第3話

「おーけー」


 羽衣は俺の背中に手をかざし力を送り込み、スローモーションを開始する。


 奴の攻撃に備えろ。俺は脳内で羽衣に語り掛けると同時に89式小銃のトリガーを引いた。


 フルオートで発射された弾丸、赤紫の閃光が凪に向かう。知らない誰かの力が込められた能力弾に羽衣が力を継ぎ足した独特の輝きを放って。


 凪はやはり結衣の盾を出現させて対魔弾を防ぎにかかる。


 その隙に俺と羽衣は凪との距離を詰める、目指すのは盾では防げない近接戦闘。


 羽衣との意識が一つになりお互いの体が一体に感じる、同時に駆け出し弾切れと共に羽衣はマガジンを俺に手渡す。


 時間加速中の俺たちの動きに凪は反応できない、盾で弾丸を弾くのが精いっぱいで空気の刃は向かってこない。


 綾乃さんにはまだ動きが無い、このまま対魔弾を撃ち込むのが正解か? 弾は無限じゃない。


 二つ目のマガジンの対魔弾を凪に打ち込んだ瞬間、凪の姿は消え、俺だけが壁に叩き付けられていた。


「朝波っ!」


 羽衣はその場に取り残され、床に倒れる俺を眺めて不安げな声を発した。


 新川の居住区で不意を突かれたあの時の少年と同じ攻撃、そうか、あれは能力者の力、瞬間移動だったのか…… 今頃気が付いても後の祭りだが。


 凪は今まで殺してきた能力者の特殊能力を取り込んできている、結衣の盾もそうだが他にも多彩な攻撃を絡めてくるかもしれない。


 但し、能力は蓄電池と同じ、いつか限界が来るはずだ。


 小銃はスリングを肩に掛けていたので失ってはいない、凪は更に瞬間移動しないところを見ると、そう何度も出来る技では無いらしい。


 俺は朦朧とする意識の中で凪に対魔弾を放つと、凪はまた結衣の盾を出した、俺はその時を待っていた。


 小銃を撃ちながら立ち上がり、俺は盾を展開する凪に迫る。


「無駄だ!」


 凪はそう言って結衣の盾を大きく広げる。


 跳ね返る対魔弾、俺は盾の前で飛び上がり、奴の顔面に飛び蹴りを食らわせる。


 驚いた顔でよろけた凪、一瞬の隙をついて俺は小銃を放ち、数発が奴の右肩付近を貫く。


「朝波ーッ! クソがっ!」


 凪は苦痛に顔を歪めながら叫び、肩を押え、再び結衣の盾を使って残りの弾丸を弾いた。


 狙い通りとは行かなかったが俺の作戦は功を制し、凪にダメージを与えた。


 俺は強い口調で言った。


「自分の技も把握してねえのかよ、お前は! 結衣の盾は人は通すんだよ! 所詮は盗品、マニュアルが無いからお前には使いこなせねえんだよ」


 羽衣は俺の後ろに回り込みスローモーションを開始する、凪は片腕を負傷し何時もの半分の数しか空気の刃を放てない。


 今まで散々同じ攻撃を受けて来た、それも数は半減、かわすのは難しくない。


「朝波、貴様ッ!」


 凪は盾を展開させたまま攻撃を辞め、負傷した肩を押えて顔を痙攣させるほど怒りながら俺を睨む。


「凪、何で俺たちに執着する? お前の体で遊んだマッドサイエンティストを殺しに行ったらどうなんだ? それなら俺は止めないぜ、復讐して来いよ」


「お前を殺した後でだ!」


「無理だよ、なぜなら此処がお前の死に場所だからだ!」


 俺は羽衣に89式小銃を渡し、対魔弾をフルオートで凪に打ち込ませた。


 凪は羽衣に対峙して盾を展開する、俺は脛の仕込みナイフを抜き凪の横に回り込み、真っ赤に光る羽衣の力を帯びた刃をスライディングしながら奴の右足に突き刺した。


 凪は絶叫して片膝を付き、ナイフを足に突き立てている俺を渾身の力で殴り飛ばした。


 吹っ飛ばされた俺は床に叩き付けられ、息が出来なくなり、ナイフも手のひらから離れ床に回転しながら転がった。


 羽衣はマガジンを入れ替え直ぐに凪を撃ち、俺を援護する。


 凪は盾を展開したまま羽衣に向き直り、発砲する彼女に向かい足を引きずりながら接近し、一気に体当たりして、羽衣は後ろの壁に強く叩きつけられた。


 羽衣は壁から滑り落ちるように倒れ、まるで動かない。


 羽衣の傍に転がる小銃を凪が拾い上げ、銃口を彼女の頭に突き付けるとトリガーに指を掛け奴は俺を見て不敵に笑った。


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