2_叶わない恋をRE

 どうやら俺は死んだらしい(二回目)


 で、転生した。(ノット異世界)


 その理由は定かではないが、おそらくあの変な電話に出たせいだろう。

 殺された……と言っていいのかは分からないけど、確実に言えるのは、俺は死んで『自分の会社のオフィス』から『自分の高校の教室』へと意識がワープした、という事。

 転生なんていうと、マンガとかラノベみたいな話だけども、いわゆるその類のやつが起きたせいなかもしれんかったのが、ここまであらすじ。(この場合は憑依系タイムスリップか?)

 謎だ。


「という事でぇ、2-3の担任になった志村じゃ。オメエら、くれぐれも問題だけは起こさず進級するように。間違っても授業中に先生が何回『ねー』を言ったとか、咳払いした数とかでトトカルチョなんやるんじゃないよ」


 聞こえてきたしわがれた独特の間延びした声に、えらく具体的な例やな、と内心のツッコミを覚えつつ、俺は自分の置かれた状況を把握していく。

うん。どうやらこれ、10年前、ちょうど高校2年(だいたい2010年くらい?)の四月一日にタイムスリップしたみたいっすね。周りの少年少女の顔とか、教室の雰囲気からしてそんな感じだ。偶然なのかわからんが、同窓会で会う級友たちにマジのリアルタイムで再開、という事らしい。凄まじいもんが起こったものだ。

10年ぶりのノスタルジーな教室のホコリ臭さにため息をしつつ、周りを見渡してみる。すっかり会わなくなった懐かしき面々の若き姿になんだか目頭が熱くなる。おお、外資系でバリバリの須田くんに、キャバクラに行き過ぎて離婚された新藤、あと小学校教員になったもの児童と手を繋ごうとしたら痴漢呼ばわりされ警察沙汰になった野本まで……! やばい、こいつらの未来が分かる俺としてはニヤニヤが止まらない。実はあいつとあいつが付き合ってすぐ別れたとか大体分かるぞ。まさか高校の同級生とこういう形で同窓会するとは全く思わなかったが、これはこれで面白い事になったんじゃねえか? おじさんワクワクすっぞ。


「……はいじゃあ男子のラスト。宮田ケイスケ」

「え、は……はい!」


 とかやってたら、いきなり名前を呼ばれたので会社の新人のようなテンションで立ってしまった。いつの間にか俺の番になってたようだが、恒例の自己紹介のコーナーをやってたらしい。大人になってもやる機会ちょくちょくあるけど、こういう展開でやるのは不思議な感じだ。ええと、所属部署とかは言わなくていいんだよな? 趣味とか無難な事言えばいいんだよな? そう。俺は高校生宮田ケイスケ。思い出せ、昔何やってたのか。何に熱中してたのか。


「ど、どうも宮田です。高校時代は軽音部でエルレとテナーのコピバンを……あー嘘、最近は部活でエルレガーデンとストレイテナーのコピバンをやってました。その他邦ロックは結構分かります。フェスにもちょくちょく行ってたし。あ、アイドルも当時は苦手だったが、社会人になってくると良さが……っていうのを父ちゃんから聞いて、食わず嫌いしないようにしてます! うん! それとアニメ鑑賞も趣味で最近ネトフリで見たのは『はたらく細胞』と『ガルパン』……はまだやってないので、えーと、えーと、あ『とらドラ!』『みなみけ』は全話見てます! あと社畜です」


 なんかすっげー頭使う自己紹介をなんとか乗り切った。うん、皆の目が心なしか引き気味。焦りで饒舌になったのもあるが、この時代ってあんまりアニメを趣味にしてると敬遠されるんだっけか。ラノベ持ってるだけでオタクオタクと陰口叩かれたりとかする、そういう時代。ふ、バカだよな。10年もしたら割と皆気にせずアニメなんて見るのに。

 そう一人でやれやれと大人の余裕を見せてるとこ、まばらな拍手が終わり「次、女子のラストー」と担任が声を掛ける。あのじじい、相変わらず無関心というか、業務的だよな。卒業の時なんて大泣きしてたのに。可愛いじじい。略してかわじい。


「おーい、女子のラストのやつだぞ。えーと、美浜あざみ」

「……っだーもう、二回言わんでも聞こえてるつうの」


 俺の隣の席。先述の昔からの仲の同級生が、突っ伏してたちっさい体を起き上げる。印象の悪い目つきと、デコを出した髪型もあってヤンキーの空気が漂う。実際、この美浜あざみという人間は、見てくれからそう見えてしまう生徒だった。小学校からずっと、それこそ死ぬまで。第一印象は常に誤解されがちな女であった。

