第25話 自分の価値と嫉妬するはるか

 デートから数日後。


「委員長~」

「うん?」


 授業も終わり、はるかと校門で待ち合わせ帰宅しようとしてる時だった。

 声の方向に振りかえると、同じクラスの花野さんからだった。


「花野さんだっけ? どうしたの」

「進路調査票って委員長たちが集めてたよね? はいこれ」


 花野さんが僕に渡してきたのは進路調査用紙。末吉高校では、中間考査の結果とこの進路調査用紙をもとに担任の先生と面談があるのだ。


「うん、ありがとう。それじゃ、これは僕が先生に渡しておくね」

「よろしく! 真島君ってさ、ちょっと雰囲気変わったよね?」

「どうしたの急に?」


 思ってもいなかった言葉に少しびっくりした。そんなに変わったかな、あんまり自覚はないけど。


「だって、あの優木さんと付き合うようになってから明るくなったもん。さっきだって、すごく自然に笑ってたし。さては~、優木さんに愛されてるんでしょ~ほれほれ、お姉さんに少し聞かせなさいよ」

「いやいや、普通だって。というか、花野さんだってただ気になるだけでしょ」


 まぁ、普通に考えてあの優木さんが付き合ってるってなったら気になるよね。肘で軽くつつかれてるけど苦笑するしかない。僕としては話すのも恥ずかしいしね。


「えー気になるなぁ。まぁ、私もこれから部活あるし今度ゆっくり聞かせてもらうからね」


 そう言い残して花野さんは去って行った。なんか小さい嵐のような子だったな……。


「たーかーひーろ!」


 その瞬間、後ろから不満そうな声が聞こえてきた。声の主なんて確かめなくても分かっている。


「どうしたのはるか?」

「どうしたのじゃないわよ。えらく楽しそうに話してたわね。何話してたのよ……」


 はるかはすねたように唇を尖らせている。


「進路調査票をもらって、世間話をちょっとだけ」

「その割には盛り上がってたじゃない……ちょっとついて来なさい」

「ちょっと、はるか!?」


 僕の手を引っ張って歩くはるかの頬は膨らんでいた。そのまましばらく歩いて、人気のない裏庭まできた。はるかは周囲に誰もいないことを確認すると僕のネクタイを引っ張って一瞬だったが、軽くキスしてきた、


「っ!?」

「まったく……彼女がいるのに他の女にデレデレするなんてダメだんだから……」


 はるかは不満そうに僕の胸を軽く叩く。


「別にデレデレなんてしてないと思うけど」

「してた! もしさっきのやり取りで花野さんが隆弘のこと好きなったら……ウヌヌ……」


 どんな想像をしたのか、はるかの顔がくぐもっていく。


「いや、大丈夫だって。それに僕が好きなのは、はるかだけなんだから」

「分かってるけど……それはそれで心配にもなるの!」


 僕としてはどう答えていいのか分からず苦笑するしかない。


「それに私が好きになるのも隆弘だけだし……」


 そんなはるかが可愛くてつい頭を撫でてしまう。すると、不機嫌そうな表情が一転、顔色が明るくなった。


「うん、ありがとう。とりえあず、家に帰ろうか」

「うん!」


 そうして、職員室によって、僕たちはいつものように手をつないで帰宅した。


   ※


 リビングで勉強しながらはや数十分。時折、分からないところをはるかに教えてもらいながらも集中して勉強を進めることができた。ただ、はるかは時々、船を漕いでいた。


「はるか、大丈夫?」

「ああ、ごめんなさい」

「そんなに寝てないの?」


 テスト2週間前をきったくらいからはるかは寝そうになることが多かった。加えて、ボーッとしてることも増え、珍しく料理を焦がすこともあった。


「ええ。でもテスト2週間前くらいからいつもこんな感じだし大丈夫よ」


 そうは言うが、うっすらとだが目にクマができている。テスト週間に入ってから、はるかの根の詰め方が凄かった。早朝から勉強してるし、学校でも休み時間を使って勉強している。放課後も夜もだ。


 改めてと言うか、学年主席の座を維持しているのは、はるかの努力の賜物だということはよくわかった。だけど、心配にもなる。せめてもと言うか、家事も料理もできるだけ僕もやるようにはしている。


(体調、崩さなかったらいんだけど……)


「それに私はあの優木はるかなのよ。学年主席じゃないといけないに決まってるじゃない」

「そんなに無茶しないといけないほど、学年主席って大事なもん?」

「ええ、大切だわ……」


 そう話すはるかの目は怖いくらいに真剣だった。


「そんなことより、私が勉強教えてあげてるんだから下手な点数とったら許さないからね」

「あいあい」


     ※


 私、優木はるかはもともと、頭が良いタイプではない。その証拠にと言うか、中学の頃は成績が中の下、下の上といったぐらいだった。だからこそ、そんな私が学年主席を維持しようとするのなら並大抵の努力では足らない。


 心配してくれた隆弘には悪いけど、無理なんてするに決まっている。ただ、無理を押し通したこともあって、周囲からの評判はすこぶるよかった。もちろん、私が猫を被っているという部分もあったのだろうが、みんなが口をそろえて


「さすが優木さん!」

「やっぱり主席は優木さんだよね」

「あの優木さんだよ? 一位以外ありえないって」


 こんな具合に認めてくれた。


 それに最近、隆弘は私と過ごすことが多くなって、社交性が上がり少しモテるようになった。当然だ。今までは目立たなかっただけで、ルックスも悪くないし優しくて温和。ようやくというか、クラスみんなが隆弘の良さに気づきだした。もちろん、男子だけじゃない。女子の目だってある。


 ただでさえ、私の隣にいるだけで目立つのだ。もしかしたら今後、隆弘のことを好きになる子だって出てくるかもしれない。


 負けられるわけがないし、隆弘の隣を譲る気なんてさらさらない。だからこそ今の自分の地位と価値を守らないといけない。


 私はあの優木はるかなのだ。

 主席だって維持する。

 クラスメイト達だって、当然そうすると思っている。


 だって、その私に価値があるのだから。そうでないと、隆弘の周囲に予防線だって張ることさえままならない。

 

 そうして今日も私は必死に夜遅くまで勉強するのだ。

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