第10話 ダンジョンの外で
帰還用の転移魔法が発動し、地上に戻ってくる。
解散する前に、しておかなければならないことが一つ残っている。
「由衣、今回の件についてダンジョン管理人に伝えておくべきだ。冒険者協会にまで情報がいけば、お前を置いて行った奴らに処分が下される」
「え? でも凛さんのおかげでこうして無事だったわけですし、そこまでしなくても……」
「お前が無事であるかどうかは今関係ない。そういった奴らをのさばらせると、他の冒険者にも悪影響を及ぼす恐れがある」
「そ、それもそうですね……っ」
足を踏み出した直後、由衣は急に立ち止まる。
彼女の視線の先を見ると、人が集まるゲートから離れた場所で、4人の冒険者が地べたに座り酒を飲んでいた。
「もしかして、あいつらがお前を置いて行った奴らか?」
「はい、そうです……」
となると、今はダンジョン攻略後の祝勝会といったところだろうか。
はた迷惑な奴らだ。
ただ、興奮しているのか大きな声で話しているため、ここにいても内容を聞き取れるのは助かった。
「いやー、ボスに4人までしか挑戦できないと分かった時は驚いたが、なんとかなってよかったな」
「あそこから引き返すのは体力的に無理でしたからね。まあ、と言ってもボスを倒すのもかなり苦労したんですが」
「あの女の子も参戦できたらもっと楽だったんすかね?」
「あ? 物珍しいヒーラーとはいえ、レベル40ちょいだったんだぞ? MPも切れかかってたし、いたら逆に足手まといになっただろうよ」
「言われてみたら、それもそうっすね。リーダーの判断のおかげで俺たちは助かっちゃいましたよ!」
「はっはっは、もっと感謝しろ!」
「………………」
「………………」
あまりにも不快な言葉だった。
直接被害にあったわけでない俺でもそう思うのだ。
隣にいる由衣はなおさらだろう。
俺は一人で、彼らのもとに歩いて行く。
「あんたら、随分と楽しそうだな」
「ん? ああ、そりゃそうだ! ダンジョン攻略後にやるこの一杯のために生きてるようなもんだからな!」
「そうか、なら残念だったな。今後一切、あんたらがその幸せを謳歌できることはないよ」
「……あ?」
俺から向けられた敵意にようやく気付いたのか、4人の男は怒りで顔を赤くして立ち上がる。
いや、普通に酔っぱらっているだけかもしれないが。
「テメェ、なめてんのか? 今のはいったいどういう意味だ?」
「自分たちが犯した罪を理解していないみたいだな。彼女のことだよ」
背後にいる由衣を指差すと、男たちはそちらに視線を向ける。
そして、大きく目を見開いた。
「おい、俺たちがボスを倒してからまだ10分も経ってねぇぞ。何でアイツが地上にいるんだ?」
「決まってるだろ。二人でボスを倒して帰還しただけだ!」
「んなもん、信じられるか! 俺たち4人でも30分近くかかったんだぞ! あの役立たずと、テメェみてぇなガキがそれより早く倒せるわけねぇ!」
目の前に当の本人がいるのに、認めないらしい。
俺は大きくため息をついた。
「まあ別に、お前が信じるかどうかはどうでもいい。問題は、お前たちが犯した罪についてだ。自分たちが挑むダンジョンボスの挑戦可能人数についても知らなかったくらいだ。冒険者の決まりにも疎いんだろうが……お前たちがやったダンジョン内での同行者の放置は断罪されるべきものだ。最低でも冒険者資格証の停止……最悪、剥奪さえありえるだろうな」
「なっ!」
そこまでの大事になるとは思っていなかったのだろう。
男たちは明らかに動揺していた。
だが、それも一瞬のことだった。
リーダーと呼ばれていた男が、底意地が悪い笑みを浮かべる。
「ははっ、それはそれは、忠告どうもありがとうよ。お礼に俺からもいいことを教えてやる……正義感で行動するなら、相手を選ぶべきだってな!」
言いながら、男は腰に携えた剣を抜き、切っ先を俺に向ける。
「リーダー!? まさか!」
「ああ、ここでコイツを始末する! そうすりゃ、俺たちがやったこともバレねぇし、なんならいきなり襲われて正当防衛で殺したとでも言えばいい! ははっ、死人に口なしってやつだな!」
男の言葉に、覚悟を決めた他の者たちも戦いの構えを取る。
「残念だったな、坊主。今回の攻略報酬で俺たちは全員レベルが70を超えた。テメェ一人じゃ抗いようがねぇよ!」
「70超え、ね……」
確かに70レベルが4人もいれば、100レベル前後の相手なら対等に渡り合えるだろう。
だが――
「調子に乗ってのこのこと現れたことを後悔しながら、死にやが――」
「――どこを見ている?」
――今の俺からすれば、敵ではない。
一瞬で男に接近し、片手で顔面を掴む。
そして力いっぱい、地面に叩きつけた。
コンクリートの地面に、軽くヒビが入る。
「リーダー!?」
「今、何が起きたんだ!?」
ここ数日、スキル選択の際にも速度を上げることを最優先にしていたこともあり、彼ら程度では俺の動きはまともに見えなかったようだ。
「おい、この程度で死んでないだろうな」
「ガハッ!」
片手で男を軽々と持ち上げる。
「お前はさっき死人に口なしって言ってたが……お前らには俺の無実を証明してもらう必要がある。だから死んでもらっては困る」
男を投げ捨てた後、ゆっくりと他の3人の方を向く。
そして俺は告げた。
「さあ、次は誰の番だ?」
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