女の帰郷

翌朝のことであった。


7~8人の彼らが暮らしていたアパートは、昨夜の豪雨による土砂災害で埋もれた。


よいたんぼであった彼らは、土砂に埋もれて亡くなった。


現場は、新たな土砂災害が発生するリスクをはらんでいるので、復旧作業ができない状態にあった。


たつろうさんの実家と周辺では土砂災害による被害はなかったけど、たつろうさんの実家の家族たちは『大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫…』と言うてノンキにかまえていたようだ。


せやけん、いつぞや手痛いしっぺ返しを喰らうことになるであろう。


時は、午前11時過ぎのことであった。


たつろうさんの実家に、たつろうさんの姉(政子の前夫の連れ子)のあずさ(48歳)が二人の子供(中2の長女と小3の前夫の連れ子の男の子)を連れて東京から逃げてきた。


あずさの夫(50歳)が右翼団体の男数人とトラブったことが原因であった。


あずさの夫は、右翼団体の男数人を刃物できりつけて殺した。


それが原因で、投石による住宅被害が出た。


さらには、注文していないのに出前が届くなどのいやがらせを受けた。


あずさの夫は、事件のあと行方不明になった。


あずさは、政子六郎夫婦に助けを求めた。


政子六郎夫婦は、あずさと二人の子供を守るために『ほとぼりがさめるまでうちにいなさい。』と言うた。


「おおきに…おおきに…」


あずさは、政子六郎夫婦に何度も繰り返してお礼を言うた。


政子六郎夫婦は、問題を解決するために弁護士を立ててジダン交渉すると言うた。


しかし、近くに弁護士さんがいてへんけん困っている。


なので、たつろうさんに頼むことにした。


しかし、たつろうさんがどの辺りにいるのか分からないので困っていた。


たつろうは、今どの辺にいてはるのか…


近くに弁護士さんがいてへんけん困っているのよ…


お願い助けて…


政子六郎夫婦は、たつろうさんが帰って来るまで待つことにした。


政子六郎が弁護士さんを立ててジダン交渉すると言うたのはタテマエで、ホンネはヤクザが怖いけんなーんもせえへんと想うけどぉ~


その日の夕方5時過ぎのことであった。


政子が台所で晩ごはんの支度をしていた時に、となり近所の奥さまが勝手口から入った。


奥さまは、借りていた宝みりんのびんを持っていた。


「あら、おとなりの奥さま。」

「多賀さん、ちょうどよかったわ…ちょっとあんたーに話したいことがあるんだけどぉ~」


政子にそのように言うた奥さまは、問題の印刷工場がテイトウに入ったことを伝えた。


政子は『あっ、ほーなん。』と答えた。


奥さまは、政子に行方不明になった機械工の主任の男性のことをたずねた。


「奥さま。」

「なあに?」

「書き置きを残して行方不明になってはる(機械工の主任)くんを見かけんかった?」

「えっ?(機械工の主任)くんは、ケータイ持たずに家出したけん、どこにいるのかわからへんけどぉ~」

「ほーなん…」


奥さまは『(機械工の主任の男性)くんが行方不明になった原因を知っとんよ…』と言うたあと、政子にこう言うた。


「奥さま、(機械工の主任)くんが行方不明になった原因をしっとるけん、今からチクろわい。」

「チクろわいって…どう言うことなのよぉ~」

「ほやけん、あんたーにだけ話すと言うとんよ…うちがチクったこと、だれにも言わんとヤクソクできる?」

「言わんけどぉ~」

「ほんならチクろわい…」


奥さまは、政子に機械工の男性が行方不明になった原因は、キンリンの家のドーラクムスコだと言うた。


「あのねぇ~うちねぇ~2日前に…聞いたんよ。」

「聞いたんよって?」

「ほら、(機械工の主任の男性)くんの婚約者の女性のカレシ・食場(じきば)さん方のドーラクムスコよ。」

「食場さんって、市役所の人事課の職員の人よね。」

「せやけど…」


奥さまは、政子にえげつないことをしゃべりまくった。


「あのねぇ、食場さんのドーラクムスコはねぇ、(花屋の女性店員さん)ちゃんに『お前を迎えに来たよ』と言うてなれなれしく近づいたのよ。」

「『お前を迎えに来た』って…食場さんのドーラクムスコは、なんでそななこといよったんで?」

「事業にセーコーしたからと言よった。」

「事業にセーコーした?」


わけが分からなくなった政子は、頭がサクラン状態におちいった。


奥さまは、さらにえげつないことを政子にしゃべった。


「あのドーラクムスコがどなな事業しよったんかわからへんけどぉ~…そんなんウソに決まってはるわ。」

「(う~ん)…」


政子は、わけが分からずにコンワクしていた。


奥さまは、よりえげつないことを政子にしゃべった。


「ここだけの話しだけど…例のドーラクムスコねぇ…ケーコクくろたわよ。」

「ケーコク…」

「ストーカーしよったけん、ケーサツに呼び出されてケーコクされたんよ。」

「ストーカーでケーコクを受けたって…」


奥さまは、ストーカーでケーコクを受けたドーラクムスコの家庭を政子にボロクソ言いまくった。


「ほやけんボロクソ言わしてもらおわい…あのねぇ…食場さんの家の娘ムコがねぇ…義弟のストーカーが原因で、シュッコウになったよ。」

「シュッコウ…」

「せやせや…あとねぇ、食場さんも近いうちにシュッコウすることが決まるみたいよ。」

「そんな~」

「娘さんもかわいそうねぇ…契約社員で働いていた銀行から正社員で登用する話しを取り消されたわよ。」

「そんな~」

「ドーラクムスコがストーカーしよったけん、家族がヒサンな目に遭うた(おうた)んよ。」

「そりゃまあそうだけどぉ~」

「ドーラクムスコがあななドアホになったんは、食場さんのご主人なんよ。」

「それはどう言うことぉ~」

「どう言うことって、女子職員にセクハラばかりしよったけんよ。」

「そうかしらぁ~」

「食場さんのドーラクムスコはアカンねぇ…アネムコは、アイコー(中高一貫進学校)からトーダイ目指して猛勉強して、トーダイに入って、トップの成績で卒業して、超一流企業に就職して、ドーキで一番に部長にショーシンして…エリートコースひと筋の超まじめなのにねぇ~あっ、みりん返しとこわい…ほな…」


奥さまは、政子にボロクソしゃべりまくったあとみりんのびんを置いて出ていった。


政子は、ボーゼンとした表情でたたずんでいた。

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