みはると つづき
翌日、私が学校の教室のドアをがらっと開けると、若干教室がどよめいた。
午前中は事情の説明を学校側にして午後から授業に参加する運びとなっていたのである。てっきり、停学とか食らうものだと思ったけれど、反省文の提出で終わるらしい。どうにも親が私が失踪した段階から結構、話をしていたらしい。まあ、今回に関してはありがたいことである。かかる時間は短い方がいい。いじめに関しては、教師の方から話が出かけたが、私は大丈夫と言って通した。教師はもちろん、一緒にいた父も目を丸くしたが、私には私なりの考えがあるのだ。
「またお前、一人で抱え込むんじゃ・・・」
「今回は大丈夫。試してみたいことがあるだけだから」
そうはいったけれど、教師も含めて顔は心配そうだ。しかし、この教師はこんなに親身になって話を聞いてくれるものなのだな。以前は話したこともなかったのでよくわからなかった。私が声を上げない以上、どうしようもなかったのかね。
「それでも、お前・・・・」
「本当に大丈夫。それに困ったら今度はちゃんと言うから、ね?」
軽く息を吐いて、笑顔でそう付け足す。二人とも、しばらく黙っていたけれど、やがて納得してくれた。さあて、言ったからにはやらないとね。
教室のドアを開けると、案の定、私の席の隣に例の奴らがたむろしていた。浮かべる顔はいろいろだ、警戒する奴、下卑た笑いを浮かべる奴、おびえたような顔をする奴。狙うのは・・・やっぱり中心のあの子かな。
私はにっこりと笑う、そいつらに向けて。全員の表情が凍った。それをよしよしと確認してから、ずんずんとそちらに向かう。できるだけ堂々と、やましいことは一切なく、十年来の友達を見つけたみたいに気軽に向かう。
そのまま、集団の中心めがけて歩く私が通りかけると周りは少し身を引いておかげで特に支障なく、隣の席に座っていた中心の子まで辿り着いた。
「
「「「・・・・・はあ?」」」
周囲は案の定の反応だ。ただそれも構わず、私は中心の子に向かってのみ話し続ける。
「私さ結構、休んでたから全然ノートとれてないんだよね、だからノート見せてよ?
「はあ?私はあんたの友達なんかじゃ・・・」
「あれ?おっかしいなあ。あの日、私の親のところには友達ともめたって連絡があったらしいんだけど」
「はあ、そんなこと誰が・・・?」
その子は途中ではたと気が付いて、周りを見回した。何人かが背後で目をそらした。まあ、これも案の定なんだけれど、あの件を明るみに出したのは中心のこの子じゃないのだ。だって、そんなことしたらいじめが明るみにでちゃうもんね。私が反撃しないことをいいことに、隠れてやっていたこの子からしたら、それは避けたかったはずだし。取り巻きの誰かが勝手に先生にチクったのだろう。
私はわざとあけっぴろげにやにやと笑う。いやあ、人が動揺するさまを見るのは楽しいねえ。ひねくれものの血が騒いでしまう。
「思い出した?私たち、友達でしょ?だからさ、ノート見せてよ」
迫り続けると、中心の子はしばらく唸った後、ため息をついて私に何冊かノートを手渡した。次の授業以外の全教科のノートだ、加えて中身も非常にきれい。なんだ賢そうだとは思ってたけれど随分と優等生じゃないか。
「ありがとう、早めに写して返すね!」
そういうと、周りの取り巻きを無視して、私は隣の席にいそいそと腰を下ろした。周囲の子たちはしばらくぼーっとしていたけれど、ほどなくしてドアがガラッとあき、担任が入ってきた。どことなく心配げに私の方を見ていたので手をひらひらと振っておいた。どちらかというと、そうすることを他の子に見せるのが目的なのだけれど。
授業が始まる、さあて勉強は大事だ。なぜなら望みの大学に入らなければいけないのだから。余裕をもって、大学を選べるだけの学力がいる。普段は姉への劣等感と面倒くささしか感じなかった文章たちが途端に意味を帯びる。いいね、非常にいい。
にやりと笑う。本番はこれからなのだけれど。
翌日、一通りノートを写し終わったので、昨日と同じ要領で集団に近づいた、さすがに二回目ともなると周りの子も警戒しているけれど一貫して無視して、中心の子のみに目を向ける。
「やあやあ、ノートありがとう。見やすくてとっても助かったよ」
私が声をかけているっていうのに、仏頂面で目をそらしている、手だけはノートをちゃんと受け取っているけれど。まあ、なんて嘆かわしいと脳内でお貴族様風に突っ込みを入れてから、続けざまに口を開く。
「お礼になんかおごるよ、帰りにどっか寄らない?」
周囲がどよめいた。いじめとは関係のない子たちまでもが、怪訝な表情をうかべる。周囲の取り巻きが何か言おうとした。さて、どう返してやろうかと若干意気込む、ここからが勝負だ。
「わかった、じゃあファミレスかどっかでいいよ」
「おっけー、楽しみにしといて」
周りの子が反応を示す前に、中心の子がやれやれと私の対応を受けた。周囲のどよめきが強くなる。それを見て私はにやにや笑いながら、席に戻る。さすがに我慢が効かなくなったのか、取り巻きの子が中心の子に詰め寄る。どういうつもり?あれ?・・・さあ、適当に相手する。しばらくしたら満足するでしょ。そう言って、私の方はちらりと見る。わざと聞こえるように言っているみたいなので、私はにやにやと首を振ってあげた。中心の子ははあとため息をつく。残念ながら、ちょっとやそっとで満足してあげる気なんてないのである。
放課後、昇降口で待っていると仏頂面のその子が来た。不機嫌そうではあるが、取り巻きを置いてきた当たり、分かっていらっしゃる。
「じゃあ、いこっか」
「はあ・・・」
返事もそこそこに、私たちは約束通りファミレスに向かった。ただし、人が寄ってこないようちょっと学校から遠いところを選ぶ。
辿り着いて、店に入りメニューを広げた。
「あんた、いくら持ってんの?」
「四千円」
「やっす・・・」
若干、不機嫌そうにそう呟くと私に確認とらないまま、注文ボタンを押して、店員にすらすらとメニューを言い渡していく。ピザ、パフェ、ポテトにハンバーグ、サラダ、ケーキにドリンクバー二つ。・・・どう考えても、食べきれる量じゃないんだけど。それから、さっとスマホを取り出すと電話を開いて、あ、ママ?ご飯いらないから。そう言いきってぱっと切った。私はしばし、苦笑いでそのさまを眺める。
「・・・頼みすぎじゃない?」
「迷惑料よ」
「いや、私も大概迷惑してるって」
「うっさい、おごるって言ったのあんたでしょ」
それからぶっきらぼうに、ドリンクバーを取りに行ったので、私も仕方なく後ろについていく。その子はストレートティー私はカフェオレをもって席に戻ってくる。そういや、ドリンクバーはちゃんと二つ頼んでたんだ。
「で、どういうつもりよ」
「どういうつもりとは?」
ちょっとだけ、わざととぼける。
「なんで、こんな真似してるのかって聞いてるの」
「んー?
正直に話した。相手の顔が軽く歪む、冗談だろとでも言うように、でも冗談じゃないんだなこれが。
私は表情を崩さず、にこりと笑って疑惑の視線を直視し続けた。段々と相手の表情の歪みが強くなる。冗談だと思った言葉が、まさか本当に本気だとようやく理解し始める。
「うそでしょ?」
「まじもまじよ」
さあ、私の闘いを始めましょう。全てはあの場所に帰るために。
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