いの実の姉からの伝言であった。


三行広告を見たたつろうさんは、おどろいた声で言うた。


「姉さん…」

「えっ?たつろうさんのお姉さま?」

「母親違いの姉です…もしかしたら…なんぞあったんかもしれん…」


ヨリイさんは、たつろうさんに言うた。


「たつろうさんのご実家は、どちらですか?」

「実家は尾鷲市にあります…けれど…私の本籍地は和歌山県の方にあります。」

「和歌山県。」

「はい。」


大番頭はんは、たつろうさんに言うた。


「もしかしたら、実家でふこうごとがあったと想います…あるいは、たつろうさんに話したいことがあるかもしれまへん…とにかく、和歌山へ行きまひょか?」


このあと、A班のメンバーたちは旅に出た。


A班のメンバーたちは、特大バスに乗ってしまなみ海道を越えてJR岡山駅へ向かった。


JR岡山駅から新幹線ときのくに線特急オーシャンアロー号を乗り継いで新宮駅へ向かう。


新宮駅には、夜遅くに到着した。


この日は、近くの旅館で1泊した。


9月16日のことであった。


この日、女優の樹木希林さんが天に召されたニュースがあった。


歌手の西城秀樹さん、広島東洋カープの選手でプロ野球解説者の衣笠祥雄さん、落語家の桂歌丸師匠、俳優の加藤剛さん、女優の朝丘雪路さん、俳優の津川雅彦さん…


おなじみの著名人のみなさまが天に召されたニュースをきくたびに、胸が痛む…


そして、昭和時代がうんと遠くなってゆく…


話しは戻って…


この日、たつろうさんのおかあさま(政子)が天に召された。


たつろうさんの兄たちも全員亡くなった…


この時、てつろうは20回も再婚離婚を繰り返した末、半年前にゆりことよりを戻した。


しかし、てつろうは8月末に名古屋でヤクザと乱闘を起こした末にテッポウでドタマぶち抜かれた。


和子とゆりこが残されたので、どうしようもなくなった。


時は午後2時過ぎのことであった。


場所は、和歌山県新宮市の熊野川沿いの地区にある斎場(やきば)にて…


A班のメンバーたちは、斎場(やきば)の近くの公園にいた。


たつろうさんは、斎場(やきば)へ行ったけど親類から『帰れ!!』と言われたので、おかあさま(政子)のご遺体と対面できんかった。


たつろうさんは、私たちのもとに帰ってきたあと尾鷲市の実家が売れたことを話した。


私は、おどろいた声で言うた。


「実家が売れた…」

「はい…」

「なんで?」

「さあ、理由はよくわかりませんけど…」

「ほな、残された家族はどないなるねん?」

「さあ、それも分かりません…」


たつろうさんは、ひと間隔あけて私たちに言うた。


「たぶん、この前の(21号)台風と7月の西日本豪雨の時に猛烈な雨に襲われたので…地区が危なくなったと想います。」

「たつろうさんの実家がある地区は、大規模土砂災害の想定区域に指定された地区ですか?」

「ええ、その通りです。」

「他に、なんぞ理由はおますか?」

「いえ…なんも聞いてまへんけど…」


たつろうさんは、ひと間隔置いて私に言うた。


「ヨシタカさん。」

「あっ、はい。」

「ゆりこさんとお会いになりますか?」

「えっ?」

「ゆりこさん、ものすごくつらそうな表情を浮かべていたけど…」


たつろうさんの言葉を聞いた私は、ものすごくコンワクした。


ミンジュンさんは、たつろうさんに言うた。


「会わない方がいいわよ…ヨシタカさんがダメになるわよ…」

「そう…ですか…」

「もういいでしょ…早く旅に出ましょ…」


ミンジュンさんの言葉を聞いた大番頭はんは、出発すると言うた。


「ほな、そろそろ出発しまひょか?」


このあと、A班のメンバーたちは特大バスに乗ってJR新宮駅へ向かった。


その後、JR新宮駅からきのくに線特急オーシャンアロー号と新幹線を乗り継いで岡山駅へ向かった。


夜8時頃、A班のメンバーたちは岡山空港から専用機に乗って旅に出た。


次回、来日予定は未定…


たぶん…


この日で最後になると想う…


私は、ゆりこに会うことができなかった…


けど、それでよかった…


私の帰る場所は、桜子たちとアンナが待っているフレンチリバーの本籍地の家である…


クリスマス休暇の前の日までに…


桜子たちとアンナのもとへ帰りたい…


帰りたい…

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