第14話 芽吹く悪意と激怒な優木さん
「真島く―ん! まだなの?」
「ゴメンゴメン。ちょっと、待って」
玄関で待ちくたびれているであろう優木さんから、不満げな声が届いてきた。
準備を整え、慌てて玄関にまで向かう。
「もう遅いわよ。ギリギリなんだから、遅刻したらどうするのよ」
頬が少し膨らんでいる。優等生の優木さんからすれば、遅刻ギリギリというのはイヤなのかもしれない。
ギリギリになっているのは、今日、僕が弁当を作ったことにある。いつも優木さんには弁当を作ってもらっているので、たまには僕も作ってみようと思ったのだ。
「というかさ、僕より先に優木さんが登校しとけばよかったんんじゃないの?」
実際、弁当自体は先にできていた。だから、優木さんが弁当を持って先に学校に行けば、遅刻ギリギリにならないで済むんだし。
(うん、我ながら朝から冴えてるな)
そう思っていたのは僕だけだったようだ。
「次、似たようなこと言ったら黒魔術の書で真島君に呪いをかけるから」
その証拠に、不満そうな表情を優木さんが浮かべていたからだ。
「なんで!?」
いいこと言ったと思ったのに……。
「これで弁当が美味しくなかったら罰ゲームだからね」
「えー、それは困るなぁ……」
楽しそうに話す優木さんと二人で、一緒に朝の通学路を歩く。すっかり、僕の日常となってしまった。こうしていつものように1日を過ごしていくんだと思っていた。
※
「じゃあ私、図書館に寄っていくから先に行ってて」
学校に到着すると、優木さんは僕にそう声を掛け、別方向に歩いて行く。教室に向かって歩いていくと、今日はやけに周囲からの視線を感じた。優木さんと登校しているので、視線を感じることはよくある。だけど、いつもとは種類が違ったのだ。
上手くは言えないんだけど、敵意のような感じだ。教室に近づいていくと、よりはっきりしていく。なんなら、僕のことを指さす人がいるくらいだ。
(……?)
僕自身、敵意を向けられる覚えがない。教室前には人だかりができており、僕がついた途端、その場の空気が凍った。
(嫌な予感がするなぁ……)
こういう予感は当たるものだ。教室に入ると、僕の机と黒板には何枚もの張り紙がしてあった。
張り紙の内容を確認してみると、僕が熟女相手に売春していて、優木さんを脅して無理やり交際を迫っていて、おとなしそうな顔して裏では動物を虐待しているとか様々だ。
(高校生にもなっていじめられるのか……)
目が点になった。それにクラスメイト達も、この噂を信じているというよりは、戸惑っているような印象だった。
とりあえず張り紙をはがして落書きを消せば、いつかは落ち着くと思っていたのだが
「私さ~、見ちゃったんだよねぇ……こいつが金持ってそうなおばさんとホテルに入って行くのをさ~」
静寂さを破るように、髪を明るく染めた派手な女の子がそう言いだしたのだ。リボンの色から察するに3年生なのだろう。
「ほら見てよ、これー」
そう言って派手な先輩がみんなに見せたのは、スマホの画面。画面には、僕とおばさんがホテルに入って行く様子を収めた写真が映し出されていた。
「いや、ちょっと──」
「俺も見たことあるわ。夜中の公園でこいつが動物相手に虐待してるのを。マジビビったわー」
僕の言葉を遮るように、同調する男子生徒が一人。こちらも3年生だった。
「この調子だと、優木さんを脅してるのも案外マジなのかもなー」
そう言って、やたら大きな声で締める。
当たり前だが、僕はそんなことしていない。たとえ虚偽であっても、目撃者がいるのは良くなかった。戸惑っていたクラスメイト達が、徐々に3年生の発言を信じ始めたからだ。
(まずい……)
そう思ったときには遅かった。クラスメイト達が僕を見る視線が変わっていく。
戸惑いから敵意や恐怖へ。
「ちょっと待ってよ! 僕はそんなことしてないって!」
反論するも、一度落ちた信用はなかなか戻らないらしい。僕の発言をみんなが冷めた目で見ているのだ。
どうしたらいいのかと、思った時だった。
教室のドアが荒々しく開かれ、息を切らして入ってくる女子生徒が一人。
「ちょっと、何よこれ……?」
張り紙を見るや否や、声を震わせながら、明確な怒りを携えて発言する女子生徒が一人。言うまでもなく、騒動の渦中の一人である優木さんからだった。
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