第23話 デートなはるか

手を繋ぎながら、二人で駅前のショッピングモールを歩く。お互いがデートの約束時間よりも一時間早く来てしまったため、予定を変更して先に食事をすることにしたのだ。

 お互いに一時間もはやいのがなんとも言えないところだ。


「隆弘は何が食べたい?」

「そうだね……」


 正直、はるかと一緒にご飯が食べてるのなら何でもいいんだけど……あたりを見回してみるが、目につくのは少し高めの飲食店が多い。他は、ファミレスくらいしかない。駅前ということもあって、見事に二分している。


 だけど、初デートでファミレスっていうのもなんだしな。あらかじめ、お金は多めに降ろしてきているしなんとかなるだろう。


「じゃあ、あそこの─」

「あそこのファミレスのしましょうか」

「えっ?」


 僕の言葉を遮ってはるかが指さすのはファミレスだった。


「初デートだよ? それにおごるつもりだしさ」

「無理しなくていいわよ」


 はるかはそう言いながら苦笑している。


「どうせ隆弘のことだから、初デートにファミレスはやめた方がいいって思ったんでしょ? 気持ちは嬉しいけど、無理しなくてもいいわよ」

「それはそうだけど……」

「大切なあなたとのデートなんだから、負担になるようなことしたくないもの。隆弘にとっても私にとっても」


 はるかは僕の手を握る力を強める。


「だって、デートで一番大切なのは、大好きな人と一緒にいられることじゃない。だから、デートにかけるお金を増やすくらいなら、デートの回数が増える方が私は嬉しいわ」

「…………」


 はるかの話す自然な笑顔になんだか、肩の力が抜けた。


「それもそうだね。ありがとう。デート本とかに書いてるのを鵜呑みにするも良くないね」

「そうよ、同棲してるんだから、お互いの居心地の良い距離感なんてわかってるでしょ」

「もちろん! じゃあ、お店に入ろっか」


 はるかを連れてファミレスに入る。休日だったがピーク前ということもあって、すんなりと座ることができた。周囲には家族連れ含め、カップルがちらほらとみられる。


「うーん……」


 そう悩むようにあたりを見回すはるか。


「周囲のカップルが気になるの?」

「いえ、そうじゃなくて……ほかにもカップルがいるけど隆弘が一番だなって」

「……うん?」


 急にどうしたの! ぶっちゃけ、僕よりカッコいい人なんてあふれるほどいると思うんだけど……


「別にそんな変な事言ってないでしょ?」

「お、おう……」


 嬉しいけど、正直、照れくさくって仕方ない。手元にある水をとりあえずがぶ飲みしておく。


「だって、なんだか信用できなさそうって言うか、隆弘みたいに懐が深くなさそうだもの。私の素の性格知って、趣味を知っても変わらないで接してくれなさそうだもの。だから、私は隆弘と付き合えてすごく幸せだわ」


 そう嬉しそうに話しながら、メニュー表を眺めるはるか。その表情には照れといったものがほとんどなく、さも当然といった事実を話したような感じだった。

 対して僕はと言えば、


「グフッ……」


 本日二度目の吐血モノで机に突っ伏してしまう。


「どうしたのよ?」

「いや、はるかが愛おしすぎてクラッとしただけ」

「~~っっ! もーう……そんな事ばっかりって……」


 そう口では言いながらも嬉しそうだった、その証拠にと言うか、口元も緩んでいる。


「と、とりあえず、そろそろ何か頼もうか……」


 もう一つのメニューを見ながら注文する商品を決める。


「僕は、デミハンバーグセットにしようかな」

「分かったわ」


 はるかはすでに注文する商品が決まっていたようで店員さんを呼び、僕の分まで注文してくれた。それから数分後、注文した商品が運ばれてきた。僕がハンバーグ、はるかがサンドイッチだった。

