Motorcycle Monologue

3時のおやつ

第1話 FJR

 もう30年にもなると言うのに、いまだに寺の住職はその境内に不釣り合いな大きな二輪を見とがめて胡散臭げな視線で彼を見た。

山の斜面に使われなくなった長い石段の参道を登った先に建っているその古い寺は、石段の先にある山門を残して回り込むように境内につながる車道が整備されていた。


 年に一回程度とはいえすっかり通い慣れた場所のつもりで境内まで乗り入れてしまったのだが、白バイにも正式採用されるその巨体はさすがに目をひいたのだろう。

パニアケースから花を取り出すと住職は納得した様子で本堂の方へ帰って行った。


 花と飲み物を手に納骨堂の扉を開け、小さな墓石が立ち並ぶ薄暗い室内を見渡すと、見覚えのある碑銘の前で立ち止まり刻まれた名前にじっと見入った。

思い直したように買ってきた花と飲み物を供え、しばらく手を合わせると外へ出て手水の水で手を洗い、参道の石段に腰かけて溶けかけたソフトクリームを取り出した。


 初めて訪れた30年前の夏、本堂の祭壇に飾られた写真の笑顔はその表情とは裏腹に、こんな事になってごめんなさい、と泣きながら謝っているような気がした。

以来、機会がある度に訪れ、墓石に向かい近況を告げ、再訪を約束した。

彼女は今はもう静かに眠っているだけで自分から話したりはしないが、彼には彼女に話す事がたくさんあった。


 せみの鳴き声に川沿いを走る列車の音が混じり足下を通り過ぎると、遠くから雷鳴が聞こえた。ICから高速に入るとシールドに雨粒が当たり、降り出した雨にFJRのスクリーンを上げた。



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