 本当はただの、口の悪い、良いやつだが。


「元1-1の美浜あざみ。面倒な事と面倒なやつは嫌い。おしまい」


 そんな彼女が着席、って、早えなおい。

 もっとこうあんだろ。なんだその敵意剥き出しの挨拶。つうか"嫌い"で自分を語るんじゃないよ。はぁ。一生に一度の高校生活なのに、こいつってば……。


「……お前、そんなんだから六月くらいまでクラスで孤立したんだぞ。三年の時もそうだった。大事にしろよ仲間をよ」

「は? アンタさっきから何の話してんの。頭おかしいのは昔からだけど、新学期になって拍車掛かってない? 病気? うわこっわ。隣来ないで。何かに感染する」


 しかし、ここまで悪口を面と向かって言ってくると、おじさんも既に泣きそうである。

 俺としては久々に生で見れたあざみの姿になんとなーく胸が熱くなるものを感じていたのに、なんて仕打ち。その妙にサマになってる着崩した制服とか、相変わらずのツンケンした言動とか、こういう時って感動もんのハズなのにさ。


「ぴんくぱんつ」

「ふん!」


 しかも同クラで隣の席という胸熱展開になったのに、そんなのどうでもよくなるくらいの思きりのいい足蹴りを食らわされた。くそぉ、俺に弁明の余地ないけど、暴力はいけないだろ暴力は。涙目の俺をよそに、面倒くさそうにかわじいの業務連絡コーナーが始まる。よく分かんないプリントの提出期限が云々言われ、あ俺そういや持ち物とかどうなってんだろとかカバンの中を確認したい欲に駆られている最中、『クラス委員男女で一人ずつ選出』のワードに思わず顔を上げた。


そうだ、確か、往々にしてやりたい奴なんていなくて、男子は榊博士(東大三理に行った俺らにとって博士的な人間)が、半ば無理矢理選ばれたんだよな。

 で、女子の方は。


「はーい、はーい! アタシやりたいなー!」


 そこでガタっと席を立って挙手する、健康的で、活発的で、完膚なきまでに俺的美少女な生徒、

 実は、のちに彼女と同じ大学に行って付き合おうと奮闘したが、彼氏持ちゆえに玉砕一直線になってしまったあの子。

 俺の生涯片思い。妄想の中じゃガールフレンド。

 逢瀬おうせまなつが立候補していた——!


「お。逢瀬やってくれるか。あ、でもお前、部活は部長代理じゃなかったか? 掛け持ちになるぞ?」

「部活は他の子に頼めるから大丈夫だと思いまーす! 心配無用! アタシに任せて!」

「そうか。じゃあ逢瀬、頼んだ」


 軽やかにVサインを決める逢瀬は、溌剌とした笑顔を皆に振り撒く。ああ。なんて眩しい。あれ程までに生命力を分け与えてくれる人間がいたものか。素晴らしきかな、JK時代の逢瀬まなつ。大学時代も素晴らしかったけど、この時が一番逢瀬らしい。完全勝利のお知らせである。


「うっわ、なにニヤけてんのよ」


 不機嫌そうな声が隣から飛んできた。あざみだ。目がアブソリュートゼロ。超絶冷たい。


「バ、バカ。ニヤけてねえよ。ただ感慨深いなあと思って」

「なんの感慨よ。気持ち悪い」

「お、おい、健全な男子高校生らしいと言いたまえ(中身は27歳だが)」


そうこうやり合ってる最中、かわじいがクラスを見渡す。

あ、この流れは


「よしじゃあ、男子の方も立候補する者が居れば——」


 その言葉に俺はハッとする。これは、逢瀬まなつとクラス委員やれるチャンスなのでは? ……ああ忘れもしない、文化祭マジックで逢瀬に彼氏が出来ちゃった事。そうそれは、クラス委員で他クラスの委員と交流ができたために、そこでとある男子が逢瀬にアプローチをして始まった恋のエトセトラ。くっそ、許さねぇぞあのクソメガネ。ヤツのせいで俺は大学まで逢瀬まなつを引きずり、結局振られ、彼女が出来ない人生になったんだ……まあ、それは当て付けなんだが、とにかく! 俺の彼女出来ないルートはこの時代に確立された。ゆえに、ここで俺の青春をREしてやる。なんでか分からんが、せっかく貰った二度めの青春チャンスだ。やってやる。俺は彼女を作ってみせる!


「はい! 宮田がやります!」


 勢いよく手を上げた俺の心は、窓から見える睦月の空のように清々しい——

 やった。決まった。俺の勝ちだ。


「あ、武田もやりたいです!」

「じゃあ、真田もやりたいです!」

「ならば、ジュニーニョもヤリマス!」

 ……あれ? と思ったら、なんかバタフライエフェクト起きた件について。


 あー! この野郎!

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