第213話 持たざる弱者の叫び声
追記:2024/01/22
可読性の問題から、
ジオ・イクシード・キマイラの名称をジオ・イクシードに変更しました。
―――――――――――――――
全ての魔石を喰らい
その獣が纏うオーラは、尾形がこれまで倒してきた魔物とは一線を画していた。
(くそっ! まさか出現後、さらにレベルアップするとは……)
想定していなかった状況に、尾形は思わず心の内で悪態をついた。
だが、いくら愚痴ろうと事態は好転しない。
尾形は必死に頭を回転させ、自分の取るべき行動を考えた。
戦って倒す?
当然、できるのならそれが一番だ。
このギミックエリアの仕掛け的にも、これだけの強敵を倒せば得られるレベルアップ報酬は膨大。
一段飛ばしで自分はSランク冒険者に近づくことができるだろう。
(――――だが、どうやって?)
しかし、尾形はそのための手段を持ち合わせていなかった。
確かに尾形のレベルは92000と高く、Sランク魔物と渡り合えるだけのステータスを有している。
だが、彼には格上と戦う上で最も重要な経験がなかった。
これまで尾形は格下のダンジョンボスを倒し、攻略報酬だけで成長してきた。
このような危機的状況になど、冒険者になってからの20年間で遭遇したことがなかった。
(ふ、不可能だ。私に敵うような相手じゃない……)
現実を悟り、尾形は無意識に後ずさる。
「お、尾形さん! 助けて、ください……!」
するとその時、部下の一人が苦しそうな声で助けを求めた。
イクシード・キマイラの襲撃を受けた部下たちだが、まだ命のある者もいたようだ。
その部下は先ほど、ケルベロスの魔石を使おうとする尾形を止めようとした人物だった。
そんな部下の助けを求める声を聞いた尾形はというと――
「ふ、ふざけるな! この状況で助けろだと!? 私にこれ以上のリスクを負わせる気か!?」
「そ、そんな……」
――その要請に応える気など毛頭なかった。
既に尾形はジオ・イクシードと戦うことを諦め、どのようにしてこの場から逃げるべきかだけに思考をシフトしていた。
幸い、ギミックエリアの出口は尾形の背後にある。
敵の隙をつけば逃げ切れる可能性はあるはずだ。
尾形のそんな淡い期待は、次の瞬間に砕かれることとなった。
「グルォォォオオオオオオ!!!」
「ッ、またか!? 今度は何だ!?」
再びとなるジオ・イクシードの咆哮。
その声量はこれまでとは比較にならないほど大きい。
何のつもりかと警戒する尾形の前で、
『過剰量の魔石吸収を確認しました』
『過剰分を消費し、イクシード・キマイラが出現します』
「馬鹿な……こんなことが、ありえていいはずが……」
無情に鳴り響くシステム音。
それと同時に、
「グルゥゥゥゥゥ!」
「ウォオオオオオオン!」
「バウッ!」
過剰量の魔石。
その大部分をリヴァイアサンが占めるせいか。鱗と背びれなどを持った個体が多い。
そして肝心の討伐推奨レベルは60000~80000となっていた。
1体ずつなら辛うじて対応できる強さの魔物が10体。
そしてそれを統べるのは、尾形とかけ離れた実力を誇るSランク魔物。
尾形はあっという間に、その集団によって囲まれた。
「うそだ……嫌だ……私は最強の冒険者として君臨する運命を与えられた存在! そんな私がこんなところで終わっていいはずが――」
「ガルゥァァァァァアアア!」
現実逃避の妄言をかき消すように咆哮したジオ・イクシードは、そのまま無防備な尾形に向かって飛び掛かる。
その後、数秒間にわたって持たざる弱者の叫び声だけが響き続けた。
そして――――
「ガルゥゥゥ」
静かに唸り声を上げるジオ・イクシード。
たった一人を喰らっただけでは足りないと言わんばかりの様子だった。
飢えた獣はさらなる餌を欲し、顔を上に向けた。
その先に感じる、数多の冒険者の気配。
それを全て喰らうべく、ジオ・イクシードは本能に従い行動を開始するのだった。
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