第54話
「おつかれさま!」
ガジが観客席に戻ると、チームのメンバーは良くやったと言わんばかりの表情で迎えた。
「…あ、ああ」
自分が半獣であることを何か言われるかと思ったガジは何も言われなかったことに拍子抜けした。
自分みたいな存在が受け入れられない人間は一定数いることはわかっていたけれど、ここにいる人はそんなことはないのかと少しほっとした。
「お前ら、俺が半獣だって知って何も言わねえのか?」
ほっとしつつも、裏で何か言われるのも癪に触ると思い切って自分から言う。
もしこれで獣人や半獣に良い思いを抱いてないのだとしたら、素直にそう言ってくれたほうがいい。
そう思って投げかけた疑問に返ってきた返事は何を言っているのかという表情や呆れた表情だった。
「獣人だから、半獣だから。…それがなんだって言うんだ? それは努力で変えられないものだろ? だったらそれを責めることないし、ここにいるみんなお前のことを嫌ってると思うか?」
ジルはそう言って周りにいるみんなを見る。
それぞれの表情を見ても負の感情を読み取ることはできなかった。
「ジオール王国は、人間だからと贔屓するような国ではないわ。人種、種族の関係なく平等に接する。もし何か不満があるのだとしたら、それはその人に問題があるわ」
自信を持って言い切るアイシャ。
彼女からしたら日々国を治める王を見てきているのだから、国が人種や種族によってどういった姿勢を取っているのかをよくわかっている。
「もし不当な扱いを受けたのだとしたら、それは不当な扱いをした側が処罰を受ける。…残念なことに、この国に少なからずそういった癌がいることは否定できないわ。
けれど、それも時代と共に少なくなりつつある。
世代が交代して私たちの代になったら、また情勢は変わるでしょうけど…今いる王族の誰も人種や種族によって対応を変えることを考えている人間はいないわ」
人間であることの何が偉いのか。ジオール王国の貴族にに産まれたことの何が偉いのか。
誇ることはあっても偉ぶることがあってはいけないとアイシャはそう告げた。
「ってわけだな。まあ、国がどうあっても、俺はお前の友達のつもりでいるからな」
「…くさいセリフ言ってんじゃねえよ」
ジルとガジは拳を軽く合わせて、笑い合う。
そんな中で、カレンだけはガジのことを笑うこともせず見つめていた。
「どうしたの、カレン?」
「…なんでもないわ。それより、アイシャももうすぐ試合でしょう? しっかり応援しないとね」
エリンが聞くけれど、カレンは話をそらして誤魔化した。
何かあるのかもしれないと思ったけれど、本人が言うつもりのないことを聞くのも悪いとエリンは誤魔化されることにした。
「そうだね。アイシャの次の相手ってどんな人なんだろう?」
「確か、クィン・レマーノ…って人でしたよね?」
キャロルが会話に参加し、三人でクィンという人物を探す。
「…あそこにいる彼女がそうだと思うわよ。さっきも私のことを見ていたから」
アイシャが見つめるその先には、赤い髪が印象的な女の子が真っ直ぐにアイシャを見ていた。
「ロックオンって感じだね」
あはは、とエリンが苦笑する。
当のアイシャはと言うと、見られることなんて気にしていないと闘技場で行われている試合に目を落とし呟いた。
「なんでもいいわ。負けるつもりなんてないもの」
「ジルさんと戦うまでは、ですよね?」
「そ、そんなわけないじゃない!」
「とか言って顔が赤くなってるけど〜?」
「うるさいわよカレン! 余計なことは言わないでいいの!」
と、女性陣が盛り上がってるのをジルとガジは呆れた顔で見る。
向こうは仲良く楽しそうで良いと思いながら、ラシューを交えて男性陣は真面目に試合について会話する。
「さっきの試合で毒使われたみたいだけど、身体の調子はどうなんだ?」
「…良かったら、薬もありますけど」
「お、おう。貰っとく。…つーかお前、さっきまで全然話さなかった割に急に親切になったな?」
「そうですか? 僕は前からこんな感じだったと思いますけど」
「んなわけねえだろ。フード被って誰とも関わりません、ってオーラ出してたじゃねえか」
チームに分けられてすぐのラシューを思い出すガジ。
そうは言いつつも素直にラシューがくれた薬を飲んでいるところを見るに、少しずつは仲良くなっているのだろう。
「まあ、少し前まではそうでしたけど」
いったん言葉を区切り、キャロルのことを見つめるラシュー。
「仲良くしてみるのも悪くはないのかもしれないと思いまして」
「そうかよ」
優しそうに笑うラシュー。
口には出さないけれど、そんな顔してると本当に女みてえだなあとガジは思う。
そう思うほどにラシューの顔は整っていて、浮かべている表情がとても優しいものだった。
「んで、俺は手札を早くも切っちまったわけだけど。ジル、お前はどうなんだ?」
「俺か? …まあ、見てたと思うけど、阿修羅と同じくらい強い相手が出てこなかったら本気になることはないだろうなあ」
ジルは懐にある黒い剣を撫でながらぼやく。
もっと全力で戦ってみたいという気持ちはあるけれど、相手を壊してしまっては申し訳ない。
「その点で言えば、お前とは良い勝負ができそうだな」
「おう、てめえの顔面に拳ねじ込んでやるよ」
いつ戦うことができるかもわかっていないのにお互いを挑発し合うジルとガジ。
間に挟まれたラシューは居心地悪そうに
「…仲良いんですよね?」
と呟いた。
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