ブルージーンズメモリー

それからまた時は流れて…


2000年4月29日の未明頃であった。


場所は、今治市恵美須町3丁目の安アパートにて…


ダイニングテーブルでてつろうの帰宅を待っているゆりこは、イライラしていた。


テーブルの上には、てつろうのお誕生日のお祝いの料理が並んでいる。


深夜1時20分頃、てつろうがものすごくつかれた表情で帰宅した。


「ハア~、つかれた…」


背中を向けた状態のゆりこは、ひねた声でてつろうに言うた。


「あんたなに考えとんで…今、何時なのか時計みてよ!!」


ゆりこに怒鳴られたてつろうは、つらそうな声でゆりこに言うた。


「オレ、しんどいねん…そないにおらぶなよぉ~」

「おらびたくもなるわよ!!」

「おいゆりこ…どないしたんで?」

「ゆりこがなんで怒っとんかが分かってへんみたいね!!」

「オレにどなな落ち度があるんぞぉ~」

「落ち度があるから怒っとんよ!!」


(ビュー、ごつーん!!)


ゆりこは、テーブルの上に置かれていた味の素(化学調味料)の小びんをてつろうに投げた。


小びんは、てつろうの胸に直撃した。


「いたい…なにするんだよぅ~」

「やかましい浪費魔!!」

「浪費魔…オレのことそこまで言うのかよぉ~」

「ええ、その通りよ!!今日、ゆりこの口座に振り込まれる予定のお給料が4000円しかなかったのよ!!手取りで9万7000円のお給料がなんで4000円なのよ!!」


ゆりこの問いに対して、てつろうはなさけない声で言うた。


「ゆりこ…オレが浪費したから減ったんじゃないのだよぅ~」

「ウソつくな!!」

「ウソじゃないのだよぅ~大学の恩師から(大学の)総長のワガママにこたえてくれと言われたんだよぅ~ああ!!」


(ベチョ!!)


ゆりこは、なさけない声でいいわけを言うたてつろうの顔にバースデーケーキをたたきつけた。


ケーキまみれの顔のてつろうは、なんでひどいことをするのかとゆりこに言うた。


「ゆりこ…分かってくれよぅ~」

「はぐいたらしいわね!!ゆりこになにを分かれと言いたいのよ!?」

「オレは、大学の研究所に行きたいのだよぅ~」

「やかましい浪費魔!!お酒をのむこととマージャン打つこととフーゾクでやらしい遊びをすることがお仕事だというたわね!!」

「ゆりこ、総長に気に入られないと大学の研究所に行けないのだよぅ~ああ!!」


(ドカドカドカドカドカドカ!!ガシャーン!!)


怒り狂ったゆりこは、テーブルの上に置かれていた料理をてつろうに投げつけたあと、平手打ちでてつろうの顔を10回叩いて、背中を向けた。


てつろうは、なさけない声でゆりこに言うた。


「ゆりこ…なあ、ゆりこ~」

「甘えないでよ!!あんたのお人よしの性格はリョーシンソックリね!!」


イスから立ち上がったゆりこは、冷蔵庫の中からアサヒスーパードライの500ミリリットル缶2つを取りだした。


つづいて、戸棚からカルビーポテトチップスの大きめの袋を取りだした。


再びイスに座ったゆりこは、缶ビールを一気にゴクゴクのんで、ポテトチップスをバリバリ食べていた。


ゆりこにボコボコにやられたてつろうは、声を震わせて泣いた。


「ゆりこ…信じてくれよぅ~…うううう…総長に気に入られないと大学の研究所に行けんのや…もう一度…大学の研究所で研究したいよぅ~…ゆりこはオレに研究所へ行ってほしいとは思わないのかよぅ~」


てつろうに背中を向けているゆりこは『あんた女々しいわよ…』とつぶやきながらポテトチップスを食べていた。


時は、朝7時半頃であった。


ところ変わって、尾鷲市のたつろうさんの実家にて…


大広間に3・5世帯の大家族が集まって朝ごはんを食べていたが、食卓の雰囲気はどす黒く淀んでいた。


逸郎さよこ夫婦と兼次が家出した。


兼次が3月に発生した地下鉄日比谷線の車両追突事故で亡くなった。


逸郎さよこ夫婦から連絡がないので困っている…


その時であった。


「もう食べん!!」


和子がごはんを残して食卓から出ていった。


つづいて、たけろう由芽夫婦がごはんを残して食卓から出ていった。


みつろう優香夫婦と政子もそれにつづいて食卓を出た。


ひとり残された六郎は、ボーゼンとした表情で周囲をみわたした。


それから数秒後、白ごはんにお茶をかけて茶漬けにして食べていた。

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