第4話 R6

 その日、試乗会で訪れた店のオーナーは自信たっぷりにそのバイクをほめちぎった。

 10年前の年式だが、この年以降のモデルは規制適合の為に年々パワーダウンしてしまい、このモデルで最高にパワーが出ているのがこの年式で、しかも程度の良いお値打ち品、早くしないとすぐに買い手がつくだろう、と押しまくる。

 新型モデルの試乗順番待ちで混雑する店の奥にひっそりと並んだ中古車の中で、ヨーロッパ市場向けの鮮やかな紅白のカラーリングはひと際目立ち、ノーブルないで立ちが買い手のほうを値踏みしているかのように見えた。

 よくある話だが、結局その日新型モデルの試乗はせず、中古の手付に有り金をはたき、すっからかんになりながらも気分は有頂天で引揚げた。


 しかしながら、まんまレーサーの車体に保安部品も付いてます的な仕上がりは、最初からうまく走らせる事などできず、その非常識なポジションと相まって、後悔先に立たずとはこの事かと考えさせられもしたが、そこは惚れてしまえばあばたもえくぼ、どうにかうまく走らせられないかと乗り方を追求した。


 その後、免許証に免停の裏書がされ、タイヤ交換も3回目を数える頃、本来の性能を発揮したR6は、その外観などどうでも良いほどスポーツの道具として彼を夢中にさせ、海沿いのワインディングへ誘い、早朝の林道へ足繁く通わせ、スリッパークラッチの不調でお蔵入りになるまで、二人きりの時間は続いた。

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