ヒミツの官邸 ~総理と秘書官のおっぴろげ内閣~

にのい・しち

第1話 阿成《アナリ》総理

 真夜中。

 誰もが寝静まる時間帯に唐突に呼び出された。


 総理付き第一秘書官の私は、区議、都知事、衆議院議員、内閣官房と秘書を経て秘書官へと上り詰めた。

 

 総理付きになって早十年。

 これまでに傍若無人な俺様総理やどっちつかずの優柔不断総理、リーダーシップのないお坊ちゃま総理と、様々な総理に出会ったが、今回就任した総理は一味違う。


 よく男が惚れる男というが、今の総理は力がみなぎり精力的で同性すら惚れさせてしまう程


 王座の間を連想させる重苦しい扉。

 ノックして返答待つ。


「入りたまえ」


 返答を聞き取ったのを確認して取っ手を掴み扉を開けた。

 

 第99代内閣総理大臣、阿成あなり首相。

 とても堅実で聡明なお方だ。


「失礼しま……」


 書斎に入るとマホガニー製の高級感溢れる机に両手を付き、ズボンを降ろして尻を向ける総理がいた。


「あ、阿成総理⁉ なんとあられもない姿を……」


「あぁ、こんなみっともな姿ですまない」


 総理の尻は御年六十とは思えぬほど色白で肌も艶があり、男とは思えぬほど生娘きむすめのように美しい尻だった。

 強いて言うなら、マシュマロ。


 現総理は国民からの指示も上場。

 マスコミも総理の支持率の秘密を探求しているが、私は誰よりもいち早く、その答えにたどり着いた気がした。


 恐らく綺麗な尻の魅力が滲み出ているのだろう。

 誰しも自然と惹きつけられるのだ。


 阿成総理の書斎は広々としているが、動揺を隠せない今の私には、とても狭っ苦しく息をするのも困難なほど圧迫感がある。


 総理は少し声のトーンを落とし、自らの声をはばかるように言った。


「悪いが、入れてくれないか?」


「い、入れる?」


 何を言われたのか咄嗟に理解出来ず、聞き返そうとしたが、この状況で私の想像力が現状を凌駕してしまい、自身で答えを処理してしまった。


「一体なにを……まさか? わ、私のナニ・・を入れろと?」


「突然のことで驚くだろう?」


「いえ!」


 驚くのは私自身なんの抵抗なく、ありのままを受け入れようとしたことだ。


「おしたいする総理の頼みとあらば、甘んじて受け入れます」


 なんてことだ。

 こんな夜更けに私と阿成総理、たった二人の"おっぴろげ内閣"が発足されるなんて。

 

 ともかく、総理を待たせてはならない。

 素早くベルトに手をかけ、ズボンを下ろそうとすると総理の言葉が後を追う。


「実はね……痔を患ってしまってね。悪いが座薬を入れてほしいんだ」


「ざ、座薬? ですか?」


「身体を動かすと尻に激痛が走るから自分では入れられないんだ。こんなこと信頼できる君にしか頼めない」


「しょ、承知しました」


 私は緩めたベルトを力なく締め直した。

 しかし、危なかった。

 あのまま神風のごとく特攻していたら、今頃、阿成総理の肛門は靖国にまつられていた。


 総理がつまんで差し出した座薬は、弾丸のように尖り危なっかしく見える。

 私は差し出された座薬をつまみ、しゃがんで総理の尻の前に顔を近づける。

 その間、総理は溜息を交えて吐露した。


「肛門には悪い物がつまりやすい。私の場合、ストレスがつまり過ぎたようだ」


「総理の職は心労が絶えませんから、お気持ち、お察しします。総理、尻を広げます」


 これは職務であるから総理の尻を広げることに抵抗はない。

 私は両手で色白の尻を鷲掴みにして、天国の門を開くように開口する。


 総理の肛門を前に、私の中の体内時計が時を止めたように硬直し、総理の肛門をジッと見つめた。


 この異様な状況をどう受け止めれば良いのだ?

 まるで禁忌を犯しているようだ。


 ん? 阿成総理の股の上にリンゴがぶら下がっているように見える。

 

 こ、これは――――――――キ◯タマだ。

 総理大臣のキ◯タマだ⁉

 私の前に第99代内閣総理大臣のキ◯タマがある。

 間違いなくキ◯タマだ。

 もはやキ◯タマ総理ではないか!


 いかん、興奮しすぎた。

 総理大臣にキ◯タマは関係なかった。


 このキ◯タマとの距離感。

 冬眠から目覚めたリスが洞窟から這い出た時に、近場の木に実ってる果実を眺めているようだ。


 もう総理の総理大臣なのか総理のキ◯タマなのか解らない。

 いや、どっちも同じ意味か?


 どうすればいい。

 これを掴めばリンゴをもぎ取るように、阿成総理のキ◯タマはもげてしまうのではないだろうか?

 それこそ禁忌を犯してしまいそうで怖い。


 私は目をそらした。

 そして荒れそうな呼吸を整え、いざ阿成総理の肛門と向き合う。


 不思議と総理の肛門を見つめていると、肛門の方も私を見つめているように感じる。

 3つの点が揃うと人の顔に見えるシミュラクラ現象というが、それに近い感覚なのだろう。

 何よりこの穴の奥から何を私に訴えかけているように読み取れる。

 

 深淵しんえんを覗けば、また深淵も見つめ返す。

 私が肛門を見つめることで肛門も、また私を見つめているようだ。

 

 哲学めいてきたが、加齢最中さなかの中年が同じく中年の尻の穴を、わざわざ膝まづいて凝視している。

 傍から見ればこれがどれだけ異様な光景か。


 だが、それでも物言わぬ肛門が何かを説いているように感じる。

 総理の心の声のようなモノなのか?

 私はそんな声に注力するあまり、吐息混じりで問いかけた。


「どうしました? ア◯ル総理……」


「どうしたね?」


 しまった!

 思わず声に出ていたか。

 何か、何か誤魔化せねば。


「い、いえ、やはり一国の首相を務める方の肛門は、堅実なのだなと思いまして……」


 それを聞いた総理は何か察したように、静かに笑いをこぼし皮肉めいたことを口走る。


「フフフ、頭が硬い人間は肛門も硬いということか」


「ち、違います! 断じてそんなことはありません」


 冷や汗が止まらない。

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