 そうして、一緒に食べ進めていたのだが、


「うーん……?」


 ハンバーグの味で気になることが出てきた。別においしくないわけじゃないんだけど……なんだろう、この物足りない感じは。


「どうしたの?」


 そんな僕の疑問点が顔に出ていたのか、はるかは不思議そうな顔して尋ねてくる。


「美味しくないわけじゃないんだけど、何か物足りないなって……」

「そうなの? 一口くれるかしら」


 僕は一口サイズのハンバーグをフォークに刺して、はるかにあーんする。


「ああ、なるほど……」


 どうもはるかは一口食べただけで分かったらしい。すごいな。


「隆弘の好みに合ってないんじゃないかしら」

「……どういうこと?」


 自信満々に即答するもんだから聞き返してしまった。


「だって、いつも私が作るハンバーグって隆弘の好みに合わせて味付けしてるもの。このデミグラスソースだって、私なら隆弘に合わせてもっとあっさり目にするわ」

「なるほど……」


 全然気づかなかったし、感心してしまった。それに素直に嬉しかった。


「私の料理の腕って、プロの料理人には遠く及ばないわ。おいしさだって、当然勝てるとも思ってない」

「……?」


「でも、隆弘にとって私が作るごはんが一番おいしいって思ってほしいわ。だから、他の誰かに勝てなくても、私の料理が一番だなって思ってくれたらそれで満足だもの。そのために、好みだって寄せてるのよ? まぁ、そういう意味で言えば、私のたくらみって成功してるかもね」


 イタズラめいた口調で話すはるかを見てると、またしてもクラッと来てしまった。今日、この一日のデートで僕にとどめを刺すつもりなのだろうか?


「って、どうしたのよ。顔まで真っ赤にして……」

「いや、彼氏冥利に尽きるなって……」


 普通にグッときたし、そこまではるかに慕われてて素直に嬉しかった。一体、僕はこれだけ慕ってくれる彼女に何を返せばいいのだろうか。

 あとでお揃いのプレゼントを見繕ってみてもいいかもしれない。


「彼氏冥利って……そりゃあ私は隆弘の彼女だからね」


     ※


 その後も二人で談笑しながら、食事を終え、僕たちはお店を出た。次に向かったのは服屋のルームウェアコーナー。どうしても買いたいものがあるらしい。


「ねぇ、隆弘はこの青のパジャマとピンクのパャマ、どっちがいいと思う?」


 はるかが僕に見せてくるのは、色違いの二着のパジャマ。

 一着は、淡いピンクと白のボーダー柄のフワフワモコモコパジャマで短パンタイプになっている。

 もう一着先ほどの色違いで、青と水色のボーダー柄だ。


「はるかに似合うのは、ピンクの方じゃないかな?」

「分かったわ。買ってくるからちょっと待ってて」

「あいあい」


 そう言って、はるかがレジに並びだしたのを見て、僕も見繕っておいたとある品物をこっそりと購入しておく。


     ※


 それから二人でぶらぶらとウィンドウショッピングをしてデートの帰り道。


「今日は楽しかったね」

「そうだね。またデートしようね」

「もちろんよ。あ、でもこれからテスト期間に入るからテストが終わってからね」


 テスト……赤点とらないように気をつけないと。


「それに勉強なら私が教えてあげるし、一緒にいられるしいいじゃない」


 確かに、そう考えるといつもよりは勉強を頑張っていいかもしれない。


「あ、そうだ」

「どうしたのよ?」


 僕はカバンから先ほど購入したある物を出す。今日のデートが楽しすぎて忘れるとこだった。


「はいこれ。初デート記念に買っておいたんだ」

「え……」


 僕が渡すものをはるかはおそるおそる開封する。予想外の出来事に戸惑っている感じだった。


「わぁ……素敵……」


 中に入ってあるのは子熊のイラストが描かれたオレンジのキーケース。


「一応、お揃いなんだけどどうかな……? ほら、この先もこの鍵を使っていくことになるだろうし」


 女の子にプレゼント送ること自体初めてだから、気に入ってくれるのか正直不安だ。ただ、一日に一回は鍵を取り出すことってあるはずだから、その時に今日の楽しかったデートを思いだしてもらえたなと思う。同じ鍵を持ってる僕らだからこそ、お揃いにするのも価値があると思うし。


「嬉しいに決まってるわ……ありがとう。大切にするわ」


 大切な宝物を抱えるように胸に抱きしめるはるか。気に入ってくれたようで何よりだ。

 こうして、はるかと僕の初デートは無事に終わった。